第3章:綿花と織り機
ワカは服に興味があるようだった。
「冬のお勤めは肌が荒れて痛みます。もっとこう、あたたかで、繭のように扱いやすく、民も広く使えるものは無いのでしょうか」
ワカの不満交じりの相談に、壱与はアイから聞いた「植物の理」を伝えた。
それが綿花だった。
現地調達した綿花の種を植えるも、最初はうまく育たない。
そこに壱与を介してアイの知識がもたらされる。『植物が育つには、土にも栄養が必要』という理だ。
沿岸部で獲れるが、傷みが早くて捨てられていた雑魚を乾燥させ、畑に撒く『魚肥』を試してみる。
「これも物の理。土に命を還せば、土が新たな命を育むのです」
育つ綿花を見ながら、紡ぎ車や織り機を考えるワカ。
糸車に「滑車」を応用
手回しだった糸車に、回転を安定させる滑車と動力を伝える伝達革を組み込み、回転数を上げる。
織機に「てこ」と「弁」と「動滑車」を応用
これまでは手で一本ずつ通していた縦糸を、足踏みペダルで一気に上下に開閉させる仕組み『綜絖』を作る。
さらに、糸が逆戻りしないように「逆止機構」の歯車を職人に彫らせて固定する。この時、竹の反発や重力を利用している。
親方は最初「こんな複雑なもの、作れるか!」と頭を抱えるが、ワカが「てこの比率」や「滑車の仕組み」をアイの教材を思い出しながら説明し、共に試行錯誤を重ねる。
「糸が戻らねえようにする『逆止の弁』か。だが、爪を歯車に押し当て続ける『バネ』なんて上等なもの、俺達にゃ作れねえぞ」
卑弥呼に指名された職人の親方は、図面を前に頭を抱えた。金属を薄く叩いてもすぐに曲がるか折れる。竹の弾力を試しても、何度も弾けばすぐにヘタってしまうのだ。
「親方、バネが無理なら、アイさんに教わった『やじろべえ』の理を使いましょう」
ワカが提案した。
「反発させるのではなく、下に向かって落ちようとする『重み』そのものを、爪を押し付ける力にするんです」
ワカの言葉に、親方はハッと目を見開いた。
木彫りの歯車の上に、絶妙な角度で取り付けられた一本の木製の爪。その端に、小さな石の重りを括り付ける。
歯車が正方向に回るときは、山の斜面に沿って爪が「カチ、カチ」と重力に逆らって持ち上がり、通り過ぎると石の重みで自然とストンと下に落ちる。逆に回ろうとすると、落ちた爪が歯車の谷にガチッと噛み合って、回転を完璧に止めた。
「おお……! これなら石っころの重みだけで確実に弁が閉まる! これぞ物の理か!」
親方は大興奮で、ワカと共にさらなる試行錯誤を重ねた。
出来上がった新型織機は、従来の数倍の速さであたたかい綿布を織り上げていった。




