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第三話


3.


翌日になり、樹理は近所のケーキ屋でシュークリームを買ってから、

美代梨のマンションへと向かっていた。

彼女は無類の甘党で、カステラや羊羹の一本くらいならばすぐに平らげ、

ケーキ1ホールをインスタント食品が出来るまでには腹に収めてしまう。

樹理はそれでどうして太らないのかをいくら推理しても、理由が分からなかった。


「美代梨」

「情報なら出来てるわよ。

ほら、これ」

器用なことに美代梨は、樹理が渡したシュークリーム入りの大きな箱を受け取りながら、

綺麗にまとめられた紙の束を渡す。


「ありがとう」

「ま、精々これで事件を解決に導いて頂戴」

十五分ほど雑談をして、樹理は美代梨の部屋をあとにした。



樹理が事件現場に行くと、何やら慌しい様子だった。

「達矢、どうしたの?」

「!お前か…。昨日、本部にXからの予告状が届いてて、

狙われてんのが妙なことにあの持ち去られたオブジェなんだよ」

X―イクス―とは、この町に出没する怪盗のことである。

便宜上Xと呼んでいるが、本当の名称などは知れていない。

彼か彼女かさえも分からないのだ。


ちなみに英語ではない呼び方をするのはイタリア語を話すと言う理由かららしい。

イクスという読みは、イタリア語でのXを意味する。

これまでも警察が担当している事件の関連物を盗み出している。


「結局は事件解決に繋がるからいいような気がするけど…」

そう、事実Xが盗み出した関連物は事件に重要な変化をもたらしているのだ。

「こっちとしちゃプライドが許せないってことなんだよ」

「なるほどね。

じゃあ、邪魔しちゃ悪いし、私は私で考えてみるよ」

それから樹理は一旦事務所に帰り、美代梨からの情報を踏まえた上で、

状況を整理してみることにした。


そして、その日の深夜遅く。

事件に関わっているということで、Xを追うことになった達矢を始めとする刑事たちが

予告状から目星をつけた場所とは―。


「!見つけたぞX!!」

「…月が照らす紫苑の大地…、

カッコつけたって、紫色の高い屋根ってのは少ないんだよ」

あくまで冷静なままの達矢。

もっとも、内心は興奮と緊張に満たされており、冷静さは装っているに過ぎないのだが。


「Buona sera.

そしてBravo.と言うべきでしょうか」

追い詰められてもなお不敵に笑っているシルクハットの人物。

この人物こそが怪盗Xだ。

「茶化すな。大人しく、盗んだものを返せ」

「やれやれ。

ではこれは正解のご褒美としてお渡ししましょう」

ご褒美、と言う割にオブジェを投げて寄越すX。丁寧な口調のクセに意外と乱暴だ。


「っと…じゃあ、観念してご同行願おうか、怪盗X」

「それはRifiutare.

