第1章-2
壱与が出会いの河原に向かうと、またしてもふわりと風が揺れ、アイが出迎えた。
アイが用意したのは、未来の技術で作られた青銅の平面鏡と凹面鏡。
二つの鏡を覗き比べ、凹面鏡で太陽の光を集めて草に火をつけてみせると、壱与は大騒ぎした。
『なぜこうなるか、見てみましょうか』
アイは鏡の表面に一本の棒を立てた。
『ほら、平らな方はまっすぐ。曲がった方は集まって来ますね。光も同じなのです。集まると力も集まる。力が集まって火が着いたのです』
「形が違うと、集まったり、集まらなかったり。集まったら強い!」
『そうですね。そう覚えていて下さい』
10歳の壱与の理解は「神様が決めた物の理」といったニュアンスだったが、アイはそれを否定も肯定もしない。
「この事、ナツ様に言っても良い?」
『ええ、構いませんよ』
物の理の普及を止めるつもりは、アイには毛頭なかった。
『この河原で呼んでもらえば、いつでも会えますよ。でも、天にお日様がいるうちが良いですね』
「うん、そうする!」
伝えられたナツは困惑した。嘘をつくような子ではない。そもそも、この精巧な鏡は何なのだ。しかも新しく持ち帰った2枚の鏡。壱与の話を聞く限り、1枚は火を放つ神器ではないか。
「私の手には負えん…」
ナツはすぐに卑弥呼へ取り次いだ。
「これはまた。その者を、壱与が呼べると?」
「はい、そのように申しておりました」
「それは、壱与以外が立ち会ってもよいものか。壱与に確認させよ」
「はっ。畏まりました」
二回目の授業は「凸レンズ」だった。
朝のお勤めを終えて河原にやってきた壱与が「アイさん」と呼ぶと、ふわりと風が吹き、アイが現れた。
『こんにちは、壱与さん』
「こんにちは。あのね、聞いて来いって言われたの。他の人が見ても良いのかって」
『構いませんよ』
「やった〜、ナツ様も来られる!」
アイは微笑み、新しい教材を取り出した。
『さて、今日はこれを見てみましょうか』
凸レンズを上から覗かせると、壱与は目を丸くした。
「おっきくなった。凄い!」
『あなたの手も見ましょう』
「指のぐるぐるが、よく見える!」
またしても光を集めて火をつけてみせると、壱与ははしゃいだ。
『これで、お日様を見るとどうなると思いますか?』
「大っきく見える!」
『その前に、目が焼けちゃいますよ。さっき、草を燃やしたでしょう。あれと同じです』
「怖い」
『そうですね。だから、お日様を見てはいけません』
「はい!」
アイはこれも鏡と同じように、しかし違う理で光が集まるのだと教えた。
その後、授業にはナツ、そしてついに卑弥呼も見学に訪れた。
アイがプリズムを取り出し、白い光から鮮やかな虹を映し出してみせると、卑弥呼は息を呑んだ。
「なんと、虹を呼ぶとは、龍の縁者か」
卑弥呼やナツの目には、壱与が持つ内行花文鏡がアイを召喚する神器のように見えていた。




