うち、ほんまの恋知らんのんよ
放課後、渚は教室に残っていた親友・愛理と机を並べてお菓子をつまみながらおしゃべりしていた。
「なぁなぁ、渚…今日の悠真のこと、なんか変じゃなかった?」
愛理はにやっと笑う。
「変…って、どーゆーことよ?」渚は少し顔を赤くして答える。
「ほら、やっぱり意識しとるやろ?」
「ち、違うし!」
渚は必死に否定する。でも、心の中では小さなドキドキが止まらないことを自覚していた。
愛理は鋭い目で渚を見つめる。
「ねぇ、渚ってさ…恋とか、したことあるん?」
渚は首をかしげ、少し俯く。
「うち…ほんまの恋って、よう知らんのんよ」
渚の声は小さく、でも真剣だった。ギャルで派手な見た目の自分と、この純粋な気持ちのギャップに、少しだけ戸惑う。
愛理は渚の手を軽く叩いて笑う。
「まぁ、初めてじゃけぇドキドキするんじゃろ。お前、可愛いとこあるじゃん」
渚は顔を赤くしながらも、心の奥では嬉しかった。
「…そ、そんなんじゃないし…」
でも、目は逸らせない。
その日の帰り道、渚は一人で倉敷の商店街を歩く。
夕暮れの光に染まる街並み、川沿いの風景、地元の人たちの笑い声。
どこか落ち着く風景の中で、今日の出来事を思い返す。
「悠真…あんたのこと、考えすぎじゃろか…?」
自分でも答えがわからないまま、心はザワザワする。
でも、確かに一緒にいると、胸がきゅーっとなる感覚は本物だった。
家に帰ると、母・美佐子が夕飯の支度をしていた。
「渚、今日も派手じゃなぁ。学校で目立っとるんじゃろ?」
渚は笑顔で答える。
「うん、でも…楽しかったんよ」
母には恋のことは内緒にしておく。ギャルの顔と純情な心、二つの顔を持つ自分の秘密を守りながら、渚は明日も悠真に会えることを少し楽しみに思っていた。




