第32話 ハイエルフの娘
ここから章終了まで視点変更が多くなります。
「なよなよしててなんだか頼りなさそうだね」
初対面でいきなりそんな事を言ってきた目の前の人物、それは…
「エル…フ…?」
目の前にいる特徴的な長い耳をした人物は僕の知る限りではエルフと呼ばれる種族だったと思う。
詳しい事は知らないが、基本的に森から出る事はなく他種族とあまり関りを持たないという事を何かの本で読んだ事があった。
「ふーん?エルフだって事は分かるんだ。
でもそれは正確じゃないわ。
私はハイエルフ、エルフよりも上位に存在する種族よ」
エルフじゃなくてハイエルフなのか…そちらも少しだけなら本で読んだことがあるな。
確かエルフに近い特性を持っているがエルフよりも高い魔力を秘めている種族であり、全員が精霊魔法に高い適性を持っている精霊に近い存在である、みたいな事が書かれていたと思う。
精霊に近い存在か…確かにこれは納得出来るな。
目の前の少女は現実味が無い美しさを持っており同時に可憐な可愛らしさを秘めていた。
美しい人を人形の様なと例える事もあるがまさにその通りだと思う。
最高の素材から神様の手によって形づくられた、そんな表現がぴったりな美しさをしているのだ。
身長はカレンさんと同じくらいの高さなのだが体つきは女性特有の丸みを帯びており、スレンダーながらスタイルの良さが際立っている。
さらに、長く伸びた絹糸の様に白く輝く髪がその姿をより美しく飾っているのだ。
服装も素材は分からないものの白と黒を基調とした動きやすそうなドレスで、そのドレスを身にまとった姿は精霊が目に見えていたらこんな姿なのだろうかと思えるほどであった。
「何言ってるんだい。
ハイエルフと言ってもまだまだ100を超えたばかりの子供じゃないか。
きちんとハイエルフを名乗りたいなら1000は超えてから言うんだね」
「うるさいなーもー
ロメットは細かい事言い過ぎなんだよ」
うーん…見た目はすごい綺麗なのに口は悪いなこの人。
まあとりあえず…
「初めまして、僕はこの度錬金術の依頼で来たララと言います、短い間ですがよろしくお願いします」
「あらご丁寧に、私はルプラよ。
一応ロメットの弟子って事になっているけど私の方が歳は上だからね、きちんと敬いなさい」
そう言ってフンス!と言わんばかりの得意げな顔に…こういうのをドヤ顔って言うんだっけ?
綺麗な外見とはちぐはぐな子供っぽい事をする人だな。
確かハイエルフには寿命が存在しないって話だしそれで100歳くらいならまだ子供と言えなくもない…のかな?
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ルプラ
今年の技術者もなんだかぱっとしない人間だ。
冒険者じゃないから強さやたくましさを求めるのは難しいんだろうけど今回のは特に酷い気がする。
話を聞くと年下の女の子二人が護衛に付いているようだし情けない事この上ない。
顔つきもなんか男らしくないし名前も女性のものだ。
…まあ名前については本人が付けた訳じゃないだろうけど。
…ただ、どちらにしても今の私が望んでいる退屈を埋めてくれるような人には見えなかった。
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ララ
ルプラさんの登場で一騒動あったもののそれ以降の仕事は順調に進んだと言えるだろう。
今日の分のノルマは到着する時間が遅かった事もあり少な目だったが、それでも作業に入ってから1時間は掛からなかったし、手が空いた後のロメットさんの手伝いを含めても2時間は掛からなかった。
晩にもまだ早い時間なので可能なら仕事を続けても良かったのだが、凍結草の乾燥がまだ終わらないとの事で今日の作業はそこで終了となった。
「こんなに早く終わるとはね…」
やはり予定よりも早く終わっていたようでロメットさんも驚いていた。
特に急いで作業をした訳でもないのだが、ベネギアさんの言われた高い技術力と言うのがこういった部分にも表れているのかもしれない。
ただ仕事が早く終わる事自体は良い事なのだが手持ち無沙汰になってしまった。
「他に仕事はありませんか?」
「他にかい?…あぁ」
ロメットさんは少し考えただけですぐに何かを思いついたようだ。
そして先も見たこちらを観察するような視線を向けながらこう続けた。
「魔道具のレベル4を持っているって事は技師としての仕事もやっているんだろう?
