2章幕間3 守る者
ガーネリフ
「それで?そっちはどうだったんだ?」
「なんの話だ?」
目の前の男、この街の領主をやっているベネギア・ウォーレットが唐突に尋ねて来た。
今日は定期報告…という名目で旧友を訪ねて来たのだがどうやらあまり機嫌が良くないようだ。
「あの兄妹の話に決まっているだろう、そちらでも報告したんじゃないのか?」
「ああ、あの兄妹の話か。
もちろん報告はしたさ、上にやつらはまったく信じていなかったがな」
あの兄妹、ララとリリナだったな。
先日発生した魔物騒ぎで色々と活躍してくれたのだがその報告を受けた軍の上層部は虚偽の報告…とまではいかないが過大評価しているものとして受け取っていた。
魔工技師で魔核の対処が可能ならその方向も模索して見たかったのだがおそらく叶わないだろう。
「そちらの人間は大雑把で良いね、こっちはどう報告したものかと頭を悩ませているというのに…」
「まあそれはお前が選んだ道だからな、頑張ってくれとしか言えないさ」
ベネギアはかなり疲れた顔をしている、気のせいかシワも大分増えてきたように思う。
…いや、それは俺も同じかもしれんな。
「はぁ……アンナ、すまないが退室してくれないか」
「はい、かしこまりました」
いつもの事なので心得た様子でメイドが退室する。
相変わらずというか…こいつは気にし過ぎだと思う。
立場上体裁が大事なのは分かるが知っている者にまで隠す必要はあるまい。
「じゃあなにか?軍はあいつらに関わる気は無いって事か?」
「相変わらず口が悪いなお前は、まあそういう事だ。
次に魔核が発生してもあいつらに依頼するつもりはない」
ベネギアの素の話し方は初めに会った時からこんな感じだ。
領主という立場に着くことで体裁を繕う事を覚えたようだが他に人が居ない時は昔の話し方に戻る。
「ま、俺個人としてはいくつか頼みたい事はあるが…結構な被害に遭っていたししばらくは様子見だな」
こちらも合わせて昔の話し方にする。
こいつとももう長い付き合いだ。
まだ学生だった頃からだから20…いや、そろそろ30年近くになるのか。
卒業してからは道を違えたがこの街の発展を願っているという所では共感出来たのか未だにこうして交友があった。
「はぁ…普通に有能なだけのやつらなら良かったんだがな…」
「それは俺も分かるさ。
うちのレオーネなんかは普通に有能だから重宝しているがこれがお前の娘、アリシアだったら扱いに困っていただろうよ」
「アリシアか、確かに娘もそうだな。
俺としては普通に育ってくれりゃ良かったんだがな。
有能も過ぎると良い事ばかりじゃないって事だ…」
そういう事だ。
普通に有能なやつは周囲からの期待に応えてすばらしい働きをしてくれる者が多い。
だが有能過ぎる者は周囲から奇異の目で見られ、場合によっては利用しようという悪意を持った者まで現れる。
何事もほどほどが一番という事だな。
「それで?お前はあの兄妹をどうしたいんだ?」
「それが決まってたらお前に話したりしないさ。
娘…ミゼリアも最近あの兄妹の店に通っているみたいだから無下にする事も出来ん。
ある程度は釘を刺しておくが結局は様子見しか出来ないってこった。
いっそ王都にでも越してくれりゃ助かるんだがね」
ミゼリア…あの嬢ちゃんか。
あの娘はあの娘で扱いに困っているんだがこれ以上こいつの悩みを増やすのはやめてやろう。
「まあ愚痴ばかり言っても仕方ないだろ。
俺たちに出来る事はそういう問題も含めて若い奴らを守ってやる事だけさ。
お前だってそのつもりなんだろ?」
「ああもちろんだ…クレアにも誓ったからな、誰もが安心して暮らせる街を作ると。
……すまんな、こんな事を話せるのはお前くらいしかいなかったんだ」
「いいさ」
俺たち大人が出来るのはその程度の事だけだ。
だが、あの二人は特に注意する必要がありそうだ。
今はまだ良いがこれからあの二人が何かをするたびにその名を知る者が増えていくだろう。
そうなった時に俺たちだけで守ってやれるのか…少し考えておく必要がありそうだな。




