EX3 ピッセル(1)
2/6 誤字 文章の訂正
ピッセル
私の名前はピッセルと言います。
この世界では比較的少数な獣人と呼ばれている種族です。
森の集落を出たのが1年くらい前の事なので今年で多分16…になるはずです。
なぜ森を出たのかと言うと、集落のしきたりによるもので仕方なく、という理由でした。
1年前、私がいつも通り大好きな母様に甘えようとしていた時の事です。
「ピッセル、あなたももう大人になりました。
前からお話していたように大人になった獣人は一人前になる為に旅に出なくてはいけません」
確かにこの話自体は何度か聞かされた事がありましたが、この時の私はもっともっと先の話だと思っていたので困惑するだけで覚悟なんてまったく決まっていませんでした。
しかし、そんな私の気持ちとは関係なく翌日には母様の元を離れる事になりました。
母様は他の人には内緒、という事でしばらくは生活に困らないだけの食料や人間達の使っているお金を用意してくれましたが、目的を持たずにいればすぐに底をついてしまう事は当時の私でも分かりました。
なので、私は生きる為、そして早く一人前になって母様の元に帰る為、そんな思いで現在私が暮らしているレオンリバーの街に向かう事にしました。
ちなみに近くにあった小さな村に行ってみたこともあったのですが、怯えるような怖い顔をされてしまったのですぐに逃げ出したのを覚えています。
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そして現在はブラックさんという師匠の元、魔工技師として一人前になるべく修行中です。
なぜ私がここ来ることになったかというと…色々とありましたが師匠には感謝しています。
一人前になる、と言っても当時の私は特に目標を持っていませんでした。
獣人である私たち、特に男性の場合はその身体能力を活かして冒険者や軍人になる人が多いようです。
ですが私には戦いに出るような勇気は無いのでそちらの道に進むことは出来ません。
女性の場合でも冒険者や軍人の道を選ぶ人は多いのですが、職人の道を選ぶ人も多く私が目指すとしたらその道しかありませんでした。
そして数ある職人の中でなぜ魔工技師を選んだのかと言うと…切っ掛けはこの街に来た時に見た建造物に使われていた美麗な魔道具の数々、それらに心惹かれたという程度の理由です。
ですが、問題はそこからでした。
魔工技師を目指すと言っても独学では何から手を付けていいのか分かりません。
なのでいくつもの技師の工房を訪ねて弟子入りをお願いしたのですが結果は散々でした。
話を聞いて断ってくれる所や見学だけならと言ってくれる所は良い方で、追い返すように怒鳴り散らす所や悪い所では石を投げて来る所もありました。
どこも自分達の生活に精いっぱいで他人を…しかも獣人を置いておく余裕は無いようでした。
仕方なく見学をさせてくれる所で見て覚える事にしたのですがやはりうまくいきません。
外見だけは自分でもそれなりかも?と思える物になるのですが、肝心の魔道具としての機能が上手く作れませんでした。
ブラックさん、師匠と出会ったのはそんな生活を続けていた時でした。
お金をほとんど使い切り、住む場所や食べる物も手に入らなくなるかもという危惧を持ち始めた頃の事です。
私がいつもの場所、噴水型の魔道具が設置されている公園の休憩スペースで作業をしていた時、
「おい、そこのやつ、作業の邪魔になるからちょっと場所を移してくれ」
その時の師匠は噴水型魔道具の修理で来ていたようで、短い時間で効率良く修理を進めていく姿は当時の私には格好良く映りました。
そしてダメで元々、修理を終えた師匠にすぐに弟子入りをお願いしてみました。
「これは…細工は上手いが回路はいまいち…というか動いてすらいないじゃねーか」
その場で私が作っていた魔道具を見て貰いましたが感想はやはりというか当然のごとく悪いものでした。
ですが続く言葉は沈んでいた私の心に火をつけてくれるものでした。
「だが独学でここまでやれるなら伸びる可能性はあるかもな……来たければ勝手に来い、飯くらいは食わせてやる」
…私が今ここにお世話になっているのはそんな経緯があったからです。
師匠はぶっきらぼうな方ですが私を助けてくれた恩人です。
おかげで最低限の生活は出来るようになり、魔導技術の師匠にもなっていただけました。
あれからほとんど上達出来ていない事が申し訳なくもありますが、師匠の指導の下で頑張っていこうと思っています。
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「えーっと…金属板を50と木板を100、後は工具の…」
そんな私の日常は買い出しや掃除、店番などの雑務が基本です。
私がもっと出来るようになれば魔道具のお仕事も手伝えたかもしれませんが、今の私では邪魔になるだけなのでお手伝いすら出来ません。
なので、魔導技術の勉強をしつつも私に出来る範囲の仕事だけはしっかりとこなしているのですが…。
まったく上手くならない…どうしてなんだろう…?
