表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴れの国で、恋をした  作者: 櫻木サヱ
すれ違う想いと、文化祭の奇跡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/96

見えない線、近付く影

夏海は家に戻ってきたものの、

玄関で靴を脱ぐ手が止まり、

心のどこかがふわふわと浮いたままだった。


(灯……なんであんな顔したん?)


寂しそうで、諦めたようで、

でもどこか優しかった——

あの笑顔が頭から離れない。


ソファに座ってスマホを見つめたけれど、

陸からのメッセージを開く気になれなかった。


(……今、誰のこと考えとるん?)


自分に問いかけた瞬間、胸がぎゅっと掴まれた。


(灯じゃん……)


認めてしまった途端、涙がこぼれそうになる。


***


その頃、灯は自室でベッドに倒れ込んでいた。


部屋の天井を見つめ、

右手に残る“話したかった感触”がまだ消えていない。


「……夏海、泣きそうな顔して……なんで陸からの連絡でああも動揺するんじゃ」


言葉にしてしまった瞬間、

胸の奥でずっと押し込めてきた気持ちが暴れ出す。


(分かっとる。分かっとるんじゃ。

わしは夏海に、また惹かれとる)


でも——


(今さら寄っていって、また夏海を苦しめたらどうするんじゃ)


自分の気持ちを抑え込もうとすると、

胸の痛みが余計に膨らんだ。


「……わし、何しとるんじゃろ」


灯は両手で顔を覆い、

深く深く息を吐いた。


***


その夜。

里奈は自分の机に広げたノートに目を落としながら、

何度もスマホを見ては閉じていた。


(夏海ちゃん……灯くんと、あんなに自然に並んで歩くんだ)


胸にざわりと波が立つ。


里奈は夏海を嫌いなわけじゃない。

むしろ、あの素直さが羨ましいくらいだった。


だけど——


(灯くんが……あんな顔するなんて。

やっぱり……夏海ちゃんのこと、特別なんだ)


認めたくない“答え”が、

はっきりと形になって胸に刺さった。


「……だからって、何もしないで見てるだけなんて、できない」


そっと唇を噛みしめながら、

里奈は決意を固めていく。


(わたしにも……チャンスはあるはず)


その目は静かだけど確かに強かった。


***


翌日。

レッスン前のスタジオに入ると、

夏海は灯の姿を探している自分に気づく。


(……どしたん、あたし)


分かってる。

昨日の続きが気になって仕方ない。


けれど灯は、

いつも通り笑って、いつも通り仲間と話していた。


ただ——


夏海にだけ、目を合わせない。


胸がズキッと痛む。


(……避けられとるん?)


気づいた瞬間、心臓の奥が冷たくなる。


***


美月はその変化を逃さない。


「んー……またなんか進展あったんやな?」


にやっと笑うと、

美月は夏海の肩をポンと叩いた。


「夏海、あんたさぁ……

想い伝えんと、ほんまに誰にも取られるで?」


夏海はびくっとして顔を上げた。


「だ、誰に……?」


美月は唇の端をつり上げる。


「例えば……里奈とか?」


「っ……!」


一瞬で心が乱れた。


美月は肩をすくめる。


「だってあの子、昨日あんたのこと見てたし、

灯のことも見とったし……

動き出す気満々の顔してたで?」


夏海は手が震えているのに気づいた。


(やだ……里奈に、灯……とられたくない)


胸の奥に、初めて“怖さ”が宿る。


***


スタジオの扉が開く音。


夏海が顔を上げた瞬間——

そこには灯と里奈が並んで入ってきた。


距離は近くない。

でも、ふたりは自然に笑っている。


里奈は灯に何かを渡し、

灯はそれを受け取って軽く笑った。


そのたった数秒のやり取りだけで

夏海の心臓は大きく揺れた。


(……嫌だ)


初めて、自分の心がハッキリ叫んだ。


(灯が、誰かの特別になるの……嫌なんや)


そんな夏海を、

美月はあきれたように、でも優しく見つめていた。


「やっと気づいたんやね。

夏海、あんた……灯が好きなんやろ?」


夏海は——

涙がにじむ瞳のまま、

自分でも声にならないほど小さく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