第30話 新たな依頼
???
「ほら、今日はこれだよ。
この前みたいにさぼらずにちゃんとやっておくんだよ」
「はーい、分かりましたー」
手渡された紙片に書かれた内容を確認する。
そこに書かれているのはもう1000回は同じ物を見たと言える程に代わり映えのしない内容だった。
午前中はいつもの薬草の採取に午後からは魔法の練習か…。
はー、毎日同じ事の繰り返しで嫌になっちゃうな。
来る日も来る日も魔法の練習したり薬草取ったり、こんな事に何の意味があるんだろうか…。
ここに住むようになってからもうどれくらい経ったんだっけ?
5年?10年?季節の移り変わりはあるけれどそれを楽しむような心意気を持っていないのでどれくらい経ったのかなんて意識する事は少なかった。
でも…なんでだろう?最近になって退屈を感じる事が多くなってきた気がする。
もっとドキドキワクワクするような毎日を、と以前では考える事すらなかった思いを描くことが増えてきたのだ。
いっそ冒険者にでもなってみようかな?…でも人間の街にはあまり近づきたくないしな…。
森の中に建てられた一軒の家、その居間にある窓から外の様子を窺う。
花でも咲いていれば少しは楽しめたのかもしれないが実際には森が見えるだけで他には何も無かった。
季節はちょうど夏が終わり秋の様子が見え始めたあたり。
ああ、もうそんな季節なのか。
なら今年もまた人間が来るはずだ。
昨年に来た人間は仕事だけを黙々とこなして帰るつまらないやつだったが今年はどうだろう?
この退屈を少しでも埋めてくれるような人だったら良いんだけどなー。
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ララ
まだまだ残暑は続いているが秋の様子が見え始めた頃、僕とリリナのお店はようやく落ち着きを見せるようになってきた。
僕たちがレオンリバーに住むようになってからもう2ヶ月が経ち、開店初日には0人だったお客さんも今ではそれなりに増えて来たと思う。
近所に住む人やクリフの紹介で来てくれた冒険者の口コミによって知られるようになり、職人ギルドからの仕事の斡旋を1つか2つこなせば生活には困らないくらいにはなってきたのだ。
まあ…たまに来る厄介なお客さん?を除けば順調と言えるだろう。
そんな感じでここ最近は特別大きな出来事もなく平穏な日々が流れていた。
…だが月が替わって少し経った頃だろうか、そろそろ何かあるんじゃないか?という根拠の無い予感と共に本当にその何かがやってきたのだった。
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「一つお前に頼みたい仕事があるんだが」
そう切り出してきたのはもうすっかり馴染みになった冒険者のクリフだ。
もう一人、カレンさん程ではないがクリフもたまにお店にやってきてはお互いに近況を話したりしている。
「仕事?でもクリフの仕事って冒険者のだよね?僕に手伝える事があるの?」
「ああ、今回の仕事は毎年恒例のものでな、技術者をある場所まで連れていくっていうものなんだよ。
去年までは受ける事は無かったんだが今回はお前たちがいるからさ、都合が良ければ受けてみようかと思ってね」
なるほど、冒険者ギルドの依頼って聞くと魔獣害獣討伐の印象を持っていたがそういうのもあるんだな。
「へー、面白そうじゃん。
良いんじゃないか?別に危険な場所に行くってわけでもないんだろ?」
クリフの話に興味を示したのは遊びに来ているハンスだ。
レオンリバーに来てからもハンスとはちょくちょく会っていたが、普段は夕方に来て翌日の仕事を終えたらすぐに帰っていたためあまりゆっくりとは話せなかった。
今回はたまたま仕事に余裕があり追加で一泊していくとの事でこうして朝から遊びに来ているのだ。
「そりゃもちろん、ララを危ない場所に連れてったりはしねーよ」
「んー、なら受けてみても良いかな。
僕が行けば良いの?何か条件とかあると思うんだけど」
