第1章-3
鬼道と物の理が矛盾しないことを悟った卑弥呼は、巫女長に対して「この物は重き修行を行なっておる、少々融通を利かせてやれ」と指示し、壱与が動きやすい環境を作った。
授業は「基礎編」として次々に進んだ。
「てこ」の実験の最中、壱与が派手にコケて悲鳴を上げた。
「きゃっ!」
その瞬間、壱与の首の鏡が反応し、体表に沿って不可視のバリアが展開された。壱与は何事もなかったかのように、無傷で起き上がる。
ナツは驚愕した。「主を守る鏡とな? やはり、神器……」
アイは苦笑いし、上空の『天の鳥船』では旅人が「コケただけで発動かよ!」と爆笑していた。
鏡の自動AIの設定は極めて甘々だった。もし水に落ちても、水の上で立ち上がるほどの過剰性能だが、不可視なので周囲には「奇跡的に無傷だった」ようにしか見えない。
アイの教育は続く。
「動滑車」――『力は半分、距離は2倍。』
厳密には動滑車自体の重さも加算されるデメリットも教える。
「滑車」――『くるくる回って力を伝える。速くなったら、重くなる。』
「圧縮着火器」――一瞬で空気を押し潰して火を起こす。卑弥呼は「鬼道とは違っておる。じゃが、使える」と唸った。
「弁」――あっちに行ったら、戻れない仕組み。
「磁石」――鉄にくっつき、北を向く。向きが分かれば迷わない。
「やじろべえ」――「かわいい。不思議」と言う壱与に、『重りが下なら倒れない』と教える。
「竹とんぼ」――『回すと風が出て飛ぶの。これも形。吸い付く形』
「ゴム」――『ビヨ〜ンって伸びるの、戻ってくるの。……痛かったの(当たったらしい。流石にバリアは発動せず)』
「船に乗って、反作用」――『押したらこっちも押されるの。作用と反作用って言うんだって』
「凧」――『揚力と抗力。釣り合ってる? 大っきく作れば、飛べるかな?』
10歳の壱与は「体験→解説→復習→納得」のステップを経て、彼女の頭には確実に「物の理(物理学)」の基礎が刻まれていった。