では、Buona notte.」

おどけた笑いを見せてから、ショーの終わった手品師の如く優雅に礼をして、

先ほどまでが幻だったかのように消えていくX。


その場に残されたのは、刑事たち数人と達矢の手に握られている、

リボンのようなものを巻かれたオブジェだけだった。


結局Xは見つからず、終業時間になっていた達矢は樹理のもとを訪れていた。


「…で、それがXの盗もうとしていたオブジェ?」

「ああ。大井警部に許可貰って持ってきたんだ。何か分かるか?」

「うん。十分すぎるほどだよ」

「どういうことだ?」

「ほぼ事件は解決してるってこと。私の中ではね」

「…分かったのか?犯人が…」

「まあね」

「……」

笑う樹理と無言で彼女を見据える達矢。

彼は「もったいぶるな」と言いたいらしい。


「じゃあ、順を追って教えるから、写真を出して」

「?分かった」

訝しがりながらも、机の上に容疑者たちの写真を並べていく達矢。


「次は弟子の写真だけを残して」

「確か弟子は…、

遠藤と谷村と小島と坂上だったな」

「一人忘れてるよ。甲斐って人」

「そうだったか…」

写真を片付けていく。

机に残っている写真は五枚。


「そして、被害者と上着の着方が似ている人をしまって」

「…そんなこと言われたって…」

「あれ、覚えてない?」

「少しの違いなんて分かるわけ無いだろ」

お前と一緒にするな、と言う目の達矢。


「じゃあ、私が除外してくね。まずは遠藤さんと坂上さん」

「…ちなみに根拠は?」

「それぞれ襟の部分の着方が似てるから」

「そうなのか…」

「似ているのはあと一人、甲斐さん」

「って、除外するなら写真も出す必要無かったんじゃ…」

「一応出しておいて欲しかったの。

さて、最後に残ったのは谷村さんと小島さん」

「じゃあ、犯人は小島だな」

「どうしてそう思うの?」

確証を持ったように言う達矢にそう訊ねる樹理。


「谷村はその時間、コンビニにいたって言うし。証人はいなくても、監視カメラに写ってたんだ」

「そう。達矢は小島さんだと思うんだね」

「違うのか?じゃあ、谷村?」

「これから説明するよ。

まずは現場の状況をまとめるね。

現場は被害者宅、そこにいたのは被害者と奥さんの二人だけ。

被害者が死亡していたのは収集物を集めた被害者の自室。

そして凶器は見つからず、オブジェもなくなっていた」

「あぁ。オブジェはこれのことだな」

頷いてオブジェを見る達矢。


「そう。

現場にあった収集物のほとんどはうっすらと埃を被っていたのに、

オブジェのあった場所には埃はほとんど無かった」

「取るに足りないって言ってなかったか?」

「言ったけど。後から関係してることに気付いたの」

「そうか」

「犯人が不自然さを取り除いていれば完全犯罪に近かったろうね」

「不自然さ…埃のことか」

「オブジェの周囲の埃を取り除いたのは、凶器の誤魔化しに使うため」

「凶器が分かったのか?!」

「何言ってるの。目の前にあるでしょ?」

「え…オブジェ?」

「についてるヒモ。正確にはリボンタイなんだけどね」

「リボンタイ…」

「犯人は、とあることを誤魔化すためにリボンタイに埃をつけた。

…ほら、そのリボンタイ、かなり汚れてるでしょ?」

「…確かに。

となると…あることってのは、凶器の材質か?」

「そう。紐を使って首を締めれば、その紐の繊維が首に付着してすぐに分かる。

けど、埃みたいな繊維質ものがあれば紐の繊維と混ざって誤魔化すことができるの」

「そういえば…、鑑識も布ってことは分かったけど、どれが凶器の繊維か判断しづらいから…」

「もう少し時間がかかる、そう言われたでしょ?それが犯人の狙い。

でも残念ながら、中途半端に埃を取れば不自然になることを忘れるっていう大きな失敗をしたけどね」

「…けど、死亡推定時刻に重なる、谷村の行動は?」

「死亡推定時刻と重なるからって、不可能なことじゃないんだよ。

知らないかな?血管を絞めれば秒単位で死んじゃうって言うの」

「頸部圧迫は分かってたけど、てっきり気管だと思ってたからな…。

けど、血管なら殺した後すぐにコンビニに行けばアリバイも作れるのか…」

「計画的犯行ならなおさらね。だから小島さんと谷村さんは二人とも犯行可能」

「ん?ちょっと待て。谷村は確か同居人がいたはず…」

「家を出た時間とか、そう言うのなら、時計をずらせば誤魔化せる。

それにいい大人に外出先を訊くことってあまりないでしょ?」

「…確かに」

「そして死亡推定時刻。

あんな豪邸なら温度調節なんて自在に出来るから、温めれば冷たくなるまでに少し時間がかかる」

「金持ちってことを利用したってワケか」

「そう言うことになるね。

そして最後に一番気になっているだろう、谷村さんが被害者を殺めた動機。

と言っても、被害者を殺す動機を持っているのは谷村さんだけなんだけどね」

「?どういう動機だったんだ?

自分の師匠を殺すなんて、よっぽどのことがないとしないだろ?」

「動機は案外単純なんだと思うよ。

…このオブジェの製作者のことなんだけど。

それは芸術家だった谷村さんのお爺さん。

谷村さんはお爺さんを本当に尊敬していて、谷村さん自身も芸術家を目指していた。

でもある時、最高傑作としてお爺さんが作ったオブジェを何者かが盗んだ。

ちなみにそれが若い頃の被害者なんだけど。

それから間もなくそのお爺さんが亡くなってしまった。

オブジェのことを心残りだと言って。

それから幾年もの月日が流れ、谷村さんは成人して、そしてオブジェを盗んだ人間を見つけ出した。

そして被害者に師事するフリをして、被害者を殺すチャンスを狙っていた。

ちなみに言えば小島さんは被害者に心酔してたらしいから殺す動機なんて無い。

だから容疑者は谷村さんただ一人しか残らない」

「…なるほど…爺さんの敵討ち、ってワケか…」

そう言って神妙な顔で黙り込む達矢。


「結局は消去法なんだけどね。とりあえず、私の推理はこれで終わり。

お役に立ちましたか、古河警部補」

「あぁ。十分だ。礼を言うよ唯崎探偵」



それから互いに何を言うことも無く、達矢は出て行き、樹理は扉に鍵をかけた。





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