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第28話 成した依頼の影響

2章開始時点では予定していなかった視点ですが書いていて楽しかったので採用しました。(大筋は変更なし)


 カレン



 昨日ギルドを通じてリリナさんから連絡が入った。

 お店が開店してからもう10回以上は通っているが、リリナさんの方から声を掛けられたのは初めての事だ。


 私にとってリリナさんとの出会いはとても衝撃的なものだった。


 私は昔から自分の身長の低さに少しだけコンプレックスを抱いている。

 極端な差があるわけではないのだが、同年代の他の子に比べるとどうしてもその差を感じてしまっていた。

 そのせいもあってか身長の高い女性を見ると憧れとともに少しだけ嫉妬の感情を持つこともあった。


 でもリリナさんとの出会いだけは違った。

 身長は私よりも頭一つ分くらい高かったが、華奢な体躯がそれを感じさせずにむしろ守ってあげたくなるような儚さを持っていた。


 多分一目惚れだったのだと思う。

 私よりも2つ年下だと教えてもらったが、憧れが強かったのかそれとも身長差もあってなのか…姉…年下の姉?のような変わった印象を受けたのを覚えている。


 その為守ってあげたくなるのと同時に甘えてみたいと思うようになった。

 同じ女性なので恋愛感情とは少し違うかもしれないが、傍に居て…出来れば一緒に…なんて事も考えている。

 …まあリリナさんが望むのなら全てを受け入れるつもりだけどね。



 だけど私のアプローチがしつこかったのか最近は少し避けられているように感じていた。

 もしかして嫌われている?とも思ったのだが、ララさんからは照れているだけだから大丈夫だよって言って貰えている。

 そんなリリナさんからお店に来て欲しいと連絡があったので少しの不安もあったがやはり嬉しくて、いつもお店が開く時間にさっそく来てみた…のだが…。



「これ、運んで貰えるかな?」



 目の前に置いてあるのは…なんだろうこれ?

 いや、大き目の樽だって事は見れば分かるんだけどさ。




 いつものお店が開く時間に来たのだが、まだ開店していない店内に居たのはリリナさん一人だけだった。

 話を聞いた所ララさんは朝方近くまで大きな仕事をしていたらしくまだ休んでいるとの事だ。


 どうやら私が呼ばれたのもその仕事に関係する事のようだ。

 期待していた事でも不安に思っていた事でもなく拍子抜けだったが、リリナさんの頼み事ならなんだってやるに決まっている。



「はい、任せて下さい!」


「…えらくあっさり引き受けるね、もうちょっと何か聞いてくると思ったんだけど」


「リリナさんの頼みだったら何だってやりますよ!」



 この言葉に嘘は無い。

 正確に言えばシアちゃんを助けてくれた二人の頼み事ならなんだってやる!となるわけだが。

 まあ、あまりにも無茶な要求をされたら断るかもしれないけど二人はそんな事を絶対に言わないだろう。



「そ、そう?…それじゃあ今からレオンリバーの上流の所まで行くからそれをお願いして良いかな?」


「はい、もちろんです!」



 とりあえず重さを確かめる為に樽を持ってみた。


 む、これはけっこう重いな。

 中身はほぼ満タンに詰まった何かしらの液体だと思われるが、これを河まで運ぶのはリリナさんやララさんでは難しいかもしれない。


 だが私は一応レベル持ちの冒険者だ、女の身であったとしても常人とは出せる力が違う。

 先日の魔物討伐の結果で4人とも1ずつ上がっていたので私は今レベル2になっている。

 レベルが1になった時に比べるとそれほど劇的な変化ではなかったが、やはり強くなっているという実感があった。


 なのでこれくらいの樽であれば河まで運ぶのは何ら問題ない。

 荷車でも借りてくればもっと楽なのだろうが1個だけだし私が運んでしまう方が早いだろう。



「では行きましょう」




 ―――――――――――――――――――――――




 話には聞いていたがこっちには来ることがあまりないので知らなかった。


 ひどい臭いだ…こんなになるまで誰も何も思わなかったのかな?


