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楽園

エルドラドの王宮。リアムは、ゼノビアとアクアに両脇から「奉仕」され、骨抜きにされながら、窓の外の地獄(狂信者たちの軍事演習)を眺めていた。

(……帰りたい。もう、隣国を滅ぼすとか、女帝を従えるとか、そういうのはお腹いっぱいなんだ……。誰か僕を、この女たちから救ってくれ……!)

そこへ、ムドーからの通信が入った。

『リアムよ。お主の功績は大陸中に轟いた。……今こそ王都へ戻り、正式に「救世主」としての叙勲を受けるがよい。王都にはお主のために、最高級の安らぎの館を用意したぞ』

(……安らぎの館!? 救世主!?)

リアムの瞳に、久々の希望が宿った。

(そうか、ムドーさんは僕を助けてくれるんだ! 「もう十分働いたから、静かな場所で隠居しろ」っていう意味だよね!? 行く! 今すぐ帰る!)

「みんな! 王都に帰るよ! ムドーさんが僕のために『安らぎの館』を用意してくれたんだ!」

その言葉を聞いた部下たちの解釈は、当然のように歪んでいた。

「……安らぎの館。つまり、リアム様が全人類を管理するための『至高の玉座』が完成したということですね」

グレンが、感極まったように槍を握りしめる。

「ムドーの爺さんも、粋なことをするじゃない。……私たちの新しい『愛の巣』、楽しみだわぁ」

イブが、濡れた瞳でリアムを見つめた。

こうして、エルドラドを事実上の支配下に置いたまま、一行は王都へと「凱旋」することになった。ムドーの仕掛けた罠が待っているとも知らずに。


王都中央広場。

帰還したリアムを待っていたのは、数十万人の国民による、地鳴りのような「リアム・コール」であった。

ムドーは壇上で、慈悲深い老人の笑みを浮かべてリアムを迎えた。

「さあ、リアムよ。この奥にあるのがお主の館……『天のスカイ・プリズン』じゃ。……さあ、中へ」

ムドーは心中で(さらばじゃ、リアム。お主は一生、そこから出られん。お主の狂信者共も、この檻の結界の中では力を発揮できん!)と勝ち誇っていた。

リアムは、ムドーに促されるまま、黄金に輝く美しい館へと足を踏み入れた。

だが、彼が館の敷地を跨いだ瞬間――。

――ゴォォォォォォン!!!

王都全体に響き渡る、重厚な鐘の音。

館の周囲に、七重もの伝説級結界が展開され、空間そのものが外界から遮断された。

「……? ムドーさん、これ、何……?」

リアムが振り返ると、結界の向こうでムドーが、ようやく肩の荷が降りたような、清々しい表情で笑っていた。

「ホッホッホ! リアムよ、お疲れ様。そこは神をも閉じ込める究極の檻。……もう外の心配はせんでよい。お主はそこで、永遠に『安らぎ』を得るがよいわ!」


ムドーは勝利を確信した。

だが、彼は決定的なことを見落としていた。

リアムを「閉じ込めた」ということは、その檻の中に、リアムと行動を共にしていた「狂信者たち」も一緒に閉じ込めてしまったということだ。

「……ほう。この結界、外からは一切干渉できず、中からも出られない……。つまり、ここは『リアム様と我々だけの、誰にも邪魔されないクローズドな世界』ということですね」

グレンが、不気味なほど穏やかな声で呟いた。

「……えっ?」

ムドーの顔が引き攣る。

「素敵……。ムドー様、感謝します。……これでようやく、リアム様を四六時中、私たちの愛で満たしてあげられるわ」

リリーとマリーが、獲物を見つけた獣のような目でリアムを囲い込む。

「ちょっ……みんな!? 結界を開けて! ムドーさん! 出して! これじゃあ、前より逃げ場がないよぉ!!」

リアムの悲鳴に、アクアが背後から密着し、特製の「発情香」を焚き始めた。

「ふふ、リアム様。……この檻の中では、魔力の消費も抑えられるそうです。……つまり、一日中、一年中、死ぬまで『子作り』に励めるということですよぉ」

「………………は?」

ムドーは結界の外で、自分の耳を疑った。

「待て……。ワシは奴を隔離して、無力化するつもりだったんじゃが……。これでは、あやつが狂信者共に一生『食べられ続ける』だけの地獄(あるいは天国)を作っただけではないか!?」


