2章幕間2 冒険者(1)
俺の名前はザナキ、冒険者だ。
15歳の男で剣と盾を使った前衛、タンクと呼ばれる役割を担当している。
とは言っても冒険者のなったのはつい最近の事なのでまだまだ新人、故郷の村を友人達と一緒に出て冒険者登録を行ったのはついひと月ほど前の事だ。
…そんな俺はいま恋をしている。
唐突だと思うだろう。
でも聞いて欲しいんだ、俺が運命の人と出会う話を…。
そうだな、まずは俺の冒険者仲間から紹介しようか。
一人目はソン、15歳、男。
レンジャーで登録をしており役割は当然斥候や罠解除等、戦闘では後衛よりで戦う事になっている。
性格はお調子者のムードメーカーで故郷に居たころも皆の中心で笑いをとっている事が多かった。
ただ少しばかり酒癖が悪くすぐに女の子にちょっかいを出そうとする所が玉に瑕だ。
二人目はラグンナ、14歳、こいつも男。
精霊魔法を使えるという希少な才能を持っていた為ヒーラーとして登録している。
小柄でなよっとした印象を受け顔立ちも男っぽくないので初めて見た時は女の子かと思った。
…実は女の子だったり?という事はないぞ、モノを見た事があるので間違いない。
だがこいつは見た目に反して武器の扱いは上手く、俺と一緒に前衛に出ることもあった。
そして最後はゲルモ 16歳、…当然こいつも男だ。
攻撃魔法を扱う魔導士であり貴重なアタッカーだ。
有効な攻撃が出来るレベル3以上の魔法は土のみだが、他にも火や水などのサバイバルにも有用な魔法はもっている。
性格は…まあ魔導士には多いのだが理屈っぽい感じの真面目なタイプだ。
それでも俺たちと居る時は多少ハメを外したりとノリが悪い訳ではないので仲良くやれている。
聞いての通り男ばかりの4人PTなのでむさ苦しいとは思うが、もう10年以上の付き合いがある親友なので不満は無い。
それに、偶然ではあったがほぼ完璧なPT構成になっていたので文句を言う方が間違っているだろう。
次はこの話、冒険者を目指した理由と初めての依頼を失敗した時の事だ。
冒険者を目指した理由は単純だ。
仕事で故郷の村までやってきた冒険者が格好良く見えたり一獲千金も狙える夢のある職業だったりと子供心に憧れる要素がいっぱいあったからだ。
そして、そんな憧れを持った俺達4人はいつか冒険者になろうと、俺たちで伝説を作るんだと約束したのだが…。
成長し、冒険者ギルドでの登録を行い、これから俺達の伝説が始まるんだ!という意気込みを持って挑んだ初依頼で俺達の自信は早々に打ち砕かれることになってしまった。
俺達だっていきなり難しい依頼をこなせるとは思っていなかったので、最初は初心者向けだと言われた暴食猿の討伐を受けた。
こいつは作物を荒らすだけの大型の猿で、雑食ではあるが臆病なので自ら人に襲い掛かる事はない。
もちろんこちらが攻撃をしかければ反撃してくるが、せいぜい石を投げられたり引っかかれたりする程度で大怪我をするような事はほとんど無いとの事だった。
手始めにその依頼を受け、街のすぐ近くの現場に討伐に乗り出したのだが…俺たちが倒せたのは依頼内容である10匹の内2匹までだった。
最初はゲルモの魔法による奇襲で1匹を仕留めこれは行ける!と思った。
だが攻撃用の魔法はそれ程乱発出来るものではなく、まだまだ未熟なゲルモは2発目を外した所で魔力が尽きてしまいほとんど動けなくなってしまった。
こちらが攻撃を仕掛けたので当然相手からも反撃があり、それを防ぎながら俺とラグンナの剣、ソンの弓で攻撃をしたのだが…もう1匹を倒した所で戦線を保てなくなり逃げ帰る事となった。
当然依頼は失敗だ。
初心者用の依頼という事で罰則は無かったが、その初心者用の依頼すらまともにこなせなかった事で俺達は自信を喪失してしまっていた。
この時は冒険者はやめて故郷に帰ろうか、という話も出たし俺もそれに賛成しようとしていた。
だが…この失敗のおかげとでも言うべきか、俺は運命の人に出会えたのだ。
そう、最後はこの話、俺と運命の人との出会いだ!
