表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/268

第31話 西の森へ

 レオンリバーの街を出た僕たちは現在街道を西進し西の森の魔女の所へ向かっている。


 ここの道はレオンリバーの街に来た時に通った北門からの道と同じで、人通りが多い事もあり管理が行き届いているようようだ。

 さすがに石畳が敷かれていたりはしないが、均された地面がしっかりと固められており歩いて移動するのにはなんら支障はなかった。


 レオンリバーの街からの主要な街道はこの西側の道と北側の道の2つしかない。


 南側、領主の屋敷の後は大きな山になっているため大きな門は無く、東側もすぐにレオンリバーの本流が流れているため道を敷く理由がないからだ。

 そのため街を通過する人のほとんどは北門と西門を利用することになり自然と街道も整備されていったという話だ。



「それにこっちは王都に続く道だしね」


「王都に?」


「うん、もうすぐ見えてくるはずだけど…ほら、あそこで分岐するようになってるでしょ」



 カレンさんが指さす方向を見ると確かに分岐点があった。

 そのまま西進する道と南側に折れる道の2本で、南側に伸びる道の方が明らかに広くしっかりと手入れされているのが見て取れた。



「あそこから南に向かっていけば王都方面ってわけ。

 まあ実際王都に着くまでにはいくつも街を経由する事になるけどね」


「王都かー…」



 ベネギアさんからは軟禁されるかも、なんて脅されたりもしたけれどやはり興味はあった。

 この前の浄化装置なんかもそうだが面白い物も多いだろうし、何より最も情報が集まるだろう王都なら目標の秘薬の情報も手に入るかもしれないからだ。


 結構距離があるという話なので気軽に行くことは出来ないがいつか機会を見つけて行ってみたいとは思っている。



「…王都、行きたいの?」



 王都へ続く道を眺めていると後から声が掛かった。

 森に着くまでは先行偵察も必要ないだろうとの事で一緒に歩いているシアさんだ。


 シアさんの方から声を掛けて来るなんて珍しいな。



「そうですね、やっぱり技術者としては最先端の技術が集まる王都には興味がありますよ」


「そう…なんだ…」



 うーん?なんとも微妙な反応だ。


 最近は少しだけシアさんの感情が分かるようになってきたのだが今回の反応はまったく分からない。

 楽しそうとも悲しそうとも違っていて色々な感情が入り混じっているかのようであった。



「まあ今回は王都じゃなくて西の森ですから。

 ここをそのまま西へ行くんですよね?」


「うん、もう行程の半分は過ぎたからすぐに森に着くよ」



 分岐点を西進しながら先を見てみると確かに木々が増えているよう見えた。


 行程の半分を過ぎて今がまだお昼前だから…確かにあまり遠くはないようだ。

 この先に森があるにしても夕方前には着くことが出来そうだ。




 ―――――――――――――――――――――――




 お昼休憩を挟んでしばらく歩くと森の入口が見えてきた。


 ただ、森と言ってもそれ程大きい物ではなく背の低い木々が群生しているだけの地域だ。

 想像していたミルス村の北の森のような場所は人が住むには不適じゃないかなと思っていたが、これくらいなら安全でかつ食料も程ほどに取れそうなので少人数での生活なら丁度良いかもしれない。



「行って来る」


「うん、お願い」



 森の入口に着くとすぐにシアさんが先行偵察に出た。


 危険が無いと言っても何事にも絶対はなく、特に冒険者なんかをやっているとそういう危険を排除していくことが何より大事なのだそうだ。



 シアさんが先行し少し経ってからカレンさんに付いて森へ入る。


 こうして年下の女の子二人に守られながら進む事に抵抗が無い事もないが、常人と冒険者、特に『レベル持ち』の人と張り合っても仕方がない。

 レベルを持たない人とレベルを持つ人の身体能力は単純に考えて倍以上の差があり、さらに体を鍛えている事でその差が歴然となっているからだ。


 例えば僕がカレンさんと戦うような事になったら数秒と持たずに倒されてしまうだろう。

 なので男だから、なんて意味のない矜持で二人の邪魔をするような事はしない。


 