外界から遮断された「天の檻」。

ムドーの計画によって、そこは「リアムの支配を終わらせる場所」ではなく、「リアムの種を絶やさないための密室」へと変貌した。

「リアム様……。この檻は、神の愛を試す試練。……さあ、私を抱いて、この聖域を貴方の色で満たしてください……っ!」

聖女エレーナが、もはや隠そうともしない淫らな腰使いで、リアムをベッドへと押し倒す。

「嫌だ……! 誰か、誰か助けて……! ムドーさぁぁぁぁん!!」

「あはぁ! ムドー様に助けを求めるなんて、リアム様はお茶目ですねぇ。……さあ、エルドラドの女帝さんも、遠慮せずに混ざりなさいな!」

ゼノビアも、もはや王としてのプライドをかなぐり捨て、リアムの足を舐め回しながら悦びに浸っていた。


「天の檻」が起動して一週間。

外界ではムドーが「これでようやく世界はワシの計算通りに動く」と、胃痛から解放された安らかな眠りを貪っていた。王都の民は黄金の檻を拝み、平和を噛み締めている。

しかし、檻の中はすでに**「飽和状態」**だった。

「……ねえ、もう飽きたわ」

イブが、事後の火照った体に薄い絹を纏い、気だるげに言った。

「リアム様の愛を独占できるのは最高だけど、この箱庭じゃ刺激が足りないわ。リアム様の素晴らしさを、もっと世界に見せつけなきゃ意味がないじゃない?」

「同感です。リアム様を閉じ込めるなど、不敬にも程があります」

リリーが冷徹な瞳で、結界の壁を指先でなぞる。

その足元では、リアムがアクア特製の「超回復&精力増強ポーション」を無理やり流し込まれ、「もう勘弁して……」と白目を剥いて転がっていた。

「ムドーの爺さん、この結界は『神でも出られない』とか言ってたけど……」

イブが妖しく微笑み、膨大な魔力を指先に集め始める。

「神ならそうでしょうね。でも、**『今の私たち』**を測り間違えたのが運の尽きよ」

リリーが呼応するように、魔導書のページを猛烈な勢いでめくる。

「イブ、空間の『継ぎ目』を焼き切ってください。私はその隙間に、世界樹の根を物理的に叩き込みます。……理屈で開かないなら、檻ごと粉砕するまで」


その時、王都中央広場。

ムドーが優雅に朝の茶を啜っていた、その目の前で異変が起きた。

黄金に輝く「天の檻」の表面に、ありえないはずの「亀裂」が走ったのだ。

「……な、……なんじゃと!? 伝説級の七重結界に、ヒビだと!?」

ムドーが腰を抜かした瞬間、空間そのものが悲鳴を上げた。

イブの放つ「深淵の劫火」が結界の魔力構成を焼き溶かし、そのわずかな綻びに、リリーが召喚した「時空を喰らう大樹の根」が、無理やりくさびのように打ち込まれる。

「そんなバカな! あの結界は、概念的に『出口』が存在しないはず――」

「――出口がないなら、作ればいいじゃない」

ドォォォォォォォォン!!!

王都全体を揺るがす大爆発と共に、ムドーが全知全能を懸けて構築した「天の檻」が、内側から風船のように弾け飛んだ。

爆風と共に舞い散る黄金の破片。その中心から現れたのは、一週間におよぶ「秘め事」でさらに艶やかさを増した魔女たちと、そして――。

「……あ、お天道様だ……。……助かったぁ……」

ボロ雑巾のように疲れ果て、カエデに抱きかかえられたリアムの姿だった。


ムドーは、粉々になった檻の残骸を前に、呆然と口を開けていた。

自分の最高傑作が、単なる「飽きた」という理由で、暴力的な魔力によって物理的に破壊された。この事実は、ムドーのプライドを粉々に打ち砕くには十分すぎた。

「お、お主ら……。ワシの、ワシの100年計画の檻を……」

「あ、ムドーさん! ひどいですよ! あんなところに閉じ込めるなんて!」

リアムが涙目で訴えかけるが、その背後ではグレンが槍を磨き、カエデが静かに剣の柄に手をかけている。

「ムドー殿。リアム様を閉じ込めるなどという無礼、本来なら万死に値するが……」

グレンが、殺気すら感じさせない「純粋な狂気」を湛えた目でムドーを見据える。

「……おかげで、リアム様との絆がより深まりました。礼を言いましょう。さあ、次はどの国をリアム様の足元に跪かせればよいですか?」

「……ヒッ……」

ムドーは悟った。

リアムを檻に閉じ込めた一週間、彼女たちはリアムの「神性」を注ぎ込まれ(と思い込み)、以前よりも遥かに強大な、手の付けられない化物へと進化してしまったのだ。

「さあ、行きましょう、リアム様。世界が貴方を待っています」

エレーナがリアムの手を取り、まるで散歩に誘うように歩き出す。

「いやあああ! もう嫌だぁぁ! 誰か、本当に僕をどこか知らない場所に連れてってよぉぉぉ!」

リアムの叫びは、檻を破壊したことへの称賛の声に飲み込まれていく。

賢者ムドーの胃の痛みは、ついに薬では治らない領域へと達し、彼はただ、自分の手から離れて暴走する「神の進軍」を、震えながら見送ることしかできなかった。

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