密着四日目
動物霊の憑依芸が上手くいかなかった東村さん。翌日は『東京スピリチュアル学院』の定休日だったため、朝五時から近所の公園で憑依芸の自主練習をしていました。
スマートフォンで狐の動画を再生しながら、鳴き声や動きを真似します。四つ足で歩きながら、「くるるうんくううん……きょおんきょおおおん」と声を発する東村さんは、昨日よりかなり上達しているように見えました。
三時間ほど憑依芸を続け休憩に入った彼に、お話を聞きます。
東村「清滝先生がおっしゃったとおり、昨日僕がやったのは、お世辞にも狐とは言えませんでしたね。全く狐らしくなかった。もっと正確にイメージできないと、霊媒は成功しないと思います。身も心も狐にならないと。いや狐だけじゃなくて、どんな動物でも憑依させられるようにしないとですね。清滝先生は、鳴かない動物でも憑依させられるそうですから、そのレベルに達したいです」
東村さんは狐以外にもさまざまな動物の動画を再生し、次々に真似していきました。公園を利用する子どもやカップルなどに不審そうな視線を向けられても、彼の自主練習は止まりません。
深夜十一時を過ぎても、まだ続けていました。
東村「この程度で家に帰ったんじゃ、妻に怒られちゃいますよ。『仕事も辞めて、何百万も払って霊媒師になるって言ったのに、中途半端なことしてんじゃねえ』って。だから、あと二時間は続けようと思います」
顔に疲れが出ているように見える東村さんですが、そう言って自分を鼓舞します。
エリマキトカゲの憑依芸の練習に取り掛かったそのとき、東村さんに二人組の女性が近づいてきました。年齢は二十代前半くらいでしょうか。二人とも形容するのが難しい奇抜な服装をしていますが、強いて言うなら「恋愛以外の悩みが一つもなさそう」といった出で立ちです。
女性たちはかなり酔っ払っているようで、東村さんに絡み始めます。
女性A「おじさんさあ、こんな時間に何やってんのー? 危ない人ー?」
東村「いや、私は霊媒師の卵で」
女性B「霊媒師? やば。マジでそんなことやってる人いるんだー。草生える」
女性A「ねえ、おじさん、アタシらに守護霊ついてる?」
東村「わからないですね。僕は霊が見えるわけではなく、霊を体に憑依させて死者との対話を可能にするというだけで」
女性B「ふーん。全然違いがわからんからさあ、やって見せてよー。お金払うからー」
東村「えっ、まあ、いいですけど……。お金は結構です。まだ修行中の身ですので」
女性たちのリクエストを受け、東村さんは彼女たちの前で憑依芸を披露することになりました。酔っ払っている人とはいえ、客観的な評価をもらえる良い機会かもしれません。今しがた練習しようとしていたエリマキトカゲに、朝から練習していた狐、それからゴリラ、セイウチ、タカアシガニなど数種類やってみせました。
女性たちは大爆笑。手を叩きながら「上手い! 上手い!」と、東村さんをおだてます。あくまで泥酔している彼女たちの評価ではありますが、褒められた東村さんは満更でもなさそうです。
女性たちは「ありがとー! 頑張ってねー!」と言い残し、その場を去ろうとします。彼女たちの声援を受け、エネルギーが湧いてきたのでしょう。東村さんの顔から疲れが消え、一段とキレの良い動きで憑依芸の練習を再開しました。
せっかくなので、彼女たちにもお話を聞いてみます。東村さんの憑依芸を見て、どう思ったのでしょうか。彼から少し離れたところで、本音を伺います。
女性A「なんか、人生が追い詰められたおじさんの悪あがき的な。水面を必死にもがいて生きようとしてるアリみたいで、マジウケた」
女性B「わかる。いろんな生き物のモノマネしてくれて、どれも上手いんだけど、なんか全部に『死にかけのアリ』感が漂ってるんだよね。何をやってても、おじさんの限界っぷりが真っ先に目の奥に飛び込んでくる感じ」
女性A「モノマネそのものじゃなくて、あのおじさんの生き様が哀れでウケる」
女性B「さすがに笑ってあげないと可哀想だなって思った」
彼女たちはシビアな感想を抱いていました。二人から聞いたことは、東村さんには伝えないようにします。