出来るならここにある錬金具の修繕を頼みたいんだが…どうだい?」
確かにそれは僕も気になっていた事だ。
長年使い込まれたであろう錬金具は手入れを欠かしていないと言っても綻びがひどく、いつ使えなくなるとも知れない物ばかりだったので修繕出来るのならした方が良いだろうと思っていた。だが…
「出来なくはないですが…新しく作り直した方が良いかもしれませんよ?」
僕の見た所ここにある錬金具の大半は部分的な破損ではなく全体の劣化が問題となっているため、修繕というよりは新しく作り直す必要があるように思えた。
「新しくかい?」
「はい、材料さえあればそれ程難しくもありませんよ」
リリナに頼まれていくつも作ってきたので問題はないと思う。
複雑な機構の物だと難しいが幸いここにある器具はどれも基本的な物ばかりだ。
「分かった、必要なものをリストにまとめとくれ。
ここにある物で足りるようだったら明日にでも頼む事にするよ」
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錬金具の材料をリストにまとめ、ロメットさんを探している時にそれは匂ってきた。
多分何かしらの肉と野菜を煮ているであろうコクのある匂いだ。
そういえば今日は朝早くから結構な距離を歩いたしお昼だって軽くつまんだ程度だったよな。
いつもの食事の時間よりは少し早いが空きっ腹にこの匂いにはかなり惹かれるものがあったので、誰が作ってるんだろう?ロメットさんも居るかな? と、自分をごまかしつつ匂いに惹かれて調理場に向かってみる事にした。
調理場に着くと先ほどの匂いがより強く香ってきて否が応にも空腹感を刺激された。
だが目当てだったロメットさんはおらず代わりに居たのが…。
「あら?匂いに釣られてやってきたの?卑しいわねー」
先ほどの服装の上からエプロンだけを着けたルプラさんが料理をしている所だった。
外見だけを見ればやはり異常なくらいに綺麗なのだが先ほどの子供っぽい行動を見た後では母親の料理を手伝おうとしている幼い娘さんみたいな印象を受けてしまう。
「美味しそうな匂いですね、何を作っているんですか?」
「これ?さあ?別に名前なんてないわよ」
「え…?」
ルプラさんの言葉に不穏なものを感じたので近づいて鍋の中身を確認すると、やはり匂いの通りに肉と野菜を煮たような物が入っていた。
んー、見た事のない料理だ、オリジナルの家庭料理か何かだろうか?
そう思ったのだがテーブルに並んでいる他の料理と見比べる事である事に気付いた。
ああ分かった、ルプラさんの言った名前が無いという言葉はそのままの意味なんだ。
ここに並んでいる料理は多少の差異はあれどどれも同じ食材を使用したものだった。
炒め物や和え物なんかもあるのだがどれも同じ食材が使われている。
多分野菜を余らせて保管したり複数の食材を用意する手間を嫌ったのだろう。
料理が下手な訳ではなく料理が嫌いな人の料理だった。
ある意味家庭料理と言えなくもないのかな…母さんの料理もこんな感じだった気がするし。
「なによ、なんか文句でもあるわけ?」
「いえいえ、どれも美味しそうじゃないですか」
「ふん、ご飯なんて食べちゃえばどれも一緒よ」
ルプラさんは心底嫌そうに料理を続けている。
これ以上は邪魔になりそうだったのでロメットさんへの報告に向かうことにした。
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晩の食事の時間、先ほどルプラさんが作っていた料理は僕たち3人の分もあったようでどうせだから一緒に食べようかとロメットさんに誘われた。
僕としては特に断る理由はないのでご馳走になる事にしたのだが、カレンさんとシアさんの二人はこの申し出を受けるべきか最初は迷っている様子だった。
理由を聞いてみるとどうも先ほどルプラさんと会ってなにかしらあった様だ。
