第26話 浄化装置
冒頭で流している3人の話は2章終了後個別に書きます
初めての仕事終え、登録証にレベルが表示されたあの日から幾日か経った。
その間、僕の周りではいくつかの出来事があった。
以前に約束をしていたミゼリアさんやファムさんがお店に来たり、外出中にピッセルさんと偶然会ったりもした。
そしてそれらの出来事の中で僕は…。
彼女たちは…いや、彼女たちに限った話でもないのかもしれない。
多くの人は皆それぞれの想いや目標を持って毎日を過ごしているのだろう。
もちろん僕にも目標はあるのだがこれは僕一人の目標ではなくリリナと共に目指しているものだ。
彼女たちの様な強い想いを持った目的、目指すものとは違うように思う。
…毎日を必死に生きる、それだけでも良いのかもしれない。
だが目指すものに対して努力している彼女たちの姿が少しだけ羨ましくも思えた。
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店には少しずつだがお客さんが来るようになった。
最初は近所に住んでいる人が『ここって空き家じゃなかったっけ?』という興味本位で来てくれた事がきっかけだったが、そこからリリナの薬を気に入ってくれたり僕の魔道具を面白がってくれたりするような人で少しずつだが賑わうようになったのだ。
そしてもう一つ。
こちらはクリフ達からの紹介のようだが冒険者の人も来てくれた事がある。
まだまだ新人と言った印象を受けるリリナと同年代くらいの若い男性だけのグループだったが、魔法薬が安く手に入るという話を聞いて来たようだ。
実際うちはどの商品も規定範囲内の最低値にしているので安いのかもしれない。
魔法薬も大銅貨5枚と材料費からしたらぼったくりに思える値段だが彼らにとっては安く見えたようだ。
安い事で逆に不安にもなったようだが、他所で買う余裕も無いとの事で人数分を購入していった。
あれからまだ姿を見ていないが冒険は上手くいったのだろうか?
まだほんの数日だから帰って来ていない可能性は高いが、彼らの冒険が上手くいっていたら、そしてまたこのお店に顔を見せてくれたらいち道具屋として嬉しく思う。
「何ぼーっとしてるの?」
「ん?別になんでもないよ。
お客さんが来てくれるようになって良かったなーって思っただけさ」
「そう?」
リリナから話しかけて来たのだがすぐに興味を失ったようで、店の隅にいつの間にか作った自分のスペースでいつもの研究を再開していた。
お客が来た場合には一応対応してくれるのだが手持ち無沙汰になる時間があまりにも多いためあんな場所を用意してしまったのだ。
それなりに接客も覚えて来たがどうも年配の…特におじいちゃんおばあちゃんくらいの人の相手をするのは苦手なようだ。
まあ、あんな事を言われ続けたら苦手にもなるよな…。
リリナは…まあ僕もたまに言われるのだが孫の結婚相手にどうか、と言われることがけっこうあった。
確かにリリナも僕も…僕の場合はむしろ遅いくらいだが相手を決める年頃だろう。
だが現状そういった余裕が僕には無いし、リリナも興味無さそうな様子だったのでまだ難しいかもしれない。
「でも実際どう思ってるんだ?」
「…何の話?」
「結婚について」
あえて主語を言わずに興味を引いてから本題を話す。
こうしないとリリナの事だから無視する可能性もあるしな。
まあ予想通り嫌そうな顔をされたが返事はしたんだしは話してもらおう。
「はぁ、もうその話は良いよ。
めんどくさいし興味ないから」
「結婚はしたくないと?」
「うーん…結婚したいと思える程の相手に会えたら考えるかもしれないけどそうでなければ別に自分から探そうとは思わないなー」
「まあ…そうかもしれないな」
このあたりの考え方は僕と同じだな。
出会いがあれば考えるけれど出会いを求めようとは思わない。
それで生涯独り身になったのだとしたらそれはそれでしょうがないかなと思う。
両親がどう思うかは気になるが無理にするものでもないだろう。
…それに、相手が受け入れてくれるとは限らないしね。
「…クリフなんてどうだ?
