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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第6章 三人の転生者《イレギュラーズ》、巣作りする

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6-05.熱気球

 ヤマトゥーン領キタのみなとで発生した、引き渡し前の御用船焼き討ちという予想外の事件は、関係者全員に不幸しかもたらさなかった。


 実行犯はもちろん、管理責任を問われたキタの津の集落代表以下水軍衆の幹部連中は粛清され、集落全体が落ち着かない空気に染まっている。

 ヤマトゥーン家は、御用船だけでなく俺たちに対するメンツも失い、さらに手付金名目で最低限の金銭保証まで出すことになった。

 俺たちにしても丸損ではないというだけで大打撃である。試作外輪船を売り払った金で次をつくる自転車操業プランに赤信号が灯っている。


 ただの商取引なら、引き渡し完了までの瑕疵担保責任は売り手である俺たちにあるらしいが、不埒者を出したのは買い手のヤマトゥーン家管理下の衆であり、かつ、ほぼほぼ名目上の存在でしかないにせよ、ハヅキは自領を有する領主。

 引き渡し前はハヅキの財産でもあるわけで、それを焼き討ちとなれば、他家領主へのご立派な攻撃となる。

 ハヅキが報復権をもってヤマトゥーン家や領地にむくいても何ら問題はない。


 やってどうするというのはさておき、貴族的メンツの常識から何らかのアクションを起こすのは必須なわけで、むしろ責務と言ってもいい、らしい。

 貴族とは、舐められるわけにはいかん、ヤクザな商売である。

 よってヤマトゥーン家は後手に回るよりも速攻で和睦交渉を望み、痛み分けで手打ちにしましょう的な会談となったわけである。


 小難しいことはともかく、本件により俺たちの資金不足は深刻な問題となった。

 生活費はともかく、領土開発や造船そのほかの事業を続ける金がないのだ。


 事件の後始末にせっかくヤマトゥーン家四兄弟が揃っているので、新たな投資を引き出すべく試作熱気球のプレゼンを敢行。

 冬の風に飛ばされないよう、しっかりとロープを結わえた布袋に焚火からの熱気を送り込み、いい塩梅に浮力がたまったところで下部に人形の入った籠をぶら下げる。


 ぷかんと宙に浮く試作熱気球を、焚火を囲む男たちが空を見上げるさまは、ある意味では絵になる光景だったかもしれない。


「単に浮かぶだけですし、高度もまずは十メートルか二十メートルか。ロープで地上に結わえて風で流されないように、といった運用を予定しております」

「極めて限定的ではあるが、空に手が届くと、そう言うのだな」


 熱気球の理屈は単純だ。

 温められた空気は、周囲の、冷たい空気より軽い。

 よって温かい空気を集めれば、周囲との差で浮力が生じ、空に浮かぶ。


 なんで試作どまりかといえば、布がね、めっちゃ高いのよ。

 前世日本の感覚で言えば、Tシャツ一枚十万円とか、それくらいになってしまうくらいに、布が高い。

 そんな貴重な布を、しかも目の詰まった高級布を、さらに密閉性を上げるために膠ぬりぬりなんてして、ほかに使い道のないシロモノにしてしまったことで、俺は女子組に白い眼を向けられたのだ。

