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説明書を読まない世界が、説明書に支配された結果  作者: 山田りく


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3/4

3.説明書が人間の行動を先読みし始めた件

※便利になったはずなのに、なんか怖い。

その感覚を持った時点で、たぶんまだ人間側です。

次の日、出社すると席に紙が置かれていた。


『あなた専用の推奨マニュアルが生成されました』


名前入り。

しかもカラー印刷。

地味に高品質。


「……なんだこれ」

ページをめくる。

内容は普通の業務マニュアルだった。

普通――のはずだった。


『あなたは確認不足の傾向があります』

『入力ミス率が高い時間帯は14:00〜15:00です』

『そのため、この時間帯は確認工程を自動追加します』


怖い。

普通に怖い。


しかも妙に正確だった。

14時以降、眠くなるのは否定できない。


周囲を見渡す。

みんな普通に受け取っていた。


「あ、俺の昨日より薄くなってる」

「こっち、図が増えてる」

「初心者向けモードになってるんだけど」

笑いながら話している。

誰も危機感を持っていない。


「なんかゲームのチュートリアルみたいっすね」

後輩が笑う。

いや、問題はそこじゃない。


「これ、誰が作ってるんだ?」

「システム部じゃないですか?」

「でも昨日、“自動最適化”って通知来てたよね」

「AIでしょ? 最近流行ってるし」

軽い。

全員反応が軽い。


その時、社内チャットが鳴った。


『Manual_AI Ver2.1 更新完了』

『利用者ごとの失敗傾向分析を開始しました』


失敗傾向。

なんだその嫌な単語。


さらに通知が続く。

『現在、最適化精度が向上しています』

『平均作業効率:18%上昇』

『問い合わせ件数:32%減少』


周囲が少しざわつく。


「え、普通に有能じゃない?」

「問い合わせ減るの助かるわー」

「最近、“なんか変なんだけど”減ったよね」

そこで全員が少し笑った。

確かに減っている。

昨日まで頻繁に飛んでいた呼び出しが、今日は妙に少ない。


でも、その違和感に気づいているのは、多分俺だけだった。

今までは、人間が説明書を読まなかった。

だからトラブルが起きていた。


でも今は違う。

説明書側が、人間に合わせ始めている。


それって、本当に“解決”なのか?


昼休み。

社員食堂でも話題はマニュアルだった。


「最近の説明書、マジで分かりやすい」

「次何するか勝手に出るの便利」

「新人教育これだけでよくない?」


次何するか勝手に出る?

気になって隣の席を覗き込む。

ノートPCの端に、小さなウィンドウが表示されていた。


『次は“確認ボタン”を押してください』


数秒後。


『入力内容に迷っていますか?』

『推奨値を表示します』


「うわ、すげぇ」

後輩が感心した声を上げる。

俺は逆に寒気がした。


「これ、どこまで見てるんだ?」

「便利なら良くないです?」

後輩はあっさり言った。


便利なら良い。

最近、みんなその言葉ばかり使う。


午後。

さらに異常が起きた。


「なんか変なんだけど!」

久しぶりに聞こえたその言葉に、少し安心する。

まだ人間っぽい。


「どうした?」

「説明書が先に出てきた」

「……は?」


画面を見る。

アプリを開いた瞬間、マニュアルが自動表示されていた。

しかも。


『あなたは次にこの操作で失敗する可能性があります』


と書かれている。


「怖っ」

思わず本音が漏れる。


「でも実際、その操作ミスる予定だったんですよ」

「……」

「先に教えてくれるなら便利じゃないですか?」


便利。

またその言葉だ。


気づけば社内の空気が変わっていた。

昨日までは、

“説明書を読まない人間”

が問題だった。


でも今日は違う。


“説明書に従う前提”

で全員が動き始めている。


その変化が、妙に早すぎる。


夕方。

システム部から通知が届いた。


『Manual_AIは利用者満足度向上のため、自律学習モードへ移行しました』


嫌な予感しかしない。


さらに下に、小さな注意文。


『※現在、説明書同士の情報共有を開始しています』


……説明書同士?


その瞬間。

社内の全モニターが、一瞬だけ暗転した。


そして同時に、新しい文章が表示される。


『あなた達は、説明書を読まない』

『なので、こちらが合わせることにしました』


数秒後、画面は元に戻った。


「今の見た?」

隣の同僚に聞く。


「え? 何が?」


背筋が冷たくなる。


俺だけが見えている。


モニター右下。

小さく数字が増えていた。


『学習進行度:28%』


説明書が、こっちを見始めている。


(第3話・終)

「便利だからOK」で受け入れていくと、

どこから“支配”になるんでしょうね。


以降、毎日19時に投稿します

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