第27話 痕跡と修理
ん?…これは…?
故障の原因を探るべく魔道具の調査を開始したのだが、調べ始めてすぐに気付いた事があった。
今回問題となっているのは『浄化』の魔法が発動していないことにあり、魔法が発動していないという事は3つの属性が上手く稼働していないということになる。
だが3箇所が同時に故障したとは考えにくいので3属性のうち何れかの部分に問題が発生したのだと思ったのだが…。
3属性とも稼働出来なくなっているな…。
3つの属性。
魔道具内部には火、水、土でそれぞれに回路が巡っているのだが、直接魔力を注いでもどこの部分も反応を示さなかったのだ。
たまたま全部が同時に故障したのか?
一部に故障が出た場合、残った部分だけが稼働し続けると別の問題が発生する可能性が高いので、正常な部分には魔力が流れ込まないように回路を組むのが普通だ。
だが直接魔力を注ぎ込んでも反応を示さないという事はすべての回路に問題が生じている事になる。
可能性が無いとは言わないが…もしかしたらただの故障じゃないかもしれないな。
なにやらきな臭い物を感じたがここまで来て何もせずに帰っても気になるだけだろう。
どちらにしろ問題点を発見しないことには何も出来ないので本格的に調べてみることにした。
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ここも…か。
やっぱりそういう事なんだろうな。
3属性分の回路を全て確認し調べた所、それぞれでの故障の原因となった場所を発見することは出来た。
だがその『故障』は外れて欲しかった予想通りのものだった。
この故障は人為的なものだ。
自然に発生したものであれば部分的な劣化が主な要因となるはずだが今回のものは違う。
核に魔力が通らないように魔法によって妨害された痕跡があったのだ。
しかも一見しただけでは分からないようなカモフラージュまでされており、微かな魔力の痕跡が無ければ僕にも原因を見つけれることは出来なかっただろう。
「ブラックさん、ここの鍵はどこで管理しているものなのですか?」
「鍵?鍵がなんか関係あるのか?」
「あー、修理には関係はないのですが…この部分を見て貰えますか?」
僕はブラックさんに調査で気付いた事を全て説明した。
故障箇所を聞いているときには少し楽し気なくらいに興味深そうにしていたが、その理由についての話を始めるとすぐに厳めしい表情になって最後には露骨に嫌そうな顔をしていた。
「はぁ?…てことは何か?
誰かがイタズラで魔道具を止めたって事か?」
「イタズラかどうかまでは分かりませんが…誰かが止めた、という事に関してはその通りです」
「…面倒な話だ。
まあそっちに関しては報告だけはするが俺たちが関わる分野じゃない。
犯人がいようがいまいが俺たちがするべき事は魔道具の修理だけだ」
「…確かにその通りですね」
ブラックさんの言い分は正しいとは思う。
実際僕たちが犯人探しに協力した所で大して役に立てるとは思えない。
残った魔力も残滓と言えるくらいに微かなものなので犯人を特定する事は出来ないだろう。
本当にそれで良いのか?という想いもあるが、ブラックさんに反論出来るだけの意見を持ち合わせてはいなかった。
「それでどうなんだ?原因が分かったのなら修理も出来るんじゃないか?」
「そうですね…もう少し詳しく見てみないと分からない部分はありますが出来そうではあります」
「そうか…やはり……。
…それでどうする?正式に依頼を受けるか?」
少し迷ったが受けても良いかなと思う。
ブラックさんにも一応恩はあるし…それにちょっと面白そうだ。
