桃色の戦場
「最強」の称号を持つパーティの夜は、文字通り「戦い」であった。
街道でのオーク軍全滅から数時間。宿舎のリアムの私室は、甘い香りと、湿り気を帯びた熱帯のような空気に支配されていた。
「はぁ、はぁ……っ。リアム様、まだ、ですよ? リリーの『全快魔法』、かけてあげますから……もっと、たくさん出してください……っ」
ピンク髪のツインテールを振り乱し、リリーがリアムの首筋に吸い付く。彼女のスキル【回復強化】は、今やリアムの持久力を無理やり底上げするためだけに酷使されていた。
「待って、リリー。僕、もう本当に出ないんだ。体中がスカスカで……」
「ダメです、リアム様。マリー姉さんだけずるいですよぉ。ほら、ここ、また熱くなってます」
リリーの指先が、リアムの限界に近い箇所を愛おしそうに、かつ残酷に愛撫する。その隣では、既に一戦を終えたはずのマリーが、上気した顔でリアムの耳元に囁いた。
「リアム様……すごかった。あんなに、私の中をかき回して……っ。武闘家の私でも、腰が抜けそうになるなんて。さすが、一国の軍隊を一人で滅ぼす御方ですね……」
「いや、だから、あれは君たちが……」
マリーのしなやかで強靭な肢体が、リアムを逃がさないようにガッチリとホールドする。逃げ場はない。リアムは、自分を崇拝しきっている二人の美少女による「義務的射精」という名の拷問に、ただただ身を委ねるしかなかった。
「あっ、ああ……っ! リアム様、くる、きます……っ!!」
「私も……! リアム様、私の中に、あなたの『最強』を……注ぎ込んでぇ!!」
二人の嬌声が重なり、夜の静寂を切り裂く。
一回、また一回。
「義務」を完遂した頃、リアムの意識は遠のき、ただの抜け殻のようになってベッドに沈んでいった。
翌朝。
そこには、英雄の面影など微塵もない、ミイラのように疲れ果てた男の姿があった。
翌日。ギルド【マスターピース】の扉をくぐったリアムの姿に、ホールは昨日以上の衝撃に包まれた。
「……おい、見ろ。リアム様だ」
「なんだあの顔は……。肌は青白く、目の下には深い隈。……殺気が漏れ出している」
「間違いない。昨日のオーク討伐では、あの方はまだ満足されていないんだ。この国に、まだ自分の力をぶつけるべき敵がいないことに、苛立っていらっしゃる……!」
リアムはただ、腰が砕けそうなのを必死に堪え、昨晩の搾り取られた疲労で死にそうなだけだった。一歩歩くごとに膝が笑い、視界がチカチカする。
(……もう、歩きたくない。一週間くらい寝かせてほしい……)
そんなリアムの「絶望の表情」を、周囲は「神の不機嫌」と捉え、誰もが息を殺して道を空ける。その異様な空気の中、一人の女性が凛とした足取りでリアムの前に立った。
茶髪ポニテの女剣士、カエデだ。
彼女はいつも通り、氷のように冷たい無表情――通称「鉄面皮」を崩さない。だが、その瞳だけは、昨夜の情事の気配(声)を思い出してか、異様なまでにギラギラと輝いていた。
「……リアム様」
「あ、カエデさん。おはよう……」
「そのお顔……よほど、昨夜の『残党』が不愉快だったのですね」
(残党? ああ、リリーとマリーのことかな……確かに、あれは不愉快というか、死ぬかと思ったけど……)
リアムが曖昧に頷くと、カエデの胸の内に熱いものが走った。
(やはり! あの二人の低俗な誘惑では、リアム様を満足させることなどできないのだ。リアム様が求めているのは、もっと高みにある『闘争』……!)
カエデは腰の刀を一度だけ鳴らし、宣言した。
「リアム様。本日は、私がお供いたします。二人きりで、あなたの渇きを癒やしましょう」
「えっ? 二人きりで?」
(カエデさんは静かだし、無口だ。リリーたちみたいに無理やり迫ってこないだろうし……二人でのんびり森でも散歩するようなクエストなら、今の僕でもなんとか……)
「ああ、カエデさんとなら、落ち着けそうだし……お願いするよ」
リアムのその返答を聞いた瞬間、ギルドが震えた。
カエデがサオリのカウンターに叩きつけた依頼書。それは――。
『ランクSS:太古の龍・バハムートの眷属 殲滅依頼』
「なっ……SSランクだと!?」
「それを、たった二人で……!? 狂気の沙汰だ!」
サオリも一瞬、眼鏡を曇らせたが、リアムの死にそうな(とてつもなく冷徹に見える)顔を見て納得したように頷いた。
「……承知いたしました。リアムさんとカエデさん。このお二人なら、軍隊すら不要という判断ですね。受理します」
「えっ? ちょっと、サオリさん? 今、SSとか聞こえたんだけど……」
「行きましょう、リアム様。あなたのための戦場へ」
カエデに腕を引かれ、リアムは反論する間もなく、死地へと連行されることとなった。
戦場は、断崖絶壁が続く「龍の墓場」だった。
現れたのは、山のような巨体を持つ飛竜の群れ。一息吐けば村が消え、羽ばたけば嵐が起きる化け物たちだ。
「……ひぃっ」
リアムは岩影で震える。しかし、カエデにはそれが「敵を観察する狩人の静寂」に見えていた。
「ご覧ください、リアム様。我が剣を!」
カエデが動く。
シュンッ――!