 河が見える前からすでに臭っていたのだが、こうして目の前まで来るとさらにひどい。

 色もまともな河とは思えない程に汚れておりこんな場所でまともな生活がおくれるとは思えなかった。



「それじゃあさっそくやろうか。

 それを河の傍に置いてもらえるかな?」


「ここで良いですか?」



 持ってきた樽を河の傍に置いた。

 このまま倒せば中身は全て河に注がれるだろう位置だ。



「うん、それじゃあ仕上げをしちゃうからちょっと待っててね」



 リリナさんがそう言って樽の蓋を開けた。

 中身は予想通り何かしらの液体が入っていたのだが、一見するとただの水にしか見えなかった。

 色も無色で匂いもない…まあ周りが臭いからこれはよく分からなかったが。

 だが特に変哲の無い水をリリナさんがわざわざ運ばせるとは思えないので私が分からないというだけで何か特別な物なのだろう。



「これは…?」


「ん?ああ、これね…なんて言ったら良いんだろうな…。

 名前は付けていないけど簡単言ったら魔法の効果を付与出来る水だね。

 相性の悪い魔法があったり魔法薬と同じで魔力が抜けたりする欠点はあるけれど今回みたいな仕事にはぴったりだと思うよ。

 これに『浄化』を入れて流しちゃえばこれくらいの汚れなら一発だしね」


「ちょ、ちょっと待ってください!

 え…私の理解がまったく追いついていないんですが…」



 魔法の効果を付与出来る液体?聞いたことがない。

 いや、錬金術の知識なんてまったく無いから知らないだけで、もしかしたらそれなりに普及してる物なのかな?

 いやいやそれはあり得ない!

 もしそんな便利な物があるのなら多くの冒険者が持ち歩いているはずだ。



「あの…名前を付けていないって言ってましたがもしかしてリリナさんが開発したものですか?」


「開発ってそんな大げさな…。

 ミルス村に居た時に園芸用で使えるかもって事で作っただけだよ。

 それに使い道があまり無かったんだよねー。

 こうして使い道が出来たことは喜ばしいけれどわたし的には正直失敗作だねこれは」



 そんな思い付いたから作ってみたって…新薬ってそんなに簡単なものなの?

 それにこれだけ有用で……()()()()が失敗作だと言われても納得出来ない。


 確かにミルス村で普通に生活をするだけならば使いどころはほとんど無いかもしれない。

 だが戦闘に用いられた場合はどうだ?