でも一応必要な事は先に聞いてみないとね。
「すみません。
受ける前に一応聞いておきたいのですが…この依頼はどこからのものでしょうか?」
「ん?ああ、そういえば話してなかったな。
まあ予想はついているかもしれないが大元の依頼主は領主のベネギアだな」
まあ普通はそうだよな、街の管理に関する事だし当然ながら領主の仕事だよな。
少し警戒しすぎかもしれないが、原因が人為的なものだったので一応確認はしておきたかったのだ。
「分かりました、この依頼受けたいと思います。
依頼内容を詳しくお伺いして良いでしょうか?」
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依頼を受けてから一度お店まで戻って来た。
修理に必要な道具の用意もあるのだがそれとは別に必要な物が出来たからだ。
河の浄化も依頼内容に含まれているとはな…。
ブラックさんに依頼内容を詳しく聞いたのだが浄化装置の修理と合わせて汚染された河の浄化も仕事内容に含まれていた。
もちろん魔工技師に頼むような仕事ではなく別途依頼が出されるようだったが、報酬は良かったし浄化のあてもあったのでついでにやってしまう事にした。
「それで、帰ってきて早々この臭いのは何?」
河から持ち帰った少量の水をリリナに見て貰っている。
実はリリナは『浄化』の魔法を使える。
前に見た魔法レベル的にも条件は満たしているし、以前からたまに使っていると聞いていた。
錬金術関係で使う事もあるようだが…主に自分の体を洗うのに使っているらしい。
「それは河の水だよ。
浄化装置の修理もするんだが現時点でけっこう汚染されていたからさ。
修理が出来ても以前の状態に戻るまではけっこうかかりそうなんだよ」
「それでか…。
アレを用意しろって事ね」
「ああ、魔法で全部浄化出来るんならそれでも良いが河の水全部はさすがに無理だろ?」
「規模にもよるだろうけど多分無理だね」
いくら『浄化』が使えると言ってもさすがに河の水全てを浄化するのは難しいと思う。
なので錬金術を用いてとある薬品を用意してもらおうと考えたのだ。
河の規模が分かればそんなに難しい物ではないだろうが、量が量だけにすぐには作れないと思った…のだが…。
「うーん…その大きさだと今日中には難しいかな。
明日の朝くらいまでで良ければ準備出来ると思うけど」
河の規模を聞いたリリナは僕の懸念などどこ吹く風と言わんばかりにあっさりと返答してきた。
さすがと言うべきか…多分僕がやったら5日は掛かるだろう。
どこまで腕を上げるのか末恐ろしくもあるが、同じ目標に向けて頑張る者同士、そして兄としても負けてはいられなかった。
「分かった、なら修理は今日中にやってしまうから浄化は明日頼む」
「はーい、それじゃあさっそく準備するね」
リリナが自室に戻って準備を始めたので今日は早めにお店を閉める事にする。
僕も修理に使いそうな道具を一通り準備し、作業着に着替えてから浄化装置の所まで戻る事にした。
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「おう、遅かったな」
浄化装置の傍でブラックさんが完全装備で待っていた。
いつもの白衣を着た博士スタイルではなく、全体的に少し汚れてはいるが熟練の技師を感じさせる作業着に身を包んでいる。
用意されている工具も僕が持っているような趣味品ではなく高級感のあるまさに職人の道具といった風だ。
「あれ?ブラックさんも一緒にされるんですか?」
「ああ、元は俺の研究所に来た仕事だし構わんだろう?