仕事を受けるのは構わないが詳しい条件を聞かずにただほいほいとついて行くわけにもいかない。
「えーっと、確かレベル3以上の錬金術を持ってる事だったはずだ」
レベル3か、条件としてはぎりぎりだが僕でもクリアはしてる事になるな。
リリナを行かせても良いんだが遠出するのを嫌がりそうだし何より僕が不安だ。
もちろんお店を任せる事にも不安はあるがそれくらいなら良い勉強にもなるしやらせても良いだろう。
「それなら僕が行けば良さそうだね、どれくらいかかる予定?」
「例年だと数日ってとこだな。
泊まりになるけど着替えだけ準備して貰えれば後は向こうさんが揃えてくれるみたいだぜ」
なるほど、本当に人手が欲しいだけって感じだな。
「そういや行先はどこなんだ?わざわざ護衛をつけるって事は近場じゃないんだろ?」
「ああ、それはだな…
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翌日、僕は早い時間からレオンリバーの西門の前で待っていた。
あの後依頼を受ける事が決まったためクリフが冒険者ギルドで手続きをしたのだが依頼人側の都合によって出発が翌日である今日になったからだ。
急な話ではあったが他に急ぎの仕事もなかったので、僕の方はリリナに留守の間の事を伝えベネギアさんへの報告を入れてから出発する事になった。
さて、そろそろ来ると思うんだけど…あっ、来た来…た…?…あれ?
少し離れた位置からこちらに手を振っているカレンさんが見えた。
その後ろにはシアさん、そして辛そうにしているが見送りをしてくれると言っていたハンスも一緒だった。
クリフとレノンさんはどうしたんだろ?後から来るのかな?
昨日の話では4人全員で行くと言っていたのだが…なんか様子がおかしいな。
カレンさんは笑顔なのだがなんだか困ったような苦笑いだしシアさんの方も感情を読み取りづらいが若干呆れているような印象を受けた。
「おはようございます。
…クリフとレノンさんが来られてないみたいですが…何かあったのですか?」
「おはよー。
うん、それなんだけどさ…。
んー、ちょっと言い辛いんだけど二人は来れなくなっちゃったんだ」
「え…」
来れなくなった?なんだろう、急病とかじゃないよね?
「あー心配しなくて大丈夫よ。
あのバカは飲みすぎでダウンしてるだけだから、昨日一緒に飲んでたんでしょ?」
「あー…そういう…」
昨日仕事を受ける手続きを済ませた後に男3人だけでけっこう遅い時間まで飲んでいた。
全員の時間が揃う事がなかなかないのでちょっと羽目を外し過ぎたかなーとは思うが、一応今日の出発に合わせてセーブはしたしクリフにも程々にと忠告したのだが…。
「待ち合わせ場所に来ないからわざわざ迎えに行ってやったのにいきなり吐き出すのよあいつ!あったまきたから蹴り飛ばしてやったわ!」
「はは、程々にね」
なるほどな、それでハンスのやつも辛そうにしているのか。
ミルス村での宴会の時もそうだったけどクリフとハンスの二人はなぜか飲み比べをしたがるんだよね。
「ハンスも今日帰るんでしょ?そんな状態で馬車に乗って大丈夫なの?」
「あ゛ー、大丈夫かって言われたら全然大丈夫じゃないぜ。
…というかお前が一番飲んでたはずだろ?なんで平気そうにしてるんだよ…?」
…まあ確かに僕が一番飲んではいた。
二人が飲み比べをしている横でそれ以上のペースで飲んでいたからだ。
ただ僕の場合酔うには酔うんだけどそこから先はあまり変わらないのだ。
ゆったりと飲んでいても良いのだが昨日は場の雰囲気みたいなものもあってか少しペースが早かった気がする…それでもちゃんとセーブはしていたけどね。
「俺らもララに負けられねーって事で止まらなくなっちまって…あー頭いてぇ…」
うーん…どうやら二人の深酒の原因は僕にもあるみたいだな。
それでも自分の限界を超えて飲んじゃうのはダメだけど。
「酔い覚まし作ってあげたいけど今から出発だからさ、リリナに頼んで作ってもらうと良いよ」
「ああ、そうするぜ。
こんな状態で馬車に乗ったら間違いなく吐くだろうし…」