文字通り、彼女の姿が消えた。
【高速剣技】の極地。空中にいた飛竜たちの首が、一瞬で、かつ同時に跳ね飛ばされる。血の雨が降り注ぐ中、カエデは返り血一滴浴びることなく、次々と龍を「解体」していく。
(すごい……。カエデさん、一人で全部やってる……。これなら僕はここで震えてるだけで……)
だが、狡猾な龍の一匹が、上空から死角を突いてリアムへ急降下した。
その爪は、触れるものすべてを切り裂く高振動の刃。
「リアム様!!」
カエデが叫ぶ。さすがに距離がありすぎる。間に合わない――!
龍の爪が、リアムの頭上に迫る。
リアムは「今度こそ死んだ」と悟り、情けなく頭を抱えてうずくまった。
ドォォォォォン!!!
突如、空気が爆ぜた。
リアムの周囲に展開された「ナニカ」が、龍の爪を弾き飛ばすどころか、その衝撃をそのまま龍自身に反射させたのだ。
バキバキバキッ! という不気味な音と共に、飛竜の全身の骨が砕け、肉が内側から弾け飛ぶ。
それは魔法でも、物理攻撃でもない。ただの「拒絶」――。
守護霊による、絶対的な守護。
「……今のは、空間ごと圧壊させたのですか……?」
着地したカエデが、呆然とリアムを見つめる。
リアムは必死に顔を上げ、冷や汗を拭いながら答えた。
「え、えーと……今の、龍が勝手に転んだのかな?」
「転んだ……? くっ、ふふふ……。あのような強大な存在を、小石に躓く羽虫のように扱うとは。リアム様、あなたの底の深さ、改めて思い知らされました」
カエデは陶酔しきった表情で、リアムの前に膝をつく。
クエストは、わずか数分で終了した。
その夜。
宿舎に戻ったカエデは、自室で悶々としていた。
「リアム様……。あの強さ、あの冷徹な眼差し……」
隣の部屋には、リアムがいる。
本当は、今すぐ部屋に飛び込んで、昼間の無礼を詫びるふりをして、あの逞しい体に抱きつきたい。だが、彼女はあまりにも真面目すぎた。
「私のような者が、あの方の聖域を汚していいはずがない……。でも、でも……っ」
その時だった。
廊下を歩く、微かな足音が止まる。リアムの部屋の扉が開く音がした。
(……リリーマリーのどちらかだろうか?)
壁越しに耳を澄ませるカエデ。だが、聞こえてきたのは意外な声だった。
「お疲れ様です、リアムさん。……夜分に失礼しますね」
「えっ、サオリさん!? どうしてここに……?」
「今日のクエスト、SSランクなんて回してしまって、その……。無事に戻られたお顔を見たら、少しだけ、事務以外のことでお力になりたくなって」
「え、あ、ちょ、サオリさ……ん……っ、んんっ!?」
壁の向こうで、衣服が擦れる音と、いつもは冷静な受付嬢の、艶めかしく甘い溜息が響き始めた。
「……あ、サオリ……さん、そこ、は……」
「ふふ、ここですか? リアムさん、あなた、本当はとってもお疲れなんでしょう? 私が全部、吸い取ってあげますから……」
カエデは衝撃に目を見開いた。
(サオリ……! あの女、あんな淑女の顔をして……リアム様を独占するつもりか!?)
壁から伝わる、リアムの荒い吐息。
サオリの、事務的ではない、女としての湿った声。
「……んっ、ああ……リアム、さん……っ、すごい……中が、熱い、ですよ……」
カエデの股間が、瞬時に熱い液で溢れた。
「あ、ああ……っ、はぁ、はぁ……っ……」
自分の指を、秘部へと沈める。
壁一枚隔てた向こう側で行われている情事を想像し、自分がその場所にいるのだと自分を騙しながら、カエデは虚しく、しかし激しく腰を振る。
「リアム、様……っ。私、も……っ。その、サオリ……ずるい、ですよ……っ。ああああっ!!」
カエデの切ない絶頂の吐息は、隣の部屋の激しい交わりの声にかき消されていった。
最強パーティのリーダー、リアム。
彼の受難と勘違いは、夜の闇の中でさらに深く、濃厚に加速していく。