ま、正直に言うとお前の仕事を見てみたいだけだがな」
まあ特に問題はないかな。
手伝って貰えるというのならありがたいくらいだし。
「分かりました、ではお願いします」
「おう、任せておけ。
ついでにお前さんの仕事ぶりを見せてもらうよ」
ブラックさんと二人、さっそく準備に入る。
この浄化装置が置かれている場所は地下にあるだけあってやはり暗い。
一応ちょっとした灯は置かれているのだが作業をするには明るさが足りていなかった。
灯の確保の為僕はいくつか使えそうな道具持って来ていたが、それよりもブラックさんが持って来ていた大型の灯によって部屋全体を昼間の様に照らすことが出来た。
回路が大がかりであり修理にも結構な時間がかかりそうなので、この手の道具の存在はありがたい。
僕もこれくらいの物が欲しいなと思って聞いてみたが、10以上の核が使用されているうえにガラス職人にも特注品を用意して貰っているためかなり値が張るものだった。
「そういえば…この浄化装置って誰が作った物なんですか?」
準備はすぐに済んだのでいざ作業に…と思った所でふと浮かんだ疑問を聞いてみた。
作った人なら回路図とかも持っているだろうしそれがあれば修理も簡単に出来るんじゃないかなと思ったが…。
「さあな、王都から支給された物らしいが詳しい事は知らん。
ベネギアなら何か知っているかもしれんが…まあ興味があるなら聞いてみると良い」
ブラックさんからの返答はあまり好ましいものではなかった。
俺はあいつが苦手だ、といった様子が言葉使いからも感じられたので、会話はそこで途切れてしまったしこれ以上聞く事も出来なかった。
回路図の入手は無理そうだな。
これ以上話をしていると今晩中に修理が終わらないかもしれないのでさっそく修理に入ろう。
最初は火属性の部分からだ。
「劣化している部分が思ったよりも多いですね…」
「ああ、たまにメンテを頼まれる事もあるんだが回路が複雑すぎてなかなか手が出せん。
出来れば部品の交換なんかもしたいんだがね…」
いざ修理を始めてみたが、破損…というか破壊されている部分とは別に経年劣化している箇所が多くみられた。
現状では破損部分の修理だけでも動作するかもしれないが、このままでは数年のうちにまた故障してしまうことだろう。
軽い掃除程度なら可能だが、今すぐにこの劣化部分に手を入れることは出来ない。
見える範囲だけでも10日以上はかかるだろうし見えない部分も含めたら…1から作り直した方が早そうなくらいだ。
依頼があれば受けてみても良いかもしれないが僕の一存で勝手な事をやるわけにはいかないだろう。
とりあえず今回は動くようになれば良いので、劣化部分の対応はまたの機会にしよう。
さて、問題の破損部分なのだが…。
隠蔽されていたが、つまるところ魔力の通り道をどうにかすれば解決するわけだ。
方法は色々とあるのだが今回は破損部分の回路をまるまる交換してしまう事になった。
迂回路を作るにしては破損が大きすぎたし、正常に動作するのか不安だったからだ。
「流れが切れているのは…ここか」
魔力の流れが切れている部分から破損箇所を割り出して回路の切り取りを始めたのだが、なぜかブラックさんから怪訝な表情で見られている。
ブラックさんには交換する回路を作っておいてもらう手筈だが完全に手を止めていた。
「何か気になる事でもありましたか?」
「ああ、あるにはあるんだが…今はやめておこう。
これをかたずけてから改めて聞かせてくれ」
「はあ…まあ良いですけど…」
なんとも気になる言い回しだったが後で話してもらえるというなら良いだろう。
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それから、時間は掛かったが作業自体は特に問題なく完了できた。
えらくあっさり終わったと思われるかもしれない。
確かに作業内容自体は回路を切り取ってから新しい物をはめてくっつけるだけの単調なものだった。
だが構造が複雑であり破損部分も複数あったので、1属性分だけでも数時間、3属性分の作業を終わらせるのには朝方近くまで時間が掛かってしまったのだ。
「これで…よし!通った!」
「きたぞ!浄化が発動してる!」
僕とブラックさんはパアーッンとハイタッチを交わして喜びあった。
作業を始めてすぐは、二人とも普段触る事のない魔道具という事もあり興味深々で作業をしていた。
だが1属性目の作業を始めて間もなく、思ったよりも大変な、しかも同じことを繰り返す単調な作業であることに気が付いた。
作業をすればするするほどに体力も魔力も消耗するので2属性目に入るあたりでお互い完全に無言になっていた。
だが3属性目に入り終わりが見え始めたあたりから、疲労感に空腹感、眠気なども合わさってか二人とも妙なテンションになっていたのだ。
あー…ここまで疲れた事があっただろうか。
このままここで倒れ込んだら5秒で寝れそうなくらいだ。
ブラックさんもさすがに疲労の色が濃い。
修理を開始したのが夕刻に入る前くらいだから…半日以上はかかった事になるしな。
だがやりきったという達成感はあった。
まだ河の浄化の仕事が残っているがそっちはリリナに任せて僕は休ませて貰う事しよう。