 一張羅数着分をパーにして、できたのが人形をかろうじて持ち上げるおもちゃでしかないのだから、気持ちはわかる。


 さて、人が乗れるサイズの熱気球には、いったいどれくらいの布が必要でしょう。

 答え、金がない。

 現実は非情である。


 ヤマトゥーン男爵家御当主オブムス様は叫んだ。


「アイク、急いで俺の執務室から金袋持ってこい!」


 熱気球の価値を理解できる金づる(スポンサー)様でよかったよ。


 しかしここはキタの津。領都ヤマトゥーンとは船で一日ほどの距離。

 俺たちは使いっ走りをさせられそうになったアイクリス様を呼び止め、オブムス様やハイラルともども、一緒に領都へと移動して詳細を詰めた。

 三男ウイフェン様は、当面キタの津に残り鎮撫の仕事がある。


 熱気球開発資金と資材、およびお針子さんの提供、完成品の引き渡しなど、ざっくりとした諸条件とロードマップを交換し、夕食会では他愛もない雑談に興じる。


「湿地帯を埋め立てて土地造成中とは聞いていたが、干拓ではないのだな」

「水抜きは必須やけんど、高さがないと出水一発で沈むけんなあ」


 ……手押し式のポンプ、あるみたい。

 俺たちよりも前の時代に転生か転移した先人達の苦労の結晶だろうか。

 ただし、素材は主に鋳鉄で、すぐさびる。パイプも同様ゆえに、錆を気にしない排水ポンプとしてしか使われていないそうだ。


「土手囲い先にして内池から水抜きすれば、土砂中の水の抜けも多少マシになるやろか?」

「明確な逃げ場になるからなあ。どんだけの差が出るかはわからないが」


 やってみればわかるだろう。

 幸い、ポンプ数セット買ったところで、小舟をつくるよりかは大分安い。

 一辺十メートルのマス目ごとに区画を切っているから、適当なところを埋めずに水たまりにしておくのも簡単だ。


「しかしまあ、土地を造るとは壮大な話だ」

「時間と金のドツボやねん。湿地帯の中にも小島はあるし、水路引いて島に住むのが先かいなあ」

「そのためにも、全体像の把握をしたくて、だから熱気球なんだがな」

「下手に踏み込むと、風土病か……」


 今のところ、ヤマトゥーン家はハヅキ領に友好的である。

 湿地帯の南や東を接する他家に対しても、ある意味では後ろ盾的なポジションについている。


「風土病の撲滅というお題目はもちろんだが、期待もある」

「例えば現在は、湿地帯をこえてヴァルド川までは行けない。だが、ハヅキたちが水路を確定させれば、通行料だけで通れるようになる」

「自分らで危険を冒して調査するよかマシってか?」

「すまんな。これも政治だ」


 そう言ってくれた方がわかる。

 今は持ち直しているが、湿地帯調査に踏み込んだ三男ウイフェン様以下、風土病で結構な犠牲を出しているからこそ、丸投げしてしまおうとの判断らしい。


 会談後、俺たちは、ヤマトゥーン領の拠点、ミナヅキとフィリアさまの愛の巣にお邪魔した。


「いやまあ、パーティのお金でパーティの家に暮らしているわけだから邪魔とは言えませんけどね」

「キタの津の屋敷は引き払って、夢の島の仮設拠点にアンカー移すけど、住居はしばらくこことツェルマットだけになる予定や」


 顔合わせなんかの行き来は転移門トランスファー・ゲートで跳ぶが、それぞれが表向き『どこにいる』のかの管理も割と面倒くさい。

 たとえば今の俺たち三人は、御領主家を訪問した直後で領都外へ出た記録もないから、領都にいることになっている。

 スコールの兄貴によるダミー交易がせっせと往復しているので、それとタイミングを合わせて移動し、『いる』ところを合わせている。


 ハウスキーパーじゃないんだけどなあとつぶやきながら、俺たちの寝泊りする部屋を整えるためにフィルが出ていった。


「試作熱気球では空気の密度を外1.0、気球内0.85で計算したけど、それほど外れてないみたいだな」

「おもり付きで浮かんだっちゅうのは、浮力足りてる証拠やしな」

「うろ覚えでしたが、理想気体の20℃と80℃が十数パーセントくらいの差だったはずなので」


 熱気球の計算はすごく単純である。

 浮力が、装置全体の重さに勝れば浮く。

 さかさまにして、装置全体の重さから必要な浮力を割り出せば、そこから気球の大きさも決まる。


 乗る人間には体重制限を設けダイエットを頑張ってもらうとしても、気球本体に加熱装置に籠と、どうしても重量はかさむ。

 ナイロンのような軽い素材が手に入るあてもない。

 何回か計算してみて、装置全体の重さを1000キログラムと設定。

 空気の密度差0.15で浮力1000キログラムを稼ぐには、6666立方メートル。

 球の体積は身の上に心配があるから参上したので、半径11.5メートルちょい。余裕見て12メートルにしておく。

 気球本体をつくるのに必要な布は、球の表面積から1800平方メートルにプラスして端切れや縫い代になる分。


 ……それだけの布があれば、何百人分の服ができるだろう。怖いわ。

 概算を回したオブムス様も目を剥いた。当然だな。


「……間違いでは、ないのだな?」

「先日ご覧いただいたブツを、そのまま拡大した結果です」

「教会総本山は、よくもまあ航空巡洋艦などこさえたものだ」


 俺もそう思う。

 ヘリウム泉でも抱えているのでなければ、浮袋に詰めているガスは水素か?

