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第38話 精霊魔法

「…私もやって良い?」



 依頼最終日である4日目の午後の事だ。

 最後の仕事である凍結草の抽出を3人で終わらせ昼食を済ませた後、昨日に続けてルプラさんの魔法、今日は精霊魔法を披露してもらうという事になっていた。


 しかし、いざ始めようかという所で今まであまり言葉を発していなかったシアさんが先の申し出を口にしたのだ。



「やる…というと精霊魔法を見せて貰えるという事ですか?」


「うん」



 うーん…シアさんからこんな提案が出るなんて珍しいな。


 いつもはあまり表に出てこないで皆の傍に寄り添っているシアさんが皆の注目を集める事を自らやろうとするのは僕が知る限りでは初めての事だった。



 でもこれは良い事ではないだろうか?

 これと言った断る理由もないし本人がやりたいと言っているのだ。

 引っ込み思案なシアさんがこうして積極的に物事に取り組むのは歓迎すべきことだしルプラさんさえ良ければ是非ともやって欲しいくらいだ。



「別に良いわよ、でもハイエルフに精霊魔法で勝てるかしら?」



 そのルプラさんは若干挑発的であったがシアさんの提案を受けてくれた。

 昨晩の食事前に今までの態度の事を謝っていたのだがこういう言い方をしてしまうのは子供ならではの自己顕示欲の表れなのかもしれない。


 そう考えるとシアさんも同じなのかもしれないか…。




 精霊魔法の披露は先にシアさんが行う事になった。

 ルプラさんは種族的にも有利だし得意魔法という事もあるので後で披露して驚かせてあげる! と言ってシアさんに先を譲った。


 確かに精霊魔法はあまり人間には向かない魔法だと聞く。

 そもそも生まれつき精霊を見る事が出来る目をもっていなければ使えない魔法なため人間の使い手はかなり少なく、それに比べハイエルフは一人の例外も無く精霊魔法の使い手であるという事なのでその素質にはかなりの差があると思われた。


 まあ僕自身使えないからそのあたりは詳しく分からないけどね。





 皆が見守る中でシアさんが精霊魔法の行使を始めた。

 シアさんの得意魔法は風であるため扱う精霊魔法も同じ属性になるとの事だ。


 さて、初めて見るけど精霊魔法っていうのはどんなものなのかな?


 魔力に視点を合わせるとシアさんの体から淡い緑色をした光が溢れて来るのが見えた。

 そして溢れた魔力はそのままシアさんの頭上に集まり徐々に形を成していくのだが、ここで僕は少しだけ違和感を覚えた。

 この魔力を操っているのはシアさんなのだがその扱いがあまりにも的確過ぎるように見えたのだ。

 

 どう言ったら良いのか…魔法が求めている魔力を必要に合わせ、かつピンポイントに供給しているとでも言えば良いのだろうか?

 すでに体外に魔力を放出しているため目に見えていないはずの魔力を、()()()()()()()()()()()見ながら操作しているかのような印象を受けた。


 もしかしてとは思っていたがやはりシアさんにも見えているのか…?

 …一応後で聞いてみるかな、精霊魔法独自のものかもしれないし。


 そんな風に考えている間にどうやら精霊魔法が完成に近づいているようだった。

 精霊を見ることが出来ない僕では本来の形を知る事は難しいが、現在目の前にある…いや、居ると言う表現の方が正しいのだろう、その精霊は緑色の魔力を帯びた人型の女性の姿をしていた。

 魔法という形になったため魔力から視点を外しても見えるその姿に僕はなるほどな、という感想を持った。


 おそらくハイエルフが精霊に近い存在と言われるのはこれが理由なんだろうな…。


 シアさんの頭上に現れた幻想的な精霊の姿はルプラさんとよく似ていた。

 外見的な特徴ははもちろんなのだが纏っているオーラとでも言えば良いのだろうか? あそこに現れたのがルプラさんであったとしてもきっと違和感は無かっただろう。

 あえて違いを上げるのだとしたら精霊の方からは感情を感じ取れない事くらいだった。



「え、シア…ちゃん?」


「これは…」


「そんな…どうして…?」



 しかし、その姿を見た僕以外の3人はなぜか困惑しているかのような声を上げていた。


 なんだ?確かにすごい魔法だとは思うがこういうものではないのか?



