密着五日目・六日目(1)
次の日も、『東京スピリチュアル学院』は休み。東村さんは昨夜から帰宅することなく、ずっと公園で自主練習に励んでいたようです。真似する生き物は、カブトムシやカマキリなど昆虫にまで及んでいました。
東村「大体、四十種類の生き物を完コピできるようになりました。今日中に、あと三十種類はできるようになろうと思います。明日はまた動物霊の霊媒の講座があって、どんな霊を憑依させるよう指示されるかはわかりません。でも、どんな指示があっても前より上手くできる自信があります」
目を血走らせて言う東村さん。一生懸命なのは素晴らしいことですが、限度があります。少しでも睡眠をとったほうが良いのではないかと提案しましたが、「寝る暇があるなら練習あるのみです」と、却下されてしまいました。
一心不乱に霊媒師を目指す東村さんについて、ご家族はどう感じているのでしょうか。東村さんに許可をいただき、ご自宅にお邪魔させていただきました。公園から徒歩五分ほどの距離にある二階建ての一軒家。玄関で私たちを出迎えてくれたのは、奥様の恵里香さんです。
東村さんと恵里香さんが出会ったのは、大学時代。同じサークルに所属していて、恵里香さんは東村さんの二年後輩でした。学生時代は交際していなかったものの、お互いに社会人となって十数年経った同窓会の席で再開。意気投合し、付き合い始めたのだそう。
それから共働きで家計を支え続けてきた恵里香さんに、現在の東村さんのことを聞いてみます。彼の話だと、恵里香さんは『東京スピリチュアル学院』に入って霊媒師になることに反対していたようですが、今はどのように考えているのでしょうか。
恵里香「最初は『何を言い出すんだこのアホ』と思って、本気で離婚しようと考えました。でも、家族のことを最優先でずっと真面目に働いてきた人だし、何より子どもたちのためを思って霊媒師になると言ってましたから、仕方なく許可した感じです。まあ、今でも百パーセント納得しているわけじゃないんですけどね」
やはり東村さんの状況について、思うことがある恵里香さん。その一方、彼のやる気は認めているようです。
恵里香「養成所に入ってから、休みの日は毎週夜中まで公園で予習復習をしていますよ。私に対するアピールも兼ねてるんでしょうけど、本気で霊媒師になりたいんだろうなとは感じますね。昔からそういう人なんです。良く言えば頑張り屋、悪く言えばブレーキが利かない。私が止めてもやるでしょうから、好きにやらせています」
本人がやりたいようにやらせている。そう語る恵里香さんですが、彼女と共に家計を支えてきた東村さんが少なくとも一年間は働けなくなってしまいます。収入が大幅に下がってしまいますが、その点に不安はないのでしょうか。
恵里香「不安はありますよ。けど、あの人、私を説得するときに『霊媒師になったら年収二千万、三千万も夢じゃない』って言いましたから。絶対にそうなってもらいます。もしできなかったら……老衰以外の方法で幽霊になってもらおうかな。なんて」
口角を上げながら言う恵里香さん。彼女なりの冗談なのでしょうが、私たちスタッフの前だから気丈に振る舞っているだけで、内心は東村さんのこと、そして自分たち家族のことを心配しているように見受けられます。
恵里香さんの背後、二階につながる階段の上から女の子と男の子がこちらに走ってきました。長女の花ちゃんと、長男の翔太くんです。花ちゃんは小学校三年生で、翔太くんは一年生。元気いっぱいな年頃です。二人は恵里香さんの心配をよそに、お父さんのことを心から応援しています。
花「パパ、がんばれー! おばあちゃんに会わせろー!」
翔太「お金も稼げー! いっぱい働けー!」
東村さんがいる公園に戻りました。彼は、両腕を胴体に沿わせるように折り曲げ、体を左右に揺らしながらカマキリの憑依芸をしています。
それからおよそ十八時間、東村さんは一睡もすることなく練習を続けて、朝を迎えました。髪はぼさぼさで、服は砂まみれです。しかし家に帰ることなく、その足で『東京スピリチュアル学院』へと向かいました。人生を賭けて霊媒師になる覚悟を決めている彼に、息抜きはありません。徹底的に練習をしたその勢いのまま講座に臨みたいようです。あるいは、前回の授業で講師の清滝さんから受けたダメ出しが、よほど悔しかったのでしょうか。
二日に渡って寝ずの特訓をした東村さんのリベンジマッチが始まります。