 そういえば戦闘の訓練をしていた事もあったな…。


 故郷に居た頃、近所に住んでいた元冒険者の人に手ほどきをして貰ったこともあった。

 だが僕自身もすぐに感じた事なのだが、戦いの才能がまったくと言っていいほど無いと言われてしまったのだ。


 武器も魔法も教わった内容を教わった通りにこなす事は出来るのだが、いざそれを実践でやってみるとなると目まぐるしい状況の変化についていけなかったのだ。

 武器の扱いなんかは体に覚え込ませる必要があるという事だったがどうやらそれが致命的に僕と相性が悪く、それ以上はいくら訓練しても上達しなかったため諦める事にしたのだ。


 まあ人には向き不向きってのがどうしてもあるからな…情けないけれどこうして守られながら仕事をこなすのが僕向きって事なのだろう。



「そういえばララさん。

 ララさんのご両親って元冒険者なんだよね?」


「そうですね、リリナから聞きましたか?」


「うん、それで少し気になったんだけど、お二人の両親ってもしかして先「着いた」



 カレンさんの言葉の途中で頭上から声が掛かり、見上げてみると枝の上に乗っているシアさんが不思議そうにこちらを見ていた。


 シアさんが指し示す方向を見ると確かに一軒の家が建っておりそこが今回の目的地である事が窺えた。



「あー…まあ大した事じゃないからまた今度ね」


「はい、いつでもどうぞ」


「…?」



 事情を知らないシアさん一人をそのままにするのは可哀そうなので簡単な説明だけをしておいた。




 ―――――――――――――――――――――――




 目の前の家、魔女が住んでいると言われている家屋は思ったよりも大きく、1人ではなく家族で住めそうなサイズがあった。


 造りは木造と石造の半々くらいで、年季の入ったその見た目からちょっとした台風程度ではびくともしないだろう事が窺えた。

 修繕の跡は所々に見られるが、それがかえって頑強そうなイメージに拍車をかけているのだ。



「けっこう大きいお宅ですね。

 魔女さんはご家族で暮らしているんでしょうか?」


「うーんどうだろ?私も一人暮らしなのかなって思ってたけどその辺りは聞いた事なかったな」



 ふむ、家族で暮らしているのなら多少気を遣う必要があるのかな?…まあ気にしてもしょうがない事か。



「とりあえず入りましょ、本人に聞けば分かるでしょ」



 そう言ってカレンさんが先頭に立って扉をノックする。


 木製のドアに金属の取っ手が付いているだけの簡単な物だがどうもこの扉、何らかの魔法が掛けられているのか微かに魔力をまとっているのが見えていた。

 だからなのかは分からないがカレンさんのノック音が不自然に大きく響いていた。


 コオーーーーン コオーーーーン



「えっ?何これ?」


「何か魔法が掛かっているみたいです。

 ノックの音を大きく響かせるものかもしれませんね」



 これはなかなかに面白いな。

 魔力が抜けるから同じ用途で魔道具を作る価値は無いけれど音の増幅って発想自体はありだと思う。

 こういう使い道は定期的に魔法を掛けなおせる人ならではのやり方だろう。




「誰だい?ギルドの人間かい?」



 ノックの音が響いて少し経ったあたりで中から声が聞こえてきた。

 ギルドの話が出るって事は多分件の魔女の方だろう。



「あ、そうです。

 ご依頼の錬金術師を連れてきました」



 カレンさんがそう答えると扉が開けられて中から一人の人物が現れた。



「待ってたよ、入りな」



 年齢は50半ばくらいだろうか?

