密着三日目
今日、『東京スピリチュアル学院』で行われる講座では、学院長の清滝蓮源さんが自ら教鞭をとるとのこと。その様子を見せてもらいました。
学校の教室の二倍くらいの広さの部屋。パイプ椅子に座った清滝さんを半円形に囲むように、生徒たち数十人が床に座っています。清滝さんの真正面には、葬儀屋を退職して受講を始めた東村さんの姿がありました。
これから行われるのは、「動物霊を体に憑依させるトレーニング」。霊媒は、人間の霊魂を呼び出して自身の体に憑依させるだけではありません。飼っていたペットと再会したいという想いから、動物霊の霊媒を依頼する人もいます。清滝さんも動物霊を体に宿し、かつての飼い主たちと再会させてきました。
また、動物霊は「低級霊」と呼ばれ、人間よりも呼び出すのが簡単なのだそう。私たちもよく知っている、紙と十円玉を使った『こっくりさん』で呼び出すことができ、霊感は不要なのだとか。
清滝さんは、自身のすぐ目の前の床に、ひらがなが書かれた紙と十円玉を置きました。
清滝「みんな、『こっくりさん』は知ってるでしょ? この『こっくり』って、漢字では『狐』『狗』『狸』って書くの。つまり動物の霊を呼び出す儀式なんだよね。今から一人ずつ、ここで『こっくりさん』をやってもらうから。紙の上にある十円玉に人差し指を添えて『こっくりさん、こっくりさん、おいでください。おいでくださいましたら「はい」へお進みください』って唱えて。十円玉が『はい』に動いたら動物霊が呼び出された合図。そしたら頭の中を空っぽにして、思考をゼロにして、霊を体の中に迎え入れて」
霊媒の方法を一通り説明した清滝さん。そして「一番最初にやってみたい人は?」と、生徒たちに挙手を求めます。真っ先に手を挙げたのは、東村さんでした。様子をうかがうような素ぶりの生徒がほとんどの中、東村さんはやる気が違います。
清滝「東村さん、素晴らしいね。じゃあ、やってみようか。失敗してもいいから、こっくりさんの漢字に含まれている『狐』の霊を呼び出してみよう。十円玉が動き出す直前まで、狐を強くイメージしてみて」
清滝さんに指名された東村さんは立ち上がり、紙に近づいて正座をします。そして十円玉に指を伸ばし、動物霊を呼び出す呪文を繰り返し唱え始めました。
東村「こっくりさん、こっくりさん、おいでください。おいでくださいましたら『はい』へお進みください。こっくりさん、こっくりさん、おいでください。おいでくださいましたら『はい』へお進みください」
唱え始めてから三十秒ほど経つと、徐々に十円玉が紙の上を滑り始めました。そして「はい」の文字に重なりました。動物霊を呼び出すことに成功したのでしょう。
清滝「順調だね。そしたら目を閉じて、頭の中を空っぽにして。何も考えちゃダメだよ」
清滝さんのアドバイスどおり、東村さんは目を閉じます。そのまま一分近く沈黙。やがて、東村さんのまぶたがピクピクと痙攣し、白目を剥きました。
東村「こ……こここ……こん……こーん……こんこん……こーんこんこん」
こんこんと、繰り返し口にする東村さん。彼の体の中に狐の霊が入り込んだのでしょうか。鳴き声のような彼の声は止まりません。
霊媒に成功した。そう思われましたが、清滝さんは手を叩きながら「ストップ! ストーップ!」と大きな声を出します。同時に、東村さんの意識が元に戻りました。鳴き声が止まり、まぶたの裏に隠れていた黒目が正面に現れます。
腕を組み、眉間にしわを寄せる清滝さん。不満そうです。何か問題があったのでしょうか。
清滝「うーん、途中までは良かったんだけどね。狐の鳴き声って『こんこん』じゃないの。もっと犬っぽいの。でも『わんわん』って感じでもない。わかる? 東村さんがやった狐は、狐じゃないんだよね。獣っぽさが全然足りてない」
清滝さんの口から出たのはダメ出しでした。「はい」と小さく口にし、肩を落とす東村さん。どうやら霊媒は失敗だったようです。
清滝「もう少しトレーニングが必要だね。でも、見事なチャレンジでした。みんな、東村さんに拍手!」
生徒たちの拍手が教室を包みます。東村さんは生徒たちのほうへ戻り、再び座りました。
清滝「そしたら次は誰がやる? どうせ全員やるんだから、積極的にね」
こうして順番に生徒たちが霊媒をしていきました。この日の講座に参加した八十九人のうち、清滝さんから褒められたのは七人のみ。他の生徒は東村さんと同じようにダメ出しを受けてしまいました。
講座終了後、清滝さんにお話を聞きました。実際に指導する様子を見て、私たちスタッフがイメージしていた霊媒のトレーニングと乖離があったためです。東村さんもそうでしたが、霊媒をしていた生徒たちは、清滝さんの言葉で瞬時に憑依が収まりました。端から見ていると、本当に霊が憑依していたわけではなく、憑依している「演技」をしていて、それを止めただけのように感じられたのです。
生徒たちは演技をしているだけではないか。そう清滝さんに伝えると「ええ、そんな感じですよ」という意外な答えが返ってきました。
清滝「霊媒師の役割は、依頼人に『亡くなった方と再会できた』と思ってもらうことです。本当に霊魂を体に憑依させられたかどうかは重要ではありません。もちろん憑依させられればベストです。しかし、たとえ演技だとしても、依頼人が『再会できた』と感じて悲しみを払拭できれば、それで良いんですよ。それもまた救いです。けど、生半可な演技では依頼人に信頼してもらえません。だから、演技をするにしても霊媒師自身が『自分に霊魂が憑依した』と暗示をかけ、徹底的にやる必要があります。そのためのトレーニングを行うのが『東京スピリチュアル学院』であり、霊感がない生徒でも霊媒ができるようになる理由です」
清滝さんの言葉をまとめるならば、生徒に憑依芸を教えているということになります。今日の講座で「こっくりさん」を行ったのも、生徒たちに「儀式をやったことで動物霊を呼び寄せた」という自己暗示をかけさせるためだったのだそう。「こっくりさん」は、より精度の高い憑依芸をやらせるための補助具だったということです。
清滝「やがては道具を使わずにできるようになってもらうことが目標です。中には、トレーニングを繰り返すことで霊感に目覚め、本当の霊媒ができるようになる生徒もいます。ですが、そういう人は何百人に一人ですね。今期に受講している生徒の中には……いないかもしれません。でも、良いんです。霊感に目覚めなくても、上手く自己暗示をかけられるようになってくれれば」
受講初期の段階で動物霊の霊媒を行うことにも意味がありました。
清滝「人間の霊魂を呼び寄せて霊媒をする場合、亡くなった方の生前の口調や癖、記憶などを完璧にトレースしなければなりません。だから非常に難しいんです。事前の情報収集も欠かせません。でも動物の場合、そこまで細かく真似できなくても依頼人は信じてくれます。難易度が低いんです。だから、最初のステップとしては動物霊の霊媒がぴったりなんですよね」
『東京スピリチュアル学院』のカリキュラムは、憑依芸をマスターするために組まれたものだったのです。
私たちスタッフは、この養成所で教えている霊媒の認識を改めました。