師匠に出会ってから約1年、毎日勉強はかかさず行ってきたし回路だって100個以上は作ってみた。
だと言うのに未だにまともに機能する魔道具を作る事が出来ないでいる。
基礎的な知識はほぼ暗記したし工具の使い方も上手くなったと思う。
だが、私の登録カードに記載されている魔導技術はレベル1の表示のまま一度も動いた事がなかった。
そんな私の事を見捨てないでくれている師匠だが、やはり扱いには困っているようでした。
私より後に魔導技術研究所に入った、私にとっては後輩に当たる人達が商品になりそうな魔道具を作り始めているのに、先輩である私がいつまでも店番等の雑務をこなしていることでお互いに気まずい状況を作りだしてしまっているからです。
そんな状況なので師匠から特別に指導を受ける事も出来ずに何の進展もない状況が続いてしまっており、このままじゃいけないと分かっているのに何の対策も打てないでいた。
「あれ?ピッセルさんですよね?」
「え?」
私が買い出しをしつつ現状の打開策を考えていると聞き覚えのある声が掛かった。
そこに居たのは先日お店に来た…
「えっと…ララ…さんでしたか?」
「はい、奇遇ですね。
ピッセルさんも買い出しですか?」
先日お店に見学ということで来られた多分魔工技師?の方でした。
あの時に聞いた話では新たにお店を始めるための見学と言う事だったので、こうして資材店に来ているという事はもうお店を始めているのかもしれません。
「はい、買い出しは私の仕事でもあるので…」
そこまで言って、本来は一番の新人が行うべき事であるはずなのにそれを自分がしている事に気恥ずかしさを感じてしまった。
「どうかしましたか?」
そう言ってララさんは私の事を心配そうに見つめて来る。
ああ…やっぱり似ている…。
初めて会った時、そして頭を撫でられた時、ララさんから母様に似た空気を感じていた。
基本的には甘く優しいのだが、必要な時に少しだけ厳しくしてくれるような…。
あの時に触れていた手のひらの感触が思い出された。
また…撫でて欲しいな…。
「…いえ、別に何も…」
そんな事は言えない…でも…。
「……ああそうだ。
ピッセルさん、この前の見学のお礼がしたいのですが何か僕に出来ることはありませんか?」
「え…?」
見学のお礼?でもあれは職人ギルドからの紹介という事だったし普通にお仕事…。
いや、これははっきりしない態度を続ける私にララさんが気をつかってくれたのだろう。
どうしよう…申し出は嬉しいけれど頭を撫でて欲しいなんてとても言えないし代わりに頼む事なんて……あっ、そうだ!
「…でしたらララさんのお店を見せて貰っても良いでしょうか?」
「お店を…ですか?
それは別に構いませんがまたどうして?」
「はい、実は…
ララさんに私の現状を説明した。
一人前になりたいのにどうにも伸び悩んでいる事、そして師匠が認めたララさんの作品を見る事で現状を打開出来るヒントが得られないかと考えた事。
「なるほど…先ほども言った通りお店を見て頂くのは構いませんよ。
ただピッセルさんのお役に立てるかは…」
「いえ、ぜひお願いします」
「…分かりました、ではご案内します」
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ララさんの案内でついたお店は思っていたよりも小さかったが、民家だったものを改装したという話でなるほどなと思った。
申し訳程度に看板やらが出ている事で分かるが、遠目に見たらおそらくお店がある事に気が付かないだろう。
内装もぱっと見ただけで元が玄関や応接スペースであることが分かった。
へー、本当に元は民家なんだ…。
でも私はこういう雰囲気の方が好きかもしれない。
きらびやかなお店も悪くはないのだがどうしても落ち着かない気分になってしまう。
師匠のお店もそうなのだがこれくらい地味な方がゆっくりと買い物が出来そうだ。
「それで僕の作った魔道具でしたね。
こちらに置いてあるのでどうぞご覧ください」
「はい、ありがとうございます」
ララさんがいくつもの魔道具が置かれているスペースに案内してくれた。
そこには狭いスペースながら10以上の魔道具が並べられていた。
どれもシンプルなデザイン? で特別な細工がなされているわけではないのだが、これだけの種類の魔道具を作るのは並大抵の技術では出来ない事だ。
わー、いっぱいあるなー…あれ、これ何のスイッチだろ? プラーナOFF? あ、スイッチが固定されて動かないようになってる。
プラーナOFFというのが何なのかは分からなかったが、とりあえず置いてある魔道具の動作や回路を一通り見せてもらった。
どの魔道具も飾り気は無いが無駄のない精密を作りをしており、私の作る物とはかなりの隔たりがあるように感じた。
うう…すごすぎて参考にならない…。
多分技術力に差があり過ぎるのだろう。