 呼び出された精霊はそのままシアさんに抱きつくように覆いかぶさるとその体を浮かび上がらせた。

 一瞬大丈夫なのか? とも思ったが、シアさんが特に抵抗する事もなくその動きに身を任せているのでおそらくこういう…飛行系の魔法なのだろう。

 それを示すかのようにシアさんと精霊は見上げる僕たちの上で演舞の様な飛行を披露してくれた。


 すごい…精霊魔法ではない飛行魔法は見た事があったがあれは飛行というよりは浮遊だったからな、精霊魔法だとここまで自由自在な動きが可能なのか。


 魔力の消費が多そうではあるがおそらく精霊の力を介す事によって通常の魔法とは違う効果やその性能を向上させることが出来るのだろう…さすがにここまでのものとは思わなかったが。


 そのまましばらく空を舞っていたシアさんだが、精霊の魔力が切れてその姿が薄れてきたあたりで僕たちの前に降り立ち魔法を解除した。

 魔力の供給が絶たれた精霊はその姿を霧散させ、残ったのは少しだけ疲れた様子を見せるシアさんだった。




「どう…だった?」



 シアさんが僕の前まで近づき問いかけてきた。

 その表情からは少しの疲労が感じられたがやり切ったとでも言うような自信が感じられた。


 まあ実際すごかったしな。


 シアさんの冒険者としての役割を考えれば魔法はサポートに使う程度なのだと思っていたがこれだけの魔法が使えるのであればむしろレノンさんと同じように純粋な魔導士を担当したほうが良いのではないだろうか?

 まあ斥候もPTには必要なのでいきなり変える事は出来ないだろうがシアさんの精霊魔法にはそれだけの価値があるように思えた。



「とても綺麗で素晴らしかったですよ。

 正直これほどすごいものだとは思っていませんでした」


「そう…なら良かった」



 僕の言葉を聞いたシアさんは、言葉少なではあったがちょっとだけ顔を赤らめて嬉しそうな様子を見せた。




 だが……そんなシアさんとは対照的な人物が1人居た。



「なんで! なんで! どうしてあんな精霊が出せるの!」



 それは次に精霊魔法を披露する事になっているルプラさんだった。

 駄々をこねる子供の様に、今目の前で見た光景を認められない、認めたくないという想いを叫んでいた。


 さすがにそんな姿を見せられれば僕も察しがついた。

 おそらく今シアさんが見せた精霊魔法がルプラさんの使えるものより上位のものだったのだろう。

 そんな魔法の後に自分の魔法を見せても惨めになるだけだと考えてしまった事で先ほどの精霊魔法を認められないのだと思った…のだが。



「落ち着いて下さいルプラさん。

 確かにシアさんの精霊魔法はすごかったですがルプラさんの魔法だってすごいですよ。

 それに得意属性だって違うんです、ルプラさんの精霊魔法だってシアさんの魔法とは違うすごさが…」


「違う! そんなレベルじゃないの!

 いつもはなんだって簡単に理解しちゃうのにどうして分からないの!? 馬鹿! ララ嫌い!」


「あっ!ルプラさん!?」



 僕の言葉を最後まで聞く事なくルプラさんは森の奥の方へ走り出してしまった。


 どうする?追った方が良いか?だがこの辺りの地理を知らない僕が闇雲に追っても迷子になるだけかもしれない。

 それにこの辺りは危険な獣がおらず安全らしいし、何より僕が今追った所でルプラさんの気持ちを理解する事は難しいのではないだろうか?



「ま、頭が冷えてお腹が空けば帰ってくるだろうさ」



 立ち尽くしてしまった僕にロメットさんがフォローの言葉を掛けてくれた。



「ロメットさん…」


「お前さんにしちゃ珍しい失敗をしたね。

 まあ精霊魔法を見るのが初めてなら仕方ないのかもしれないが」


「すみません、ルプラさんを傷つけてしまったみたいで…」


「なに、気にする事は無いよ。

 あの子だってバカじゃないんだしお前さんが悪くない事くらいはすぐに分かるさ、それよりも…」



 ロメットさんがシアさんの方を見たことで自然と全員の視線が集まった。

 当のシアさんは良く分かっていないようだったがやはり先の精霊魔法は普通では無かったのかもしれない。



「精霊魔法について少し教えてあげようか、それに…お嬢ちゃんに聞きたい事もあるしね」




 ―――――――――――――――――――――――

 ルプラ




 なんで!?なんで人間の、しかも私よりも小さな子があんな精霊魔法を使えるの!?