クリフについてはとりあえず分かった。
しょうがない?と言って良いかは別としてそんな状態で無理に来てもらっても辛いだけだろう。
「それでレノンさんの方はどうされたんです?」
さすがにレノンさんはそんな醜態を晒すようなまねはしないだろうし確かお酒にもけっこう強かった覚えがある。
「パパはお仕事」
僕の質問に答えたのはシアさんだ。
以前に見たことのある仕事用の装備だが今回は危険も少ないと言っていたからか少し軽装だった。
シアさんはレノンさんの事をパパって呼ぶのか…なんか可愛らしいな。
「…」
そんな事を考えながらシアさんを見ていたら視線に気づいたシアさんが恥ずかしそうにカレンさんの後に隠れてしまった、残念。
「お仕事ですか、冒険者以外にも何かされてるのですか?」
「何かしているって言うか…ほら、レノンさんは魔導士でしょ。
だから魔導士協会に所属していてそっち絡みの仕事もあったりするの」
魔導士協会…そんなものもあるのか。
でも分からなくもないか。
魔法ってどうしても危険が伴うものだし管理する団体は必要なのかもしれない。
「今回はなんか軍の方で調べて欲しい物があるとかで呼ばれたみたい。
だからレノンさんも来れなくなっちゃったって訳」
そういう事なら仕方ない、そもそもが急な日程ではあったしこういう事もあるだろう。
「そういう事情なら仕方ないですね。
では今回の依頼はお二人だけが一緒に行くことになるのですか?」
「うん、護衛が二人って少ないと思うだろうけど今回の行先は魔獣の生息地からも離れているからね。
過去の同じ依頼でも魔獣どころか野盗の襲撃も無かったって話だよ」
やはり聞いていた通り安全な場所っぽいな。
まあそうじゃなければ二人欠けた状態で行こうなんて話にはならないだろうけど。
「なるほど、分かりました。
ではどうしましょうか?僕の方はもう準備出来てますのでさっそく出発しますか?」
「そうだね、今から出れば余裕を持って夕刻前に着くと思うけど早い方が良いかな。
最終チェックだけをしてから出ましょ」
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「そうだ!ララ、お前に伝えておかなきゃならない事があったんだ」
出発前の最後の確認をしているとハンスが突然声を上げた。
「ん?何かあったの?」
「ああ、実はミルス村の事なんだが…
ハンスの話を要約するとこうだ。
村の住人、特に年配の人達が僕の店が無くなった事に不満を抱いているらしい。
元々村にはお店が無かったのだが、一度その便利さを知ってしまったせいでビレムさんの所にどうにかして欲しいという嘆願書がいくつか来ているという事だ。
だがお店に使える建物はほぼ崩壊してしまっており、人手があれば良いという話でも無いので定期的に商品を届けてくれないかというお願いだった。
「おっけー、それじゃあ週1くらいで良いよね?商品は…最初は僕の方で選んでみるけど何か注文があるようだったら連絡ちょうだい」
「ああ、それで頼む」
僕としても気にはなっていたので丁度良かったと思う。
色々とお世話になったビレムさん、困った時にはいつも助けてくれたミリアさん、ハンスの両親や他にもお店を利用してくれた多くの人がいるミルス村には大きな恩を感じているのでその助けになれる事は嬉しかった。
値段もレオンリバー内で扱うわけじゃないからぼったくりの様な価格にしなくてすむしね。
「それじゃそろそろ出発するよー」
カレンさんの号令でハンスに見送られながらレオンリバーの西門を出る。
今回の行先は、通称『西の森の魔女』と呼ばれている人の所だ。
そこで毎年この時期にだけ採れる薬草を使った錬金薬を作るために助っ人を呼んでいるとの事。
錬金薬作りにも惹かれるものはあるが、個人的にはこの魔女さんに興味があった。
けっこう高齢だという話だが『魔女』なんて呼ばれている人だし只者ではないと思う。
僕の研究や目標のヒントになる何かが得られるのでは、そんな期待を今回の仕事には抱いていた。