まあこれはしょうがないかなと思う。
ルプラさんのあの対応を見た後では一緒に食卓を囲う事を躊躇うのも分かるしね。
だが最終的には依頼人の好意という事もあり参加する事になったのでこうして5人で食事をとっているのだが…。
どうにも空気が重いな…。
ロメットさんは食事中はあまり話さないのか気にした様子もなく黙々と食事をとっており、同じくルプラさんも不機嫌そうな顔をしつつ無言だ。
いつも明るいカレンさんもこの空気を払拭する手がないのか、もしくはそのつもりがないのか会話を振って来る事もなく、シアさんも…まあシアさんに期待するのは酷かもしれないな。
しょうがない、ここは僕が。
「ロメットさん、先ほどお渡しした材料のリストですが揃いそうですか?」
とりあえず無難そうな相手としてロメットさんに話しかけてみることにした。
「ん?ああ、多分問題ないね。
ただいつやって貰うか…ああ、おまえさんなら問題ないかもしれないね」
「と、言いますと?」
「今日やって貰った仕事があるだろ、あれで半日分の量だからね。
明日以降もやってもらうけれど凍結草の乾燥の都合もあるからね、お前さんなら1日分の量でも半日掛からないだろうさ」
そういう事か…ならその空いた時間を使って錬金具を作れば良さそうだな。
今日やった分の倍の量だと考えてもお昼までには終わるだろうし空き時間は十分だ。
僕がそんな風に明日の予定を考えていると続けてロメットさんがこんな事を言い出した。
後で思い返せばこの発言が今回の出来事の切っ掛けだったのではとも思う。
「…そうだ、ついでにルプラの勉強も見て貰えないかね?」
「え?」
「はぁ!?」
ロメットさんからの頼みはかなり突拍子のないもので、僕だけでなくその内容の当事者であるルプラさんも素っ頓狂な声を上げていた。
「ちょっと待ちなさいよロメット。
なんで私がこんなのに教えを請わないといけないのよ!?」
ルプラさんはもちろんすぐに反対した。
こんなの扱いはひどくないかな?と思うがどうしてそういう話になったのかは僕も気になった。
なんとなく思ってはいたがルプラさんはどうも僕…というか人間の事を余り良く思っていない様子だ。
嫌っているというよりは見下しているとでも言えば良いのか、先ほどエルフよりも上位の存在と言っていた事もあるしハイエルフであるという事に誇りを持つ余り他の種族を下に見ているのかもしれない。
「今のあんたにとって良い先生になると思ったからさ」
「そんなので納得出来る訳ないでしょ!」
ロメットさんの回答とも言えない回答ではやはり納得も出来ずロメットさんに喰ってかかるルプラさん。だが…
「こんな女子供に守られてるような情けないやつに何が出来るって言うのよ!」
「………なら、あなたは何が出来るの?」
激高しているルプラさんに苦言を呈したのは今まで一言も言葉を発していなかったシアさんだ。
その行動に僕だけでなくカレンさんもかなり驚いていた。
感情を読み取りにくいシアさんだけにルプラさんやロメットさんには伝わっていないと思うが強い怒りの感情をルプラさんに向けているように見えた。
「な、なによあんた!?」
「私が聞いている。
あなたはララのように誰かの役に立つことが出来るの?」
「そんなのっ!?……」
ルプラさんはそんなシアさんに対抗しようとしていたが言葉が続かなかった。
そのまましばらくシアさんの事を睨んでいたのだがやはり何も言えないようで、無言のまま食事を再開して食べ終わったらすぐに席を立ってしまった。
シアさんの方はそんなルプラさんの事を気にした風でもなく同じように食事を終わらせてからすぐに部屋に戻ってしまった。
「「はぁ…」」
残された僕ら3人のうちカレンさんとロメットさん二人のため息が重なり、お互いに顔を見合わせてから苦笑いの様な表情を浮かべていた。