依頼を失敗した俺たちに助言を、という事で先輩冒険者のクリフさんとカレンさんから話を聞かせて貰う事になった。
二人の話はためになる事が多く、初めて依頼を受けるのなら大ガエルの討伐も比較的簡単なのでオススメだという話も聞かせてもらった。
だがその中で「魔法薬は持っているのか?」という話が出た。
先輩たちの話では、そもそも新米冒険者は魔法薬を必要とするような相手と戦う事自体避けた方が良いが、備えておけば万が一の事態にも対処出来るので持っておく方が良いとの事だ。
…だが、その話を聞いても魔法薬の準備は難しいと答えるしかなかった。
魔法薬自体がけっこうな高級品であるうえに使用しなくても魔力が抜けてしまえば使えなくなるという問題があるからだ。
自分たちの懐事情では買えても1つだけで、それすらも使わなければ無駄な出費となってしまう。
それを全員分用意しようものならいくら依頼を達成したとしてもその報酬が全て消えてしまう事だろう。
「それなら良い所を紹介してやるよ」
―――――――――――――――――――――――
ザナキ
「ここか…名前は出ていないけれど確かに錬金薬も扱っている店みたいだな」
俺たち4人は一軒の店の前まで来ていた。
魔法薬を買う余裕が無い事を先輩たちに告げた際に紹介されたお店だ。
なんでも他のお店よりもかなりの格安で魔法薬を売ってくれるという話で、これから新しい依頼を受けようと思っている俺たちはここで魔法薬の準備を出来ればと思ってやってきたのだ。
「うーん…俺はさっきのファムっていう色っぽいねーちゃんが居たお店の方が良かったなー」
「綺麗な人を見るとすぐそれだねソンは、どうせ僕らみたいのは相手にされないよ」
「俺は魔法が使えるならどっちでも良いがな。
だが、俺たちの手持ちでは向こうの店では買えないだろう」
ソン、ラグンナ、ゲルモも魔法薬の購入には賛成してくれたのだがあまり積極的ではなさそうだ。
まあ気にしていてもしょうがないしまずは入ってみよう。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると若い男性…と言っても俺よりは年上っぽいけど、が声を掛けてきた。
あまり背は高くないな、優し気だしラグンナが成長したらこんな感じかもしれない。
「すみません、こちらで魔法薬が安く手に入るって聞いて来たのですが…」
「ああ、魔法薬ですね。
安いかどうかは分かりませんがうちでは大銅貨5枚で扱っていますよ」
「えっ!大銅貨5枚!?」
その値段を聞いてソン達も「まじで安いな!」「本当だったんだね」「いや、いくらなんでも安すぎないか?」などと言っている。
確かに安すぎると思う。
相場が変動しやすい品ではあるようだがそれでも安い物で銀貨2枚はする品だ。
それが大銅貨5枚、同じ金額で4つも買える値段となればその異常さで不安にもなるだろう。
「はい、うちの品はプリム草ではなくポポの草を使用した物なので」
プリム草?ポポの草?…ってなんだっけ?
確かプリム草は薬草だってどこかで聞いたような気がするがポポの草の方はまったく聞き覚えが無い物だ。
「すみません、俺にはよく分からないんですが他の魔法薬に比べて何か問題があるのですか?」
安かろう悪かろうとも言うし多少品質が悪い事は覚悟しているが、あまりにも極端なものでなければ我慢して購入するつもりだ。
「いえ、以前軍の方にお売りした時も問題があったとは言われなかったので大丈夫ですよ」
「え、軍に…ですか…?」
「ええ、一度だけですが」
軍に魔法薬を提供している…というのは少し引っかかった。
こんな小さな…しかも話に聞くと越して来たばかりだというこの店は、軍との繋がりがあるようにはとても見えなかったからだ。
いや、それは今重要な事ではないな。
今大事なのは軍に提供しても問題がない品質だったという事だ。
この話が嘘じゃないという証拠は無いが、確認する方法も無いし何より先輩方から紹介されたお店という事もあったのでここで購入してみる事にした。
「…では、それを人数分、4つお願いします」
「はい、ありがとうございます。
ではさっそく作成に入りますので少々お待ちください」
注文を終えたので俺たちはしばらくそこで待つことになった。
この時の俺は注文をしたのだから出来るまで待つ事に何の疑問も抱いていなかった。
本来魔法薬の作成というのはかなりの時間が掛かるもので、受け取りは後日になるのが普通だという事すら知らなかったのだ。
―――――――――――――――――――――――
注文をしてからどれくらい経っただろうか?
