第37話 親の愛
3日目の午後、結婚についてルプラさんをなんとかなだめ昼食を済ませた後だ。
朝に予定していた通り今日の空き時間はルプラさんの魔法の授業…と言う名目で魔法のお披露目をしてもらう事となった。
依頼されていた錬金具の制作も先ほど終わったので、今日明日しかないが残りの空いた時間だけでもルプラさんと一緒に居ようと思う。
「それじゃあ始めるからちゃんと見ててよ!」
「はい、お願いします」
ルプラさんはやる気満々と言った感じだ。
正直言えば僕もルプラさんがどれほどの魔法を使えるか興味があった。
昨日の錬金では慣れていない作業であっても魔力を見事に操っていたし、あれだけの事が出来るのであれば魔法の魔力操作は相当な腕前だろうと思えた。
もともと人間に比べるとエルフの方が魔法の適性が高いと言われているのでその上位種であるとされるハイエルフならばさらに高い適性を秘めているのかもしれない。
「あの子の魔法の才能は大したもんさ」
「そうなんですか?」
お茶を飲んでゆっくりしているだけなのも暇だと言う事でロメットさんも一緒に来ている。
ルプラさんの魔法の先生もしているという話だしもしかしたらロメットさん自身も魔法が得意なのかもしれない。
まあ二人の魔力量からして並ではないのは分かっていた事か。
ルプラさんは種族的なものもあるのかもしれないがロメットさんの魔力量もかなりのものだ。
二人ともレノンさんやミゼリアさんの2,3倍はありそうだし魔導士であればだれもがうらやむ量を持っている。
魔力量だけを見ても魔女の肩書は妥当なものであるだろう。
「私はこれでも魔法の講師をしていた事もあってね、才能を持つ若者は多く見て来たさ。
…でもルプラほど魔法というモノの本質を理解している子は他に居なかった」
ロメットさんはそこで言葉を切って少しだけ昔を懐かしむような遠い目をしていた。
そこには寂しさの他にも様々な感情が入り混じっているようでもあったが、周囲に壁を作っているかのような雰囲気にその内容を問う事は出来なかった。
「ハイエルフだから当然資質はあっただろうけどあの子の才能はその程度じゃない。
育った環境が特殊だったからかもしれないけれど魔法の概念とでも言うべきものをありのまま受け入れる事が出来るみたいだね。
魔法の抽象的な概念は本来命を持つ者には理解しづらいものなんだけれどあの子はそれを手足のように操る事が出来る…あの子の生い立ちを考えれば良い事だとは言えないけれど同じ魔法を志す者としては羨ましくも思うね」
ロメットさんの話を聞きながらルプラさんが披露してくれている魔法を見ているとその言葉の意味をなんとなく理解出来た。
すごい…きれいだ…。
ルプラさんは得意だと言っていた水魔法を中心に風、土、光、闇、おまけに使い手が少ないと言われる木魔法を合わせた6つの属性を同時に操っていた。
彼女を中心にした大地が円筒形に盛り上がり、その周囲には色とりどりの草花が咲きほこる。
その盛り上がった大地の上に水と風の魔法で作った水滴のスクリーンが現れ、それに光と闇が綺麗なコントラストを作り上げていた。
魔法の強度はそれ程強くないのだが、これだけの数を同時に、しかも精密に扱える事に驚きを隠せなかった。
魔法の中には『浄化』のような複合魔法もあるが、あれは構成を作った後に魔力を流すものなので構成さえ作る事が出来ればそこから先は難しくない、発動する魔法は1つだけだしね。
それに比べてルプラさんがやっている事は6つの魔法を同時に操るという普通の魔導士からしたらもはや奇術とでも言うべき代物だった。
僕は3つが限界だしそれすらも安定して扱えるとは言えない、リリナも5つは難しいだろう。
それをこれだけ上手く扱えるのはロメットさんが言っていたような魔法の本質、概念を理解しているという事が理由なのかもしれない。
ん?あれは…?
