第6章-2
会議が終わり、壱与は一人で帰路に就いた。
夕暮れの道。風が冷たくなってきた。
壱与の周りに、いきなり無言の男たちが立ちはだかった。
「何者ですか」
壱与の誰何にも応えず、男たちは包囲を縮める。首領の合図で、一斉に刃が向けられた。
「ひっ」
小さく漏らした悲鳴。それだけで十分だった。
ガギィィィン!!
「「「ぬぉ!?」」」
刃が目に見えない壁に弾かれ、男たちがよろめく。戸惑う男達の真ん中に、ふわりと風が吹き、一人の女性が姿を現した。
「何奴!」
『私はアイ。物の理を伝える者です』
アイが淡々と名乗る間にも、ナノマシン技術か、あるいは近接パルスレーザーの応用か、男たちは次々と崩れ落ちて行った。
「理の巫女……!」
「なあにぃ! 撤退だ、引くぞ!」
無事だった数名が、仲間を引きずりながら這うようにして逃げ去っていく。
上空のモニターでそれを見ていた旅人が呟く。
「仲間連れて帰るのは天晴だけど」
「単純に、証拠隠滅では?」
「ア、アイって此処でもそう名乗るんだ」
「教育者ですから」と鳥船。
「まあ良いや。これは報復案件かな?」
「レベル2までのインターロック解除中。壱与の意思を確認せずに、アド…失礼、旅人権限で実行しますか?」
「レベル2まで行っちゃったんだ?」
「はい。長期化が予想されますので」
旅人はいつもの軽いノリで、ひらひらと手を振った。
「かる〜くレベル1でやっちゃって」
その夜、狗奴国の本拠地の門前に、夜空から静かにレーザーが照射された。
邪馬台国の紋章である「内行花文」の小さな紋様が刻印されていく。ゆっくりと削られるわけではないが、夜闇に怪しく光る文様。周囲もガラス化しており、永きにわたって保たれるであろう。
朝、掃除しようと門前に出た小者が、腰を抜かしそうな顔で上役に伝えていた。
小者「ひ、ひ、ひ……!」
上役「どうした! 火でも出たのか!」
小者「ひ、卑弥呼の……!」
上役「ぬ? 案内せよ!」
上役「な! これは邪馬台の紋様! いつだ、いつ刻んだ!?」
狗奴国王と重臣。
王「あれは、何じゃ?」
重臣A「はっ、残念ながら邪馬台よりの警告ではないかと……」
重臣B「警告か。つまり襲撃も拉致も失敗であったと?」
重臣C「既に卑弥呼も老いて、魏の力も弱まっておる今が好機だと、思うておったのじゃが」
重臣A「手の者共が戻り来るまでに『あれ』が……」
王「つまり、こちらの動きは封じられ、迅速に報復を受けたということか?」
重臣C「はっ、恥ずかしながら」
重臣B「手の者の報告によると、壱与に対し全ての攻撃が封じられたと。さらに『理の巫女』と思しき者がいきなり姿を現し、数名の動きを封じたと申しておりました」
王「実はのう……今朝起きたら、これがのう……」
重臣A「な! 内行花文鏡!」
王「何時でも、何処でも『やれる』と言うことになるのではないかと思うのじゃ」
重臣B「なんと……」
王「わしは嫌じゃぞ? この様な者共に対し、どうせよというのじゃ?」
重臣達「「「……」」」
この事件以降、諸国の邪馬台国を見る目は一変した。
狗奴国に鉄を供給していた半島勢力は狗奴国との距離を置き始め、邪馬台国へ歩み寄る姿勢を示した。
宗像や伊都国といった支持派はさらに結びつきを強め、合同会議を頻繁に開くようになった。その動きに合わせるように、物の理を広め、実益も広めて行く、卑弥呼と壱与達であった。
出雲や大和は慎重派として静観の構えを見せるが、山の祭祀を重んじる大和の祭祀側は、邪馬台国の「海の祭祀(あるいは理)」に対して否定的だった。
それを見ていたた旅人は「大和の連中、何に期待してるのかな?」
鳥船「自分達が優れていると思っているのでしょう」
旅人「相手の力も知らずに、なめ腐ってる訳だ」
鳥船「実際、壱与さんの力では有りませんし」
旅人「ほほう、つまり俺への挑戦って訳だ」
鳥船「なぜ、そう言う解釈になるのですか」
旅人「こいつら、懲りずにやらかしたらレベル3でやっちゃおう。予約だ予約」
またしても不敵にニヤニヤしていた。