回路の流れを見ても途中からわけが分からなくなり最後まで追う事が出来ない。
火を灯すだけの魔道具でどうしてここまで複雑な回路になるのかが理解出来なかった。
「いかがですか?」
「あう…ごめんなさい。
私では回路を見ても流れが分からなくて…」
せっかく見せてもらったララさんには申し訳ないが現状を打開するようなヒントにはなりそうになかった。
「そうですか……んーもしかして……。
ピッセルさん、よければここで一つ回路を作ってみてもらえませんか?」
私の回答にララさんは何かを考えるような素振りを見せたが続く言葉は想定外のものだった。
「回路をですか…? それは大丈夫ですがどうしてでしょうか?」
「すみません、少し気になる事をがあったもので、お願い出来るでしょうか?」
「はぁ…分かりました」
買い出しの途中ではあったが時間の余裕はあったのでララさんの申し出を了承した。
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ん…こんなものかな? いつもより上手く出来た…ような気もする。
とりあえずララさんの言う通りに回路を一つ作ってみた。
魔工技師を目指す人が最初に作る火石を使った火を灯すだけの魔道具の回路だ。
お手本通りの基本の形を思い出しながらだったが思ったよりもきれいに出来たと思う。
始めて使ったはずの工具も使い安く、無骨で大き目な工房の道具よりも手に馴染んでいた気がした。
「とりあえず出来ました、どうでしょうか?」
「お疲れ様です、では少し見せてもらいますね」
ララさんは私が作った回路のチェックを始め、回路そのものを見たり魔道具に組み込んで動作の確認をしていました。その結果…
あっ、動いてる。
回路を組み込まれた魔道具は小さいながらもその先端に火を灯していた。
私が作った回路は動かない物が多く、こうして一応ながらも成功した回路は数える程しかない。
今回の物は自分でも上手く出来たと思っていたがこうして動作しているのを見ると達成感があった。
「うん、やはりピッセルさんの場合は理論よりも感性で作ると上手く出来るタイプのようですね」
「感性…ですか?」
感性で作る、という言葉の意味が私には理解出来なかった。
私が今まで勉強してきた知識では、魔道具の回路という物は定められた形がありそれをいかに再現出来るかで質が決まる物だった。
「ええ、僕も基本的には理論で組むのでたまに使うくらいですが、決まった形ではなく流したい魔力のイメージ…のようなものを描くやり方です」
「…?」
うう…全然分からない…。
「どう説明したら良いのでしょうか…。
そうですね、一度やってみましょうか、見てみたほうが分かりやすいかもしれません」
そう言ってララさんは先ほどまで私が使用していた工具を手に取り回路を作り始めた。
それは私が今まで勉強してきた方法からでは想像もつかないやり方だった。
ララさんがやった事は回路用の素材に数本のラインを描いただけ、しかも目を閉じた状態でだ。
始点や終点は魔道具に合う形にはなっているが、こんな子供が描いた落書きの様な物が回路と言われても普通なら信じられないだろう。だが、
やっぱり動いた!、しかも私の作った物とは比べ物にならない程に大きな火が灯っている。
「やはりこのやり方は慣れませんね、僕には向かないようです」
「これが回路…なのですか?」
「ええ、普通の作り方ではありませんがピッセルさんなら出来るようになると思いますよ。
先ほど見せていただいた回路ですが見やすい基本の部分よりも応用力が試される難しい部分の方が逆に上手く出来ていました。
おそらくですが曖昧な記憶を頼りにイメージで作った物ではないかと思いまして」
…ララさんの言っている事は当たっている、そしてララさんがやった事を私は少しだけ理解出来ていた。
説明を受け、実際に描いている所を見て、そして完成された回路を見た事で「感性で作る」という言葉の意味が少しだけ分かった気がするのだ。
もちろんすぐに出来るわけではないだろうが現状を打開するためのきっかけにはなりそうだった。
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「今日はありがとうございます、ララさんのおかげで自分の目指す形が見えてきました。
すぐには難しいかもしれませんが教えていただいた事を参考に頑張ってみます」
「お役に立てたようでなりよりです。
僕もまだまだ勉強中の身なのでお互いに頑張りましょう」
ララさんに見送られての帰り道、先ほど教えてもらった事が私の頭の中を巡っていた。
うん…これなら私でも出来る気がする。
よーっし!頑張るぞー!おーっ!
一人前になるという目標への足がかりが出来て浮かれていた私は、もう一つ達成するべき目的がある事をこの時は完全に忘れていた。
2章EXはここまで
今後も章の終わりに入れていく予定です