 多くの魔導士が着ているようなローブを身にまとった老女だ。


 だが、歳はとっていても疲れたような様子は一切なく力強い覇気のある目をしている。

 魔女と言うよりはどこかの酒場で荒くれ者の相手をしている女将のような印象を受けた。







 老女について家の中に入ると居間のような所へ通された。



「とりあえず自己紹介といこうか。

 私はロメット、魔女なんて呼ばれてるらしいね。

 まあ魔法の研究をしながら錬金術を嗜んでるから間違っちゃいないかもしれないか」



 なるほど、本職?は魔導士なのか。


 言われてから改めてロメットさんと見ると確かにかなり高い魔力を感じた。


 ミゼリアさんの数倍はありそうだな…。



「私は冒険者のカレンです、今回は護衛役として来ました」


「シア、同じく冒険者」



 カレンさん達が自己紹介をしたので僕も続こう。



「僕が今回お仕事の手伝いさせていただくララと言います。

 短い間ですがよろしくお願いします」


「ほう、お前さんか…」



 無難な挨拶を済ませるとロメットさんがさっそくこちらを値踏みするように観察し始めた。

 何かこの感じ前にも……ああそうか、この人多分ブラックさんに感じが似ているんだ。

 悪気は無いんだろうけどこの相手の事を試すと言うか測ろうとする姿勢がそっくりだなと感じた。



「それじゃとりあえず登録証を見せて貰おうか。

 わざわざこんなところまで来たんだから嘘はないだろうが一応ね」


「分かりました、こちらです」



 言われた通りに登録証を差し出す。

 あれから数字の変動は無かったので錬金術のレベルは3のままだ。



「レベルは3ね…一応条件はクリアしているようだけど…。

 後は魔導技術が4に…ん?これは…?」


「どうかされましたか?」



 ロメットさんが僕の登録証を見たまま固まってしまった。

 何か気になる事でもあったのだろうか?



「いや…多分勘違いだね、気にしなくて良いよ。

 それよりさっそく仕事に入ってもらいたいんだがかまわないかい?」


「はい、もちろん大丈夫です」


「そうかい、それじゃあ作業場に案内するからこっちに来ておくれ。

 …ああ、護衛の二人は奥の空いてる部屋で休むと良いよ、札が無い所が空き部屋だから好きに使っとくれ」



 さて、さっそく作業に入るとの事だがどんな風にやるのかな?

 要求されているのが錬金術の3だからそれ程難しい事はやらないと思うがしっかり手伝わないとな。




 ―――――――――――――――――――――――




 案内された作業部屋は居間と同じくらいの広さがあった。


 年季が入った錬金具の数々はかなり古い物であり無数の綻びがあったが、手入れだけはきちんとなされておりロメットさんが大事に扱っていることが窺えた。


 一見しただけだとリリナの部屋に近い印象を受けるのだが、部屋全体が綺麗に掃除されておりリリナの部屋の様な雑然とした印象がまったく無い。



「技術者が自分の仕事場を整えるのは当たり前だろう」



 その事を話すとこんな答えが返って来た。

 是非ともリリナに聞かせてやりたい言葉だ。




 その後はまず仕事の概要を教わる事になった。


 今回扱う物は凍結草と呼ばれる植物の新芽だ。

 この植物、成長するとすぐに凍り付いてしまうという特性をもっており(凍ったまま成長するらしい)、そうなるともう錬金の素材として使えなくなるらしい。

 なので新芽の状態で採取してすぐに処理をしないといけないため応援を呼んで一気にやるのだ。


 熱冷ましや冷却材の材料にもなりレオンリバーでも結構重宝しているそうなので採れる時にある程度の量を集めておくとの事だ。


 作業内容は予想通り初歩的なもので乾燥された素材から薬効の抽出を行うだけだ。

 ただ乾燥されたものはすぐに処理してしまわないといけないので1日のノルマは必ずこなす事、という注意点があった。



「段階抽出はされるのですか?」


「……出来るのかい?」



 ああそういえば段階抽出って一応高等技術なんだったな、レベル3で出来るのはおかしいかもしれない。

 どうするか…一応ごまかしておいた方が良いのかな?



「…いえ、ロメットさんがされるのかなと思って」


「……いや、気にしなく良いよ。

 こいつは段階抽出をしても何も出てこないからね」

 


 ロメットさんからは少し訝しげな視線で見られたがそれ以上は聞かれなかった。




―――――――――――――――――――――――




「ただいまー」



 作業内容の確認が終わりいざ仕事に入ろうとしたタイミングだった。

 誰かが家の中に入って来た音と声がこちらまで響いて来た。


 誰か帰って来たのかな?やっぱり家族がいたのかもしれない。



「ロメットー?こっちー?」



 ロメットさんを呼びつつ一人の人物が作業部屋に入って来た。

 その人物は…。



「あれ?あー今回の仕事を手伝ってくれる人か。

 なよなよしててなんだか頼りなさそうだね」



 初対面でいきなりここまでの事を言われたのはさすがに初めてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