 だとしてもアルミコートか何かの特殊処理をしないとガンガン抜けていくだろうし。ヒンデンブルグる危険と隣り合わせだ。

 飛行船のロマンは認めるが、俺なら飛行機に進むよ。


 ともかく諸元は渡したので、気球本体の縫製や軽くて頑丈で人一人が乗れる籠はヤマトゥーン家に丸投げし、俺はツェルマットに戻り加熱装置の開発に乗り出す。


 ガスボンベなんてものはないし、ガスを詰めるための機材もない。

 簡単な燃えるガスなら化学的に生産できるけど高圧化できないとすぐに燃え尽きる。


「やっぱり、魔道具でなんとかするしか?」

「何でもかんでも魔道具に頼るのは、知識チートを志した者として負けた気がするんだが」

「できないもんはしゃーないやろ。知識技術なんてもんは、前提の前提の前提からツリーたどってようやくってモンばっかやん」


 シクシク。


 魔石は圧力をかけると発熱する性質がある。

 これに送風機構を組み合わせるだけでもドライヤーもどきはできるが、人を乗せられるような熱気球をふくらますには力不足と言わざるを得ない。


「パルスジェットは比較的単純だったはず」

「いんや、送風機構を別に用意できるなら、キャブレターでいいんじゃね」

「一理ある」


 単純に魔石を圧するよりも熱効率を発揮できる発熱の魔導刻印を中核に、送風機構と燃料供給機構を組み合わせた。

 火炎放射器のなようものをイメージすればいいというか、そのものずばりだな。


 発熱の魔導刻印で燃焼室内に種火を発現させる。

 そこにベンチュリ効果で霧化した燃料混合気を勢いよく吹き付け、火炎ジェットを排気という構造になる。


 主燃料まで魔道具化しなかったのは意地というか維持費というか、すべてを魔石エネルギーで賄うのは非現実的だと思います。

 ランタン等に使用しているオイルだから調達しやすいのは大事だと思います。

 燃料油の種類を選べるほど、多種多様な品は流通してないし。


 ベンチュリ効果を引き出すために、燃焼室への給気菅のくびれ部にはこだわったが、スロットルはつけなかった。燃料流出のオン・オフだけ。

 俺たちのうろおぼえキャブレターの時点で、ジェットニードルもバタフライ・バルブも再現できない自信があったからな。

 ともかくも、ベンチュリ効果だけは確保し、燃焼効率みてから燃料管の太さで流量制御しようくらいしか思いつかなんだ。


「ヒャッハー」

「汚物は消毒だー」

「確かに火炎放射器だけどさあ」


 ヤマトゥーン家作成の気球本体が完成したのは夏になっていた。


「簡単にいうけどね、五百人分の布をだね!」

「あー、はいはい、大変だったことはわかっておりますよ、はい」


 何もないところ、機密保持的な意味でも住人のいないところ、ということで順次拡張中のハヅキ領夢の島にて数度の地上試験を行う。

 ヒャッハー隊三人がかりでも半日以上かけてようやく気球に充填というペースで、縫いが甘いところを補修し、人を乗せない錘だけで浮遊試験してみて、なんてやってるだけで時間が過ぎていく。


「お、おおおおおおお」

「ハイラル、最後まで嫌がっていた割に、はしゃいでるな」

「クジ運で弟に負けるとは……」


「はーっはははははは」

「おい、はやく巻き戻して交代だ、交代!」


 頭上から聞こえる末弟の笑い声に躍起になる兄者さんたちは微笑ましいですねえ。

 しかし、晴れて有人飛行試験にこぎつけたとはいえ、俺たちの心は晴れない。


 熱気球の開発資金はなんとかなったが、何回か試験飛行をこなせばヤマトゥーン家へ引き渡さなければならないし、二つ目をつくるだけの金はない。

 できることを確認した、止まりなのだ。


「どこまで行っても、金の問題は付きまとうんやねえ」

「生きるということは、そういうことなんでしょうか」


 青空に、ため息ばかり、とけていく(ウヅキ心の一句)



【メモ】

・熱気球

 有人初飛行はフランスのモンゴルフィエ兄弟、1783年11月21日とされる。


 作中では空気の密度を20℃:1.0、80℃:0.85として計算した。

 気球の体積から生じる浮力(内外の空気の温度による密度の差)>(気球+加熱装置+ゴンドラ+人)の重さ

 (1.0-0.85=)0.15×体積6666m^3=1000kg ≧(気球700+加熱装置100+ゴンドラ100+人100=)1000kg


・気球本体の体積と表面積

 球の体積4/3・πr^3より、余裕を見てr=12m

 球の表面積4πr^2より、1810m^2+縫い代等の部分

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