僕から見ても良い奴だと思うし結構気が合ってたように見えたけど」
「えー、あの野蛮人と結婚しても毎日ケンカするイメージしかわかないよ。
悪い人じゃないけど結婚相手にはね…」
「そんなもんか…」
そうか、クリフはダメなのか。
気は合っているように見えたがもしかしたら異性というよりは悪友のようなイメージなのかもしれないな。
「兄さんこそどうなの? 最近女性の知り合いが増えた気がするけど。
私としてはやっぱりアンナさんがオススメだけどね」
「まあ確かに増えたと言われたらそうだが…」
アンナさんは…あれから会ってないしそもそもほとんど接点が無いんだよね。
他は…ファムさんか? 結婚どころか仲良くなるのすら難しいだろうなあれは。
後はユキノさんと…ギルドのシエラさんとかか? どっちもないだろうなー。
「ないかな」
「だよねー」
なんとも不毛な会話だ。
暇だからこういう無駄な会話をしてしまうのだ。
僕もリリナと同じように作業スペースでも作ろうかな?
やる事があればもうちょっと有意義に時間を使う事も出来るだろう。
誰かお客さんでも来てくれたら良いのに…。
そんな事を考えていたらお店のドアが開く音が聞こえた。
僕の願いが届いたというわけではないだろうがお店に入って来たのはかなり意外な人物だった。
「じゃまするぞ!」
そこに立っていたのは先日お世話になった魔工技師のブラックさんだ。
慌てたようにきょろきょろと店内を見まわしていたが置いてある魔道具を見て興味深そうな表情に変わった。
「あれ?ブラックさんじゃないですか」
「お、居たのか!丁度良い!」
こちらに気付いたブラックさんはそう言ってこちらにずんずんと近づいて来た。
リリナも気付いてはいるみたいだがあまり関心が無いのかこちらに顔を向ける事すらしない。
「お前に頼みたい仕事があるんだがどうだ?」
僕の近くまで来たブラックさんはかなり唐突に切り出してきた。
いやどうだって言われても…。
話が急すぎて何が言いたいのかがまったく伝わってこなかった。
「すみません、内容が見えてこないので最初から話していただけますか?」
「ん?ああ、それもそうだな。
つまりお前に魔工技師としての仕事を頼みたいんだ!」
いやだから…。
「だからその内容を話せって言ってるでしょうが!」
的を射ていないブラックさんの回答に耐えられなかったのか我関せずの態度を取っていたリリナからもツッコミが入ってしまった。
ブラックさんも急に横手から入ったツッコミに驚いているようだ。
もしかするとリリナが居たことにすら気付いていなかったのかもしれない。
「…リリナ、良いから仕事してなさい」
「…はーい」
ブラックさんは急なツッコミで面食らったようだがそれのおかげか冷静にもなれたようだ。
先ほどまでの会話では仕事の依頼がしたい事しか分からなかったので再度聞いてみよう。
「それで、仕事の依頼がしたいという事は分かりましたがどのような仕事なのか、そして何故それを僕に頼もうと思ったのか、お聞かせ頂いて良いですか?」
「ん、んー…すまんな。少し冷静ではなかったようだ。
まずは仕事の内容についてなんだが…確かお前はこの街に来てまだ間もないという話だったな?
レオンリバーについては知っているか?」
「レオンリバー…というと街の事じゃなくて河の名称の方ですよね?」
レオンリバーの街には名称の通り大きな河の支流が流れている区画がある。
元々はこの河の付近の小さな集落が発展していったものがこのレオンリバーという街らしい。
街の中にいると河の近くに住む人しかなかなか見る機会はないが、外に出ればかなり大きな河なので遠くからでも確認することが出来た。
ミルス村の近くに流れている川もレオンリバーの支流になるので物資の運搬などに使われる事もあった。
ちなみに河の名称にあるレオンというのは人名で、数代前の勇者の名前らしい。
村に居た頃にミリアさんからそんな話を聞いたことがあった。
「ああ、それでそのレオンリバーなんだが…直接見て貰うのが一番なんだが少し問題が発生していてね。
それの対応の為に有能な魔工技師を探しているんだ。」
「なるほど、それでその問題というのは…?」
「あー…まあ河の汚染が問題になっているんだが…とりあえず一度見て貰えんか?
仕事を受けるかどうかはそれから決めて貰っても構わんから。」
「はあ…分かりました。
僕でどうにか出来る物かは分かりませんが見てみましょう」
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レオンリバーの河は街の東側区画に流れている。
お店の位置も一応東側の区画にあるのだが中央よりであるため今まで河の近くに行くことは無かった。
だがそれ程距離が離れているわけでもないので徒歩であってもすぐに着く事が出来た。
河の近くに来たあたりから少しだけ鼻につく臭いがし始めた。
先ほど汚染がどうのと言っていたしそれが原因かな?
