結果、隣国も堕ちる
賢者ムドーにとって、想定外とは日常の範疇であった。しかし、リアムという存在が介在する時、その「想定外」は物理法則や国家のパワーバランスさえも嘲笑う「天災」へと変貌する。
王都への帰還路の途上、名もなき農村を一夜にして神話の城塞都市へと作り替えた【マスターピース】の狂信。
ムドーは確信していた。このままリアムを「偶像」として放置すれば、隣国を屈服させるどころか、王国そのものがリアムを中心とした新たな宗教国家として独立し、自分の支配体系が内側から崩壊することを。
「……荒療治が必要じゃ。リアム、お主には少々、手荒な旅をしてもらうぞ」
王都の地下深くで、ムドーは禁忌の魔導書を開いた。
彼の目的はただ一つ。リアムをエルドラドへ「迅速に」送り出し、その圧倒的な力を隣国の魔物どもに見せつけ、公国を実質的な属国にすること。
そして何より、この狂った城塞都市からリアムを隔離し、自分の管理下に引き戻すことだった。
深夜、リアムたちが滞留する臨時聖都。
天空の庭園から降り注ぐ光も消え、静寂が支配するはずのその時間に、突如として大地を揺らす咆哮が響き渡った。
「な、……なんだ!? 何が起きたんだ!?」
リアムは豪華な天蓋付きのベッドから転げ落ちた。窓の外を見ると、村の周囲を取り囲む白銀の壁の向こうに、数千、数万という「魔物の眼光」が闇に浮かんでいる。
……実は、これはムドーが放った「幻影魔法」と、洗脳済みの隠密部隊による自作自演の襲撃であった。
(ひ、ひぃぃぃ! やっぱりだ! こんな目立つ城なんて建てるから、大陸中の魔物が集まってきちゃったんだ! 殺される、今度こそ食われる!!)
リアムはパニックに陥り、パジャマ姿のまま部屋を飛び出した。
ムドーの計画はここからが本番である。彼は村の地下に、あらかじめエルドラドの首都へと繋がる「一方向性の超長距離転移陣」を隠密に設置していた。
村の出口を幻影の魔物で塞ぎ、リアムを誘導してその陣へ飛び込ませる。それがムドーの描いた「強制送還」のシナリオだった。
「リアム様! お逃げください! ここは我々が食い止めます!」
カエデが、グレンが、暗闇の中から現れる。彼らでさえ、ムドーの高度な幻影魔法を「本物の脅威」と誤認していた。
「あ、あっちに……あっちに光る床がある! あそこなら助かるかも!!」
リアムは、ムドーが意図的に配置した「誘導の光」へと猛ダッシュした。
(頼む! 誰もいない、魔物もいない、あのうるさい部下たちもいない、静かな田舎へ飛ばしてくれ!!)
ムドーは影の中からその様子を凝視していた。
「……よし、かかった。そのまま陣へ飛び込め。そうすればお主はエルドラドの宮殿のど真ん中に着く。一人で現れたお主に、隣国の女帝は戦慄するはずじゃ……」
だが、ムドーの計算には致命的な欠落があった。
リアムを守る者たちの「忠誠心」という名の異常な執着を、過小評価していたのだ。
「リアム様……! お一人でどこへ行かれるのですか!?」
背後から、アクアとエレーナが、そして武装を解いていないリリーとマリーが、リアムを追って走ってくる。
「待て、お主ら! くるな! これはリアム専用の――」
ムドーの制止も虚しく、リアムが転移陣の光に包まれた瞬間、彼女たちは迷わずその光の中へ身を投じた。
それだけではない。
「……リアム様が、自ら敵の拠点へ殴り込みに行かれるつもりだ!」
グレンが叫ぶ。
「ならば、この城塞ごと、リアム様の覇道の露払いとする!!」
その瞬間、マリーの重力魔法とリリーの植物操作、そしてイブの魔力が転移陣と共鳴した。
ムドーが用意した「一人用の転移魔法」が、彼女たちの過剰な魔力によって書き換えられ、拡張されていく。
村の地下に眠る地脈が唸りを上げ、空間が歪んだ。
「な……!? 何をしておる! 術式をいじるな! 空間が、空間が耐えきれん!!」
ムドーの悲鳴を余所に、転移の光は村の半分を飲み込むほどの巨大な柱となった。
それは「転移」ではなく、もはや空間を物理的に切り取り、移動させる「座標交換」という神の領域の術式へと変貌していた。
魔導公国エルドラドの首都、ルミナス。
その平和な夜は、空がガラスのように割れる音と共に終わった。
夜空から突如として、白亜の塔、白銀の防壁、そして空中庭園を備えた「異形の都市の一部」が、轟音と共に降下してきたのだ。
王宮のバルコニーで、エルドラドの女帝ゼノビアは、その光景を目の当たりにして言葉を失った。
「……何事だ。……隕石か? それとも、空飛ぶ城か……?」
土煙が舞い、王宮の庭園が無残に押し潰された中心。
そこには、パジャマ姿で腰を抜かし、涙目で周囲を見渡すリアムの姿があった。
そして、その周囲には、今にも世界を滅ぼしそうな殺気を放つ【マスターピース】の面々が、完璧な陣形で控えている。
「……ここが、エルドラドの王宮か」
グレンが、槍の先をゼノビアに向け、冷酷に告げた。
「我が主、リアム様がご到着だ。……女帝ゼノビアよ。首を垂れよ。さもなくば、この国は今、地図から消える」
(……いやああああ! 僕はただ逃げたかっただけなのに! なんでお城ごと隣国に来ちゃってるの!? しかも、なんでみんな戦う気満々なの!?)
