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密着一日目

 自分の体に霊魂を取り()かせ、その口を使うことで死者との会話を可能にする『霊媒(れいばい)』。この霊媒ができる人たちのことを『霊媒師(れいばいし)』と呼びます。


 霊媒師には、一朝一夕(いっちょういっせき)でなれるわけではありません。専門的なトレーニングを長い期間に渡って積む必要があります。そのトレーニングをプロが指導し、未経験から霊媒師を育成している養成所が、ここ『東京スピリチュアル学院』です。現在、十八歳から八十二歳まで、およそ百二十人の生徒が在籍。週五日みっちりと、霊媒師になるためのカリキュラムを受講しています。


『東京スピリチュアル学院』を統括しているのは、学院長の清滝蓮源(きよたきれんげん)さん。現役の霊媒師でもあり、活動歴は四十年を超えます。一九九〇年代後半から二〇一〇年ごろにかけて、心霊系のテレビ番組にも多数出演。「人間だけでなく動物の魂も憑依させられるおじさん霊媒師」として人気を博しました。


 清滝さんが『東京スピリチュアル学院』を開設したのは今から八年前。彼が五十五歳のときのことです。霊媒師として活動し始めた当時に比べて、幽霊や霊魂の存在を信じない人が増加していたと言う清滝さん。一方、霊媒の依頼は絶えず届いており、その数は清滝さん一人では対応しきれないほど膨れ上がっていたそうです。それだけ多くの人が今は亡き人と話す機会を求めていて、そのニーズに応える必要があると感じた清滝さんは、後進育成の場として『東京スピリチュアル学院』を開設したのでした。


清滝「死は何の前触れもなく訪れることがあります。亡くなった方に伝えたいことを伝えられないまま死別してしまう人は数え切れません。そういった人たちの悲哀を解消できるのは、今のところ霊媒だけです。科学が発展した現代でも、亡くなった方と対話する技術は確立されていませんからね。私たち霊媒師を求める人は大勢います。その人たちの声に応えるには、より多くの霊媒師が必要です。だから私は『東京スピリチュアル学院』を作りました。霊媒師を増やすことは、社会貢献にもなると思っています」


 そう語る清滝さん。しかし、霊媒師になるには霊魂を知覚する力、いわゆる『霊感』を備えている人でなければ難しいように思えます。その力は、一部の人のみ備えているものでしょう。誰でも霊媒師になれるわけではないように感じますが、『東京スピリチュアル学院』では霊感の有無を入学条件に含めていないそう。


清滝「確かに、霊感を持っている人のほうが霊媒師に向いています。私もそうでしたが、強い霊感を持つ人ほど短い訓練期間で霊媒を体得可能です。早い人だと、一週間もかかりません。しかし、私が作ったカリキュラムを一年間こなせば、霊感が全くない人でも霊媒師になれるんです」


『東京スピリチュアル学院』は四月に入学し、翌年の三月に卒業となります。カリキュラムの受講期間はおよそ一年間。この一年間で、霊感を持たない状態から霊媒師として活動するに至った卒業生が三十人程いるとのこと。カリキュラムの効果は実証済みです。


 ただ、開設してから八年間で三十人というのは少ないように思われます。清滝さん(いわ)く、この数字は「専業で霊媒師をやっている卒業生の数」とのこと。


清滝「霊媒ができることと、霊媒師を生業(なりわい)にできることは、また別の話です。霊媒師としてお金を稼いで生活するには、商才が必要になると思います。『東京スピリチュアル学院』で育成するのは、『霊媒ができる人』という意味での霊媒師です。霊媒師として稼ぐための能力を身につけさせることは目的としていません。私たちが定義する霊媒師には、受講生のほぼ百パーセントがなって卒業していきます。卒業後に霊媒を仕事とするかどうかは、各生徒の判断です」


 霊媒ができる人を育てるのが『東京スピリチュアル学院』の目的であり、霊媒師としてお金を稼げる人を育てることが目的ではないと、清滝さんは明言しました。この方針には、彼の強い想いが込められているのです。