そのまま河が見えるところまで来たが不快な臭いはだんだんと強くなっていった。
「見ての通り河の現状はこんな感じだ」
ブラックさんの言葉で河の様子を見てみたが…ひどい状態だった。
何が原因かは分からないが茶色とも緑色ともとれるような奇妙な色をした水が流れており所々に得体のしれない物が浮かんでいた。
不快な臭いは当然ながら河から臭ってきているものだったがこれだけ汚れているともはや何の臭いなのかすら判別がつかないくらいだ。
「これは…ひどい状態ですね。
汚染が問題になっているという話でしたが何か特別な原因でもあったのですか?」
「原因か…。
まあ汚染そのものは以前から問題になっていたのだがここまで酷くはなかった。
だが浄化用の魔道具が止まったせいで汚染が一気に進んでな、周辺住民から苦情が出始めたんだ。
自分達が汚したくせに勝手な話だとは思うがな」
確かにね。
自分達で汚しておいて汚れてるぞ!と文句を言うのはさすがに自分勝手すぎるだろう。
いくら今まで問題がなかったからといってその原因を作っている人が言っていい言葉ではないはずだ。
「なるほど…という事は僕に頼みたい仕事というのはその魔道具の修理と言う事でしょうか?」
「そういう事だ。
俺も一度見てみたんだが手に余る代物だった。
だがお前ならもしかして…と思ってな」
うーん…買いかぶり過ぎな気もするけどな。
でも頼られる事自体は嬉しく思う。
それに浄化装置ってのにも少し興味はあるしなんとか出来るものならしてあげたい。
「とりあえずその魔道具を見てみましょうか」
「ああ、こっちだ」
ブラックさんの案内で少しだけ歩くと地下に降りる階段が見えてきた。
位置的に街中を通っている河の中心部分になるだろうか?ここを下りれば丁度河の横手に行くことが出来そうな感じだ。
地下に降りるとすぐに鍵の掛かった扉が現れた。
ブラックさんがすぐに鍵をあけてくれたがやはり誰でも入れる場所というわけではなさそうだ。
中に入ると少しだけ蒸し暑い空間だったが、複数の魔法の明かりに照らされていて部屋全体の様子を見ることは出来た。
壁はレンガ造りで広さは安宿の1室くらいだろうか。
それ程広い部屋とは言えないうえにその中央にある大型の、おそらく浄化用の魔道具だと思われる物が置いてあるためさらに部屋が狭く見えた。
その魔道具からは複数の大き目の管が河の方に伸びておりこれで循環しているだろう事が窺えた。
「これが浄化の魔道具ですか?」
「ああ、見ての通りこれに河の水を通しているんだが浄化装置が働いていない現状では汚染水が循環されているだけだな」
「確かに…動いている様子はないですね」
稼働していればなんらかの音は出るだろうし魔道具自体からも高い魔力を感じ取る事が出来るはずだ。
だが現状は微量の魔力が集まっているだけで繋がっている管から液体が流れる微かな音が聞こえるだけだった。
「この魔道具は複合魔法の『浄化』と同じ効果を持たせた物みたいだが複合の魔道具は回路がやたらと複雑になるからな。
簡単な物だったら俺でもどうにか出来たんだが…」
複合魔法『浄化』
属性で言えば火、水、土の3属性を使う物だ。
実際に使う場合はそれぞれの属性を3レベル以上持った人物が一ヵ月くらい訓練すれば出来る…と言っていた。
条件さえ満たしていれば難易度自体はそれ程高い魔法ではないらしいが、そもそも3レベルの魔法というのが実戦クラスの効果なので冒険者等でなければなかなかそこまでのレベルを持った人はいないだろう。
人が使う場合はそうだ。
だがそれを魔道具にするとなると…。
魔道具で複数の属性を扱う場合回路が一気に複雑になる。
2属性を扱うだけでもお互いの魔法が不要な部分で干渉しないように気をつかう必要があるのにこの魔道具は3属性だ。
魔道具の大きさからして核自体も大きな物を使用していると思うがここまで大きくなったのは回路がかなり複雑な物になったのが理由だろう。
「分かりました。
とりあえず見せていただきますね」
「ああ、たのむ」
こうして居ても何も分かる事は無いのでさっそくだが魔道具の状態を調べてみる事にした。