 ただの戦士が魔力の消費も無しに魔法を扱える事になる。

 大きな樽いっぱいに用意出来るのだから量産も難しい物ではないだろうし『浄化』が入るという事は3レベル以上の魔法が入れられるのは間違いない。

 これがもし戦争なんかに利用されたら…。



「へー、でもでも今回の仕事にはぴったりなんですよね」



 私は努めて平静に、そして明るい口調で返した。


 …本人は気付いていないのだろうが…おそらくリリナさんは天才と呼ばれる類の人だ。

 憧れの相手がそんなすごい人だという事が嬉しくもあるが、同時に大きな不安が生まれてしまった。


 もしリリナさんの才能が多くの人に知れ渡ってしまったら、必ず野心を持つ人から狙われるだろう。


 今日見たこと、聞いたことは誰にも言えない。

 おそらくララさんはこの事を知っているだろうし今度相談してみたほうが良いかもしれない。



「うん、じゃあまずは『浄化』を入れちゃうね」



 そう言ってリリナさんは液体の中に手を入れて『浄化』を注ぎ始めた。

 私はさりげなく周囲からリリナさんの姿が見えないように移動してから様子を見始めた。



 すごい…綺麗だ…。


 樽の中の液体が白く輝いていた。

 本来目では見えないはずの魔力が『浄化』という魔法を介す事によって樽の液体に溶けていく様を見る事が出来た。

 リリナさんの手から根をのばすように溶けていくその白い輝きは、女神様が与える慈悲のように幻想的で美しかった


 ああ…リリナさん…やっぱり綺麗だな…お姉様…。




「…ンさん ………レンさん?カレンさん?聞こえてる?」


「…あっ!はい!ごめんなさい、大丈夫です!」



 いけないいけない、リリナさんに見惚れていて声が聞こえていなかった。

 どうやら魔法の注入は終わったようで、先ほどまでの白い輝きはなくなっていた。


 樽の中身は一見すると何も変わっていないように見えた。

 最初に蓋を開けた時と同じ無色の液体が入っているだけなのだが…。


 魔法を使えない私でも分かる。

 この液体から感じるものがおそらく『魔力』と呼ばれるものなのだろう。



「後はそれを河に流して欲しいんだけど…ほんとに大丈夫?」


「大丈夫です、任せてください!」



 無駄に心配を掛けてしまったがどうやらこれで仕上げのようだ。

 樽を倒すだけなので難しくもなく、中身を全て河に注ぎ込んだ。



 変化はすぐに訪れた。

 樽の液体と混ざった部分が先ほどと同じ白い輝きに覆われて、それが河の流れにしたがって徐々に下流の方に伸びていったのだ。

 輝きはしばらくたつと収まり、そこに現れたのは驚く程に澄んだ河の姿だった。


 下流の方は詳しく見えないが、この輝きでずっと先の方にまで『浄化』が作用している事が窺えた。

 おそらく街中を通る部分全てを浄化していくのだろう。



「すごい…さっきまであれほど汚れていたとは思えない…」



 下流の方でも河の周囲に人だかりが出来ているのが見えた。


 それはそうだろう、汚染されて異臭すらはなっていた河が急に輝いたと思ったら、直接口を付けて飲めそうな程に澄んだ色の流れに変わったのだ。

 誰だって驚くに決まっている。


 しばらくは大丈夫だと思うがそのうち原因を探ろうとする人が現れるだろう。

 あまりここに長居しないほうが良いかもしれない。




「それじゃ帰ろっか」



 こちらから促すまでもなくそう言ってこちらを向いたリリナさんは、あれだけの魔法を行使したにも関わらず疲れている様子がまったくなかった。

 おそらく魔力の総量も桁外れに高いのだろう。


 こんなにも華奢な体のどこにあれだけの力を秘めているのだろうか?


 こちらが返答しない事に疑問をもって小首を傾げているリリナさんは、先ほどまでの神々しい姿の面影はほとんどなかった。


 でも私はこっちのリリナさんの方が好きだ。

 困ってる姿もすっごいかわいいですよ、リリナさん!




 ―――――――――――――――――――――――

 ララ



 リリナが河の浄化をした日の二日後、僕はベネギアさんに呼び出しを受けて領主の館まで来ていた。

 最初は何の用事だろう?と思ったが、今回の依頼主がベネギアさんだった事を思い出せばそれの件で呼ばれたのだろうと思い至った。



「…話はブラックから聞いた。

 どうやらまた君が問題を解決してくれたようだね」



 うん?どうしたんだろう?

 ベネギアさんの様子は不機嫌というわけではないが、困惑というか…対応に困っているような反応だ。

 依頼は問題なく達成出来たと思うんだけどな…。



「はい、僕が浄化装置の修理を行い妹が河の浄化を行いました」


「そうか…」



 相槌だけを返してベネギアさんは考え込んでしまった。

 小声で何か一人事を言っているが、王都や報告といった単語が少し聞こえたくらいで内容を把握することは出来なかった。

 そのまま数分経ったあたりでようやくベネギアさんは話し始めた。



「ふぅ…正直に話そう。

 これは職人ギルドとも話がついたうえでの事なのだが、今回の依頼は()()()()()()()を前提としたものだったんだ」



 達成出来ない?どういう事だ?

