密着二日目
この春から『東京スピリチュアル学院』に入学した男性がいます。東村高雪さん、四十五歳。大学を卒業してからおよそ二十三年間、葬儀屋で勤務してきた東村さんですが、退職して霊媒師を目指すことにしたそう。
なぜ霊媒師になろうと思ったのか、お話を聞きました。
東村「仕事柄、故人との別れを惜しむ方をたくさん見てきました。故人が眠る棺桶の中に向かって、生前伝えられなかったことを涙ながらに口にする方が大勢いて。反対に、故人も家族や友人に伝えたかったことがあったはずです。この両者をつなぐ方法はないのかなって、若い頃から漠然と考えてきました」
今生の別れを数多く見届けてきた東村さん。その中で感じた人々の悲しみを晴らす方法を探し続けてきました。
東村「何か行動を起こさなければと決心したのは、僕の母が死んだときです。僕も妻も働きっぱなしで、娘と息子の世話は母に任せていました。子どもたちにとって、僕らよりも祖母のほうが親だったと思います。だから二人とも、葬式では脱水を起こしてしまうのではないかと心配になるくらい泣いていました。それを見て、子どもたちと母をもう一度会わせたいと思ったんです。我が子が悲しい思いをしてようやく重い腰を上げたというのは、情けない話ですが」
娘さんと息子さんが感じた無念の気持ち。それを晴らすには自身が霊媒師となり、お母さんの霊魂を体に宿すしかないと、東村さんは考えました。そして、もし霊媒の力を身につけることができれば、子どもたちと同じように故人との別れを惜しむ人々も救えると思い、『東京スピリチュアル学院』の門を叩いたのです。
しかし、『東京スピリチュアル学院』の入学金は二百万円。その上、カリキュラムは週五日、朝十時から夜十九時まで続きます。葬儀屋で働きながら受講することはできないため、東村さんは退職しました。現在の収入はゼロ。やはり金銭面での不安を感じているそう。
東村「綺麗事を言いましたけど、しばらくは無収入になって、貯金を切り崩しながら生活しないといけません。だから霊媒師になれたら、それなりにお金を稼ぎたいなとも思っています。妻には仕事をしてもらっていますが、彼女の稼ぎだけで四人家族の生活費をすべて賄うのは無理です。子どもたちもまだ小学生で、これからもっと学費がかかります。下世話な話ですが、霊媒師になって葬儀屋のときより稼げるようになりたいって気持ちは……正直に言うとありますね」
入学金と、向こう一年間の生活費は東村さんの貯金で確保できたものの、卒業後はいつまで生活ができるかわからないとのこと。霊媒師を目指すのは、彼にとって一か八かの賭けでした。もし霊媒師として稼げるようになれなければ、自分だけでなく家族も路頭に迷うかもしれない状況。東村さんに逃げ道はありません。
東村「同期入学した生徒が百人以上いますけど、一番真剣に授業を受けているのは僕だと思います。こっちは、自分と家族の命を賭けてますからね」
東村さんがこれほど高いリスクをとってまで霊媒師を目指す必要があるのでしょうか。お子さんたちを再びお母さんに再会させるのならば、東村さんが霊媒師にならずとも、すでに活動している霊媒師に依頼すれば良いように感じます。そのほうが安く済むでしょうし、仕事を辞めずに済んだはずです。それでも東村さんが『東京スピリチュアル学院』に入学したのには、もう一つの理由がありました。
東村「僕が就活していたときって、就職氷河期の真っ只中だったんですよね。仕事を選ぶことなんてできなくて、内定が出るだけでもラッキーみたいな。だから、第何志望だったかもわからない葬儀屋の内定に飛びついたんです。そのまま働き続けて、家族を養う必要が生まれて、気づけば四十代後半に差し掛かっていました。やりがいのある仕事なのは間違いありませんが、心からやりたかったことではありません。だから段々と、『この先も、やりたかったわけではない仕事に人生の時間を費やし続けても、後悔はないのかな?』って気持ちが大きくなってきて。チャレンジしたくなったんです。霊媒師じゃなくても良かったんですけど、何かにチャレンジしないまま死んだら、それこそ幽霊になってこの世に居座り続けちゃうような気がして」
人生における大きな選択の一つである就職。そのときにやりたいことを仕事として選べなかったという東村さんは、自分の人生に対して後悔の気持ちを抱いていたようです。就職した当時の情勢的に、安定した生き方が何よりも望まれていました。東村さんもそんな風潮に流され、なるべく安牌な人生を歩むよう努めてきたそう。けれど、そんな生き方に嫌気が差すようになり、少しでも人生を変えたくなったと語ります。
東村「妻からは猛反対されました。『自分のわがままに家族を巻き込むな』って。妻の言うとおりだと思います。それでも、子どもたちと母を会わせたいという気持ちがありましたから、『必ず大金を稼ぐ』と約束して、何とか納得してもらいました。妻と揉めたことはほとんどなかったので、これだけでも僕としては大冒険でしたね。けど、本当の冒険はこれからです。妻にこれ以上負担をかけないためにも、絶対に霊媒師になります」
自分の人生、そして家族の人生も賭けて霊媒師を目指す東村さん。はたして彼は無事に『東京スピリチュアル学院』を卒業し、職業としての霊媒師になれるのでしょうか。