清滝「本音を言うと、私は誰に対しても無料で霊媒をやってあげたいんです。けれど、それでは依頼の数がもっと増えてしまって、私の寿命をすべて費やしても対応し切れません。だから仕方なく有料にして、依頼数を制限しているんです。こういう状況は、本来あってはならないことだと思います。困っている人がいれば無償で救いの手を差し伸べるのが、霊媒師である前に人として正しい姿だと。それを実現するために、私と等しいレベルで霊媒ができる人を増やす養成所を作ろうと考えました。卒業生には、できれば対価を求めず霊媒をやってほしいと思っています」


 霊媒を求める人全員に、死者と対話する機会を与えたい。そのために、無償で霊媒を行う霊媒師を増やす。これが、清滝さんの本当の願いです。とはいえ、すべての生徒に対し彼の考えに従うことを強制しているわけではありません。現に、専業の霊媒師として活動している卒業生が約三十人います。その中には、年収数千万円を稼いでいる人もいるのだとか。そういった卒業生を(とが)めるつもりは、清滝さんにはないそうです。


清滝「そもそも私が専業の霊媒師だったわけですから、『霊媒でお金を稼ぐな』とは口が裂けても言えません。それに、依頼人からお金を取っている卒業生は私と同じように高い能力があって、たくさんの依頼が寄せられてしまったから仕方なく有料にしているのだと思います。それだけ高い能力を持つ霊媒師を輩出できたのだと考えれば、『東京スピリチュアル学院』としては誇らしいことです。今後、霊媒師の数が増えればきっと、その中から無償で霊媒を行う人も出てくるでしょう」


『東京スピリチュアル学院』のホームページやパンフレットには、専業で霊媒師をしている卒業生の実績や収入額などが大きく記載されています。やはり卒業後に目立った活動をしている霊媒師をPRに起用したほうが、新規の受講生を集めやすいのだそう。霊媒師の母数を増やすために、今の段階ではこういう手段を取らざるを得ないと、清滝さんは言います。


清滝「悲しいかな、『霊媒師になって死者との別れを惜しむ人たちの心を救おう』みたいなキャッチコピーじゃ、生徒は全然集まらないんですよね。新しいキャリアとして霊媒師になりたい人が多くて、そういう人ほど卒業後に霊媒師として稼げるかどうかを重視しますから」


 渋々といった口調で語る清滝さん。しかし、『東京スピリチュアル学院』の入学金は二百万円。決して安い金額ではありません。卒業後に少しでも稼いで、入学金の分くらいは取り戻したいと思う生徒が多いのも(うなず)けます。


 実際に受講している生徒たちの声も聞いてみました。まずは、大学卒業後すぐに入学したという二十代の男性。


男性生徒「会社で働くのはしんどそうだから、就職せずフリーランスになりたかったんです。でも稼げるようなスキルがなくて悩んでいたとき、『東京スピリチュアル学院』のホームページを見つけました。霊媒師として年収二千万を超えてる人もいるって書いてあったので、僕もそうなりたいなと」


 続いて、専業主婦だという五十代の女性。


女性生徒「子供が全員自立して、時間に余裕ができたんです。その時間を使って老後の生活資金を稼ごうと思ったんですけど、年齢的に今から就職するのは厳しいじゃないですか。で、友達に相談したら『東京スピリチュアル学院』のことを教えてくれて。副業みたいな感じで霊媒師を始めるのもありだなと思って入学しました。もし年に何千万も稼げるようになれれば、ちまちま働くより早く老後に必要なお金が貯まるでしょうし」


 どの生徒に話を聞いても、入学の動機にはお金が関わっていました。『東京スピリチュアル学院』の方針から()れているように思えますが、清滝さんは「それでも良い」と言います。


清滝「きっかけはどうあれ、今は『世の中に霊媒師が増えればそれで良し』と考えるようにしています。ありがたいことに毎年百人以上の生徒が集まりますから、私は彼らの期待に応えられるようなカリキュラムを用意して、やがては社会貢献ができるよう、しばらくはこの養成所を維持することに専念するつもりです」

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