 なぜわざわざそんな依頼を出すのだろうか?



「それはどういう…?」


「分からないかね?…まあ出来てしまう君には分からないかもしれんな…。

 あの魔道具を作った者は居ない、いや…今は居ないと言うべきか」



 作った者が…今は居ない?亡くなったとかかな?



「あれは過去の遺産だ。

 遥かな昔、まだ魔王と呼ばれる者が居た頃のな。

 現在ではその製法は失われていて新たに作る事はおろか修理を出来る者すら居ない。

 …いや、居ないはずだったんだ」



 そこまでを話してベネギアさんは一息ついた。


 なんとなく話が見えて来た。

 製法の失われた魔道具に達成出来ない修理依頼、さらに先ほど聞こえた王都や報告といった単語から察するに…。

 …でも過去の遺産か、そんな面白そうな物ならもうちょっとちゃんと調べておくんだったな。



「…王都の人間も修理が出来ない事は分かっている。

 現在の技術では修理が出来ない事を王都に報告し、まだ残っているであろう同様の魔道具を配備してもらう予定だったんだ。

 もちろん修理出来たこと自体は喜ばしい、貴重な遺産を新たに消費しなくて済んだのだからな。

 だが故障の件を報告している以上ここで修理が出来たと言えば必ず理由を問われるだろう」



 なるほど…ある意味余計な事をしてしまったのかもしれない。

 あの魔道具自体劣化が激しかったし別の物があるのならいっそのこと交換して貰った方が良かったかもしれないな。

 だが、報告については…?



「理由を問われると何かまずいのでしょうか?」


「…薄々とは感じていたがやはり分かっていないようだね。

 君の…いや、依頼を受けてから丸一日で終わらせてしまうあたり君の妹さんもそうかもしれないな…。

 はっきりと言えば君たちの技術力は規格外だ。

 この事を正直に王都に報告すれば必ず君たちの技術を巡って問題が起きるだろう。

 君たちの身柄は王都で確保されて…下手をすると軟禁される恐れすらある」


「そんな…」



 …レオンリバーに来てからの経験で、自分達の技術力はけっこう高いのでは?と思う事は確かにあった。

 だがレベルは4と5だったし勘違いだろうと思っていたのだが…。


 こうまではっきりと言われては無視する事も出来ない。

 それに軟禁なんてされてしまったら一生まともな生活が送れなくなるだろう。



「なんとかなりませんか?」


「…私としてもこの事を正直に報告するのは避けたい。

 この街で問題を起こしたくはないしな…多少強引な手段にはなるがなんとかごまかしてみよう。

 …それに原因が人為的なものであったと言えば監査の人間も入るだろうしな」



 ああ、そうだった。

 忘れていたが確かに原因も問題だったな。



「犯人の目星はついているのでしょうか?」


「いや、まったく分かっていない。

 あそこの鍵自体はここと、後は軍と職人ギルドにしか置いていないのでいずれかの組織に属する者だとは思うが…普段あまり使われていない物でどこも管理が杜撰なようでな」



 そうか…まあこれは大きな組織では避けにくい不備と言えるだろう。

 今から犯人を特定するのはほぼ不可能だろうしこの件に関しては調査をしても徒労に終わる可能性が高いだろう。



「なるほど…分かりました」


「…ま、話は以上だ。

 ほとんど愚痴にようなものだったが君も今後は自重するように頼むよ。

 何か大きなことをするのであれば事前に連絡をくれるとありがたい」


「はい、色々と気を遣っていただいてありがとうございます!」



 ベネギアさんとの話はそれで終わった。


 技術力が規格外か…。

 その評価自体は嬉しく思うがどうせならそれがレベルにも表れていたら良かったんだけどね。

 いや…目立つなって言われたばかりだしこれで良かったのか?


 とりあえず依頼は達成という事になったので報酬は後日出るらしいが、今後は仕事を受ける時に後々の事を考えるように心がけよう。

次回で2章本編が終わる予定です

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