リアムの心は折れる寸前だったが、ゼノビアの目には、その「無言の震え」が、圧倒的な威圧感によって周囲の空間を歪ませているようにしか見えなかった。
「……応援要請をした瞬間に、首都の真上へ城ごと転移してくるとは……。カルテル王国、いや、リアム……。貴様は私を、最初から対等な同盟相手とは認めていないということか……ッ!」
ゼノビアの額に、冷や汗が流れる。
隣国を「助ける」ために来たはずの一行は、その登場の仕方があまりにも暴力的すぎたため、実質的な「宣戦布告」として受け取られてしまったのである。
一方、置き去りにされたカルテル王国の街道。
ムドーは、大きな穴が開いた地面を前に、呆然と立ち尽くしていた。
「……やった。……ついにやったぞ、あやつらは……」
隣国に恩を売り、リアムをコントロールする?
そんな計画は、今やエルドラドとの「全面戦争」あるいは「即時併合」という、国際問題の極地へと跳ね上がっていた。
もしエルドラドが屈服すれば、それはそれでムドーの悲願に近づくが、その功績は100%リアムのものとなり、ムドーの影はますます薄くなる。
「……サオリよ。胃薬。……一番強いやつを、樽で持ってこい……」
「かしこまりました、ギルドマスター。現在、王都では『リアム様が隣国を物理的に踏み潰しに行った!』と大騒ぎになっております」
「…………」
ムドーは、自分の野心が「リアムという怪物」に完全に飲み込まれていくのを感じながら、一人、夜風に吹かれた。
その夜。エルドラド王宮の一室。
本来は貴賓室であったその場所は、瞬く間に「リアムの支配領域」へと作り替えられていた。
「リアム様……。転移の衝撃で、お疲れでしょう?」
アクアが、混乱しきったリアムをソファに押し倒し、慣れた手つきで服を脱がせていく。
「待って、アクアちゃん……。ここは隣国の王宮なんだよ!? 見つかったら死刑だよ!」
「ふふ、誰も来られませんよぉ。……リリーたちが、外の見張りを全員『木の肥やし』にしましたから」
扉が開き、そこへ屈辱に顔を歪ませた女帝ゼノビアが、武装を解かれた姿で連行されてきた。
「……リアム。貴様の目的は何だ。……私を殺し、この国を奪うことか?」
リアムはあまりの恐怖と緊張に、思わずこう漏らした。
「……そんなこと、興味ないよ。……僕はただ、……静かに、寝たいだけなんだ……」
(※本心:もう疲れ果てたから、一人にして寝かせてくれ!)
だが、ゼノビアはその言葉をこう解釈した。
『一国を奪うことなど、私にとっては日常の些事に過ぎない。……それよりも、貴様自身が私を満足させられるかどうか、それだけを示せ』
「……クッ。……私を、ただの寝具として扱うというのか……。……いいだろう。敗者には、選択肢などない……っ!」
ゼノビアは自らドレスの紐を解き、リアムの足元に膝をついた。
「……煮るなり焼くなり、好きにするがいい……。ただし、我が民には手を出すな……ッ!」
「えっ、ちょっ、ゼノビアさん!? なんで脱いでるの!?」
「リアム様ぁ、新しいおもちゃが増えて良かったですねぇ」
アクアがゼノビアの髪を掴み、無理やりリアムの股間へと顔を押し当てる。
「ほら、エルドラドの女帝さん。……神の洗礼を受けなさい。……貴方のその高いプライドごと、リアム様の精で真っ白に染め上げてあげますから……っ!」
「あ……あぐっ、……んんんーっ!!」
ゼノビアの誇り高い瞳が、リアムの男根を口に含んだ瞬間、快楽と絶辱で激しく揺れ動く。
聖女、魔女、そして女帝までもが、リアムという「虚飾の神」の前に跪き、その夜、エルドラドの王宮には、亡国の悲鳴と、獣のような愛液の音が朝まで鳴り響いた。
リアムの意図せぬ「大陸統一」は、もはや止める者のいない狂気へと加速していく。