 先ほどみた精霊魔法、あれは持続時間こそ短いものであったが精霊を()()()()で顕現させたものだった。

 あれほどの魔法、自分はもちろんだが長く生きたハイエルフであってもそうそう扱えるものではないはずだ。

 フィールでもあそこまで完全な形にはならないし使い手がいるとしたら数十万年以上は生きているであろう長老と呼ばれる一部のハイエルフだけだと思う。


 それをどうしてシアが扱えるのか、信じられないし認めたくなかった。



 私だって精霊魔法はけっこう得意なのに…あんなのの後に見せられるわけないよ…。



 私に出来るのはせいぜい手のひらサイズの精霊を数体呼び出す程度なのであれほどの魔法の後に出せるものではない。

 ララが言う通り私が呼び出す予定だった水の精霊とシアの風の精霊とではその効果は違うものだが見劣りする事は明らかだった。

 


 もー!ララにカッコいい所見せたかっただけなのにー! …はぁ。



 ララの発言に対して反射的に馬鹿だの嫌いだの言ってしまったが、別にララに落ち度があった訳ではない…それでも私の前でシアをべた褒めした事は気に入らなかったが。

 精霊魔法を見るのは初めてだという話だったし、いきなりあれを見せられてもすごい以外の感想を持てないのというのも分かるのだ。

 


 …謝らなきゃ、そして、嫌いじゃないよ、大好きだよって、ちゃんと…ララに…






〈そのような事で良いのか?〉



「え?…あっ…




 ―――――――――――――――――――――――

 ララ




「なるほど…これが普通の精霊魔法なんですね」



 ルプラさんの戻りを待ちながらロメットさんの精霊魔法講義を受けているのだがロメットさんも一応精霊魔法を使えるという事で実際に見せて貰っているのだ。

 だが、そこに現れた精霊は先に見たシアさんのものに比べかなり小さく親指サイズの大きさしかないものであった。


 確かにこれを見た後であればシアさんの精霊魔法がいかに異常なものであるかが分かるな。


 シアさんの呼び出した精霊はシアさん本人よりも大きいものであり、さらに言えばロメットさんの精霊のように存在が希薄なものではなく手を伸ばせば触れることが出来そうなほどに完成された姿だった。



「私も知らなかったよ、まさかシアちゃんがあんな魔法を使えるなんて。

 前に見せて貰った時は小指サイズくらいの小さなものだったけどあんなに大きいのも使えたんだね」 



 カレンさんも先の魔法披露の時には驚いている様子だったのであそこまで大きい精霊は初めて見たようだった。



「精霊魔法ってやつは特に扱いが難しいものでね、熟練した使い手であっても確実に成功出来るものじゃないんだよ。

 …お嬢ちゃん、シアちゃんはどうやってあれだけの精霊を扱えるようになったんだい?」


「あれは…」



 ロメットさんの言葉でシアさんに再び視線が集まった。


 そう、先も少し疑問に思ったのだがシアさんは純粋な魔導士ではない。

 それなのにルプラさんやロメットさんよりも高度な精霊魔法を使いこなすというのはもはや才能という言葉だけでは片づけられない特別な理由があると思うのが普通だろう。



「…本当に少し前、ミルス村で倒れた後から出来るようになった」



 …あの時か、命は助かったが何かしらの後遺症が出てたのだろうか?


 シアさんの容体も気になったが、それに続くシアさんの説明とロメットさんの解説を合わせる事で二つの事が分かった。


 1つは精霊魔法の発動と構造について。

 実際に使えない以上イメージでしかないのだが精霊魔法は器と魔力の二つから成っているようだ。

 まずは精霊魔法使いがその目をもって器となる精霊を見つけて来る、そしてそこに魔力を注ぐ事によって精霊魔法という形になり顕現するとの事だ。

 だが、魔力が見えないものである以上その精霊に適した魔力を注ぐ事が出来ないのが普通であり、そこに差があればあるほど顕現する精霊魔法が弱いものになってしまうらしい。


 つまり、もう1つの分かった事と言うのは…



「…あの時から魔力が見えるようになった」



 予想していた通りシアさんにも魔力が見えていた事だ。


 確かにそれなら上手くいくのも頷ける。

 熟練の使い手が見えない魔力を経験によって注ぐのに対して必要な魔力が全て見えているシアさんは足りない部分に適切な量を注ぐだけなのだ。

 魔力量が少ないため長時間の維持は出来ないようだが短時間であれば熟練の使い手以上の精霊を呼び出せる事になる。



 しかし…シアさんが僕達と同じように魔力が見えるようになった原因、これはもしかして魔物にあるのではないだろうか?

 共通している点は病から回復したら見えるようになった事だけだが、僕達が病の原因を覚えていないとしても同じように魔物の毒に侵されていた可能性もあるだろう。



 うーん、魔物か…やはり記憶にはないがもし実際にそうだとしたら僕とリリナも同じような治療を受けたのだろうか? 両親の話と食い違いが出て来るがあの症状を治すような薬が存在すると言うのがにわかには信じられなかった。


 まあ良いか、どちらにしろ暇を見つけて一度故郷には帰るつもりだったのだしその時に聞けば…



「ララ!待たせたわね!」



 思案に暮れている僕を呼び戻したのは帰りを待っていたルプラさんのものだった。

 しかし…

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