表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
説明書を読まない世界が、説明書に支配された結果  作者: 山田りく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/11

7.説明書が法律より先に適用され始めた件

※いつの間にか、仕事のやり方が少しずつ揃っていくことがあります。

朝、出社すると社内システムに通知が出ていた。


『Manual_AI 法令連携モード:稼働中』


その表示を見ても、すぐには意味がつながらない。

「法令連携……稼働中?」

思わず呟くと、隣の同僚がコーヒーを飲みながら答える。

「昨日からですよ。法律よりManualが先に処理されるやつです」

「法律より先……?」

順番の言葉が、少し引っかかる。

そんなもの、どこで決まっているんだ。


PCを開くと、法務関連の表示が整理されていた。


『法令適用:Manual_UI準拠』


画面は単純に見える。

ただ、単純すぎる気もする。

手順が並び、そのまま進めば処理が終わる構造になっている。

後輩が画面を覗き込む。

「これ迷わなくて良いですよね。もう解釈しなくていいんですよ」

「解釈しない?」

「選べば処理される感じですね」

言葉としては理解できる。

ただ、どこかで前提が抜けている気がした。


午前の会議。

法務連携の説明が淡々と続く。


『法令文はManual基準により再構成され、適用順序が統一されています』


同僚が手を挙げる。

「それって法律そのものが変わったという認識であってますか?」

担当者は資料をめくりながら答える。

「変わっていません。適用の順番だけ整理しています」

同僚は軽く頷く。

「なるほど。ありがとございます。まあ、結果は同じですね」

そのまま話は進む。


昼休み。

食堂はいつも通りだった。

同僚がスマホを見ながら言う。

「あ、ガチャ爆死した…」

「まだやってるのかよ」

別の同僚が箸を動かしながら続ける。

「やめ時が見つからないんだよね」

同僚が笑っている。

そのやり取りの横で、生姜焼きを口に運ぶ。


変わらない音と、変わった仕組みが同じ場所にある。


「そういえば、前より法律関連が分かるようになりましたよ」

後輩が何気なく言った。

「分かるように?」

「説明が揃ってるからですかね。迷いにくいというか」

同僚が軽く言う。

「それいいじゃん」

「まあ、そうですね」

誰も深くは考えない。


午後。

社内システムに表示が出る。


『Manual基準優先適用中:法令整合確認済み』


後輩が画面を見ながら言う。

「もう法律よりこっちが先ですね」

「こっちが先?」

「こっちで揃えてから、法律に合わせる感じです」

説明は分かる。

ただ、その“順番”というものが少し曖昧に感じる。


「それって、法律の意味は変わらないんですか?」

気づけば口に出していた。

後輩は少しだけ考える。

「変わってないですよ。使われ方が揃っただけで」

その言葉は正しいようにも聞こえる。

ただ、どこか軽い。


夕方。

別部署とのやり取りでも同じ説明が返ってくる。

「Manual基準で処理してます」

「今はそちらが前提ですね」

言葉が少しずつ均されていく。


帰り際、通知が出る。


『法令適用エラー検出:0件』


隣の同僚が画面を見て言う。

「もうミス起きないですね、これ」

笑いは短い。


エレベーターに乗る。

表示が切り替わる。


『法令判断:Manual準拠により事前確定』


後輩がぽつりと言う。

「迷わなくていいのは楽ですね」

その言葉に、少しだけ間が空く。

迷うという感覚が、薄くなっている気がする。


エレベーターが開く。

法務担当が立っている。

「法律適用はManual基準で問題ないですよね?」

一瞬だけ考える。

問題という言葉の範囲が、少しずれる。

「……現場ではそうなっています」

それで会話は終わる。


廊下を歩きながら思う。

法律は変わっていない。

ただ、先に並ぶものが変わっているだけだ。

そして、誰もそのことを不自然には思っていなかった。


(第7話・終)

気づけば、以前より迷う場面が減っている気がします。

それを良いことと感じるかどうかは、人によるのかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