次の依頼について軽く立ち話をしていただけなので短い時間だったようにも思う。
そんな中ゆったりとした声と共にその人は現れた。
「出来たよー」
彼女を見た瞬間、俺は今まで感じたことのない強い衝撃を受けた。
目の前に現れた人物、背は俺と同じくらいだから女性としてはかなり高い方だろう。
だがそれに反した華奢な体躯と穏やかで優し気な相貌は絵物語で見たお姫様の様でゆったりとした透き通るような声も慈愛に満ちており、まさに地上に舞い降りた女神そのものであった。
その後は気がつくと商品を受け取って店を出ていた…はずだ。
あまりにも衝撃的だった為自分の行動をはっきりと覚えていないからだ。
ただ、宿に戻ってから名前だけでも聞いておくんだった!とかなり後悔した。
その後の事を少しだけ話すと、まずは依頼について。
オススメだと言われた大ガエル退治は上手くいった。
暴食猿に比べると大きくて耐久力もあるのだが、動きが鈍いこともあって俺やソン、ラグンナの攻撃でも時間を掛ければどうにか倒すことが出来るのだ。
もちろん相手だってただ倒されてくれるはずもなくピンチになる場面もあったのだが、魔法薬(ラグンナとゲルモの分は微量の魔力回復効果が付与されていたとの事だ)のおかげもあって無事に切り抜ける事が出来た。
…ゲルモのやつがやたらと魔法を乱発してたのが気になったが…。
まあそんな感じで無事依頼を達成出来た。
そしてもちろんあのお店にも通っている。
用事が無い時に行くような事はしないが幸いな事に機会は多かった。
魔法薬の購入もなのだが、使わずに魔力切れになった魔法薬に格安で魔力を入れ直してくれるサービスまでやってくれるとの事だったので、まだまだ生活が苦しい俺たちにとっての大きな助けとなってくれている。
そして、そのついでという事で名前を教えて貰う事にも成功した。
リリナさん、もう一人いた男性の方とは兄妹でミルス村で暮らしていたらしいが事情があってこの街に来たとの事だ。
兄妹でというのも珍しいなとは思ったが、その話を聞くまではもしかしたら恋人や夫婦なのでは…と危惧していたため安堵したのを覚えている。
俺と運命の人、リリナさんとの出会いの話は以上だ。
正直まだ名前を憶えて貰っているのかすら怪しいが、俺が一人前の冒険者になれたあかつきには想いを伝えようと思っている。
その為にも今はひたすらに頑張る、いつか俺のお姫様の隣に立てるように。
―――――――――――――――――――――――
余談
「しっかしお前、随分とあの娘にお熱みたいだな」
「なんだよ、お前たちにはリリナさんの魅力が分からないのかよ?」
「あの人僕より背が高いからね…確かに可愛らしい人だとは思うけどザナキほど夢中になれるかって言うと違うかな」
「ふぅ…まあ俺は特に興味無いが応援はしてやるよ。
お前がそこまで熱を上げた事なんて今まで無かったしな」
俺以外の3人にはリリナさんの魅力は分からなかったようだ。
だから俺は声を大にして宣言した…後ろで聞いている人が居る事にも気付かずに。
「俺は一人前の冒険者になってやる!そしていつか、リリナさんを俺の「いつか、リリナさんを俺の?何?」
聞こえてきた声は先日アドバイスをくれた先輩冒険者のカレンさんだ。
…だがその凍り付いたような笑顔がとても恐ろしかった。
もしかしたら俺の恋路はとてつもなく困難なものなのかもしれない。
リリナの容姿についてはフィルターがかかっているものと思ってください。
穏やかで優し気→覇気のない
ゆったりとした透き通るような→眠そうな