あまりにも見事な魔法に目を奪われてしまっていたが、良く見るとルプラさんがいつも着ている服が淡い光を帯びており、周囲の魔法に反応するかのように明滅していた。
「あの服は…もしかして魔導武具の一種でしょうか?」
「やっぱり気付いたかい。
あの服、あの子の両親が作った物みたいでね、今となっては形見になってしまったけれどあの子を想う強い愛情を感じるよ。
両親が得意としていた光と闇の核を加工して編んだものみたいでね、並の魔導武具とは比較にならない程の力を秘めているよ」
「形見…ですか…」
ルプラさんを包んでいる淡い光は魔法で傷つく事がないように彼女を守っていた。
おそらくご両親もルプラさんの類まれな魔法の才能に気付きそれによって自らを傷つけることがないようにという想いを込めたのだろう。
でも、僕では今以上の事はしてあげられないよな…。
ルプラさんにはまだまだ愛情を注いであげる存在が必要だ。
今はロメットさんが居るけれど当然の事ながらルプラさんの生からすると短い時間となってしまう。
仮に僕がその役目を引き継いだとしても大差ないだろう。
もどかしく思うが僕では本当の意味でルプラさんを守る事は出来ないのだと痛感した。
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ロメット
優しい子だ。
まだ出会ってから数日しか経っていないルプラの事をこれだけ考えてくれるなんてね。
ララの横顔を見ながら考える。
思い返せば最初の日から一風変わった子だった。
妙に目ざといと言うか、何故そんな事まで分かるのかと思う事を当たり前のように察してくる。
さらには凍結草の抽出は教えていないのに当然のごとくこなしていたし錬金具の製作も瞬く間に終わらせてしまった。
他人を気遣う優しさを持っているし頭の回転も速い。
…まあ異性の気持ちには少し疎いようだけどね。
少し頼りない所はあるけれど、それでも私が死んだ後にはこういう子にルプラを託したいと思う。
…いや、それは難しいだろうか?結局の所同じ人間でしかないし彼にも自分の生活があるはずだ。
もし本気で彼に託すのだとしたらそれこそ先の話のように嫁入りでもさせるしかないだろう。
あの子が嫁入りねえ…。
あの子を引き取ってから10年、最初はあまり気にしていなかったのだが今では本当の娘だと思うようになっていた。
そんな娘が嫁入りするのは寂しくもあるが私自身いつまで面倒を見てやれるか分からない以上そういう手段も必要になってくるかもしれない。
その当人であるルプラはと言うと飽きもせずに元気に魔法を披露している。
初めて会った時に比べれば明るい性格にはなったが、今日のルプラが今までで一番元気で可愛らしく見えた。
ルプラも変わったんだ、私も、いつまでもこんな所に引きこもってる場合じゃないのかもしれないね…。
…ははっまさかこんな歳になってようやくやる気になるなんて…あの子達に感謝しなきゃいけないね。
前々からレオンリバーに越す事を考えていたのだが良い機会だし実行に移してみようと思う。
ルプラを人間に慣れさせる必要もあるし私の研究にも役立つ事だろう。
それにルプラがいつでもララに会いに行けるようになるから寂しさを感じさせないで済む。
なんだ、良い事ずくめじゃないか。
そう考えると今までこの森にこもっていたのがどれほど馬鹿らしい事だったのかと思えて来た。
私の人生だって残り短いんだ、これ以上無駄にするわけにはいかないね!
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ララ
その日の夕食時、朝から姿を見せていなかったシアさんも部屋から出て来ていた。
体調が悪いのかと尋ねると、「少し食欲が無かっただけ、問題ない」と答えるだけで後はこちらの言葉に相槌を返すだけだ。
様子がおかしいとも言えるしいつも通りとも言えるその態度に疑問を感じたが、しきりに話しかけてくるルプラさんの対応をしているうちに意識に外に漏れてしまっていた。
カレンさんの方もそんな態度のシアさんに話を聞こうとしていたのだが、何を聞いても冷静に言葉を返して来るシアさんに打つ手がないようであった。
おそらくここが最後のチャンスだったのだと思う。
僕達がここでシアさんの抱えている感情を聞き出せていれば…翌日に起きる出来事を回避出来ていたかもしれない。
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余談
「ねえ、一緒に寝ちゃだめかな?」
食事を終え、最終日の仕事に向けてそろそろ休もうかなと思った時にルプラさんが部屋を訪ねて来た。
薄手の服に夜着をまといマクラを持って現れた時から若干嫌な予感はしていたのだが、予想通りものすごい爆弾発言を放ってきた。
「ええっと、さすがにそれはちょっと…」
正直な話ルプラさんがそれをやるとしゃれにならない。
いくら年齢的には子供だとしても外見だけで言えば立派な大人の女性だ、しかも極上のと言えるほどに美しいその姿を前にして平然と休める程僕も枯れてはいない。
もちろん手を出したりはしないがおそらく緊張で眠れなくなると思うし、最終日とはいえ仕事に差し支えるのでさすがに受け入れる事は出来なかった。
「だめ…なの?
明後日にはララも帰っちゃうんでしょ?それまでは出来るだけ一緒にいれたらなって…」
うう…勘弁してください…と言えたらどれだけ良いか。
もしかしてとは思っていたがやはりこういった性知識をルプラさんはほとんど持っていないようだ。
自分の可愛さ自体は理解しているみたいだがそれは子供らしいもので、男の子なんだから可愛い女の子は好きでしょ?という程度の知識だ。
ハイエルフが子供を作る周期が数千年から数万年という事だしそれを考えればしょうがない事なのかもしれないが…。
「ルプラさん、そういう事は男性に、特に人間の男性には言ったらいけませんよ」
「どうして?」
どうして?と来たか……どうしたら良いんだ…。
普通に性知識を教えてあげるべきか?でも人間換算で7、8歳くらいなんだよねたしか…。
突っぱねるのは論外として嘘もつきたくはない…ここは褒める方向でいくか。
「…それはですね、ルプラさんのような可愛い人と一緒にいると人間の男性はみなルプラさんの可愛らしさに夢中になってしまうんですよ、独り占めしたいって思うくらいに」
多少ぼかしているがまあ嘘は言ってないな。
「ふ、ふーん…ま、まあそうよね。
私くらいの可愛さだったら人間の男が夢中になっちゃうのも当然よね。
……ララも私の事可愛いって思う?」
「はい、もちろんです。
なので今日は…そうですね、ロメットさんの所で一緒にお休みされてはどうですか?」
ルプラさんは照れつつも上機嫌になってくれたようなのでここで僕に向いていた興味をそらす。
「ロメットの所? うーん…うん! ロメットと一緒に寝るのなんて初めて! 行ってみるよ!
それじゃあおやすみ! ララ!」
「はい、お休みなさい……………………はぁ」
こうして本日最大の危機は去って行った。




