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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第6章 三人の転生者《イレギュラーズ》、巣作りする

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6-03.葦の海をかき分けて

 秋の入り口、ハヅキ領はついに書面上の存在を脱し、確かな立地を得た。


 一辺わずかに十メートル、水面上二メートルの人工島のど真ん中には俺たちの旗、ミナヅキ・デザインの三本足のカラスが蒼天の下に翻っている。

 完成が宣言された改修夢の島一号基点だが、手狭なのはさておき、飲み水の確保ができないのが致命的な弱点だった。


「湿地帯の水なんかなあ、危のうて手ぇ出せへんわ」

「埋め立てを進めて数十年もすれば、井戸から飲める水が汲めるかもしれないけど、当座はどうしようもないですよねえ」

「ろ過装置か何か、考えておかないとなあ」


 それでも立派な領土である。

 遊びに来たハイラルに確認させたが、カブツ川の真ん中を境界線としてこっち側はハヅキ領。

 建前上は領主裁判権他ハヅキの胸先三寸で物事を決められるエリアであり、また一歩、悪徳領主へ近づいたかと思うと感慨深い。

 もちろん書面上の境界なんかより実効支配がキモだったり、側近や民衆の声というものは無視できなかったり、領主というのもいろいろ大変なんだと、ヤマトゥーン家四男のハイラルは疲れた顔を見せた。


 水の問題があり住処にはできないが、足場としては使える。

 所有者を明確にするためにも、対岸のヤマトゥーン領キタのみなとに蓄積していた資材を移し替えていたところで問題が発覚した。


「水、出てますね」

「ていうか、一番下の資材埋まっちゃってるよな。……いや、資材の重さで沈んでる?」

「枠囲いの杭、頭出てる。全般に沈んどるんや」


 埋め立て地特有のどうしようもない現象なのだが、生まれたてのハヅキ領は、地盤沈下が始まっていた。


 埋め立てに使った土砂そのものの大半が、周囲の水底からテレポ浚渫しゅんせつして得たものである。

 俺たち自身の生活ローテーションもあって、浚渫で水気を大量に含んだ土砂をドバー。数日放置であらかた沈殿したところで、次の土砂をドバー。

 上澄み水は枠囲いのスキマやヘリを超えて排水されていったが、それでもまだまだ土壌は不安定、地震の一発でもあれば液状化してくださること請け合いの軟弱地盤である。


 ただし前世日本のような地震多発地域ではないので、液状化の危険性は無視。

 せっかく集めた土砂流出がイヤなのだが、護岸工事くらいしか対策が思いつかないし、それにしたってとにかく杭打って石沈めろしか手がない。


「直近の水深は変わってないような」

「季節による水量の揺らぎもあるでしょうし、もともとがゆるっゆるですからね」


 杭囲いのスキマから、水分とともに土砂も流出しているかどうかは、はっきりわかる範囲ではない。あっても影響は少ないようだ。


「沈む分見越して、とにかく盛り上げて行くしかないか」

「そのためにも枠囲い、護岸を強化せなあかんなあ」


 反省を盛り込み夢の島二号基は、一号基を拡張する形で計画を立てる。

 桟橋部を除き、本体の土地高さは水面上五メートル、一辺百メートル。確か、江戸幕府が品川に築いたお台場がそのくらいのサイズだったはず。

 面積にして一ヘクタールは何事かをするための最低限の基準かもしれない。


「全域一気には無理やろな。一号基点と同じく十メートル四方の枠を順次埋めてつもりで頼むわ」

「残り九十九枠か。気の長い話になるなあ」

「完成しても、所詮は一ヘクタールだしね」


 土砂をどこから確保するかの問題も再燃した。とりあえず直近を掘ると、次の列を埋め立てるときに掘れる場所が遠くなる。

 入れ替える空間の距離があくほどテレポの燃費も悪くなる。

 これは、入れ替え空間を水際の枠上に固定し、傾斜をつけた樋で奥側の枠にダバーっと流し込むこととし、多少の対策はした。


「お台場建設で何十万両ってかかるわけだなあ」

「けんど、そのおかげで侵略者ペリーは強行突破諦め横浜まで引き返しとるんやで」

「政治や軍事だと、費用対効果ばかりを言うのもナンセンスですしねえ」


 小舟に乗ったまま葦の海をかき分けて、測量兼縄張り用のロープを伸ばす。

 正確には葦ではないのかもしれないが、要するに水辺の背の高い雑草だ。

 『人間は考える葦である』そうだが、パスカル先生は水辺に群生する葦さまの何をもって人間に見立てたのだろうか。


 10×10のマスを縄張りし、雇い人足さんたちが順次杭打ち。

 囲いができたところに俺たちが瞬間移動(テレポーテーション)土木で浚渫土砂を流し込む。

 パターンが決まれば、あとは作業量とローテーションによる分担管理の問題だけ、そう考えていた時代が俺にもありました。


 季節が冬に入ると船頭たちが大幅な賃上を求めてきた。

 曰く、この寒い時期に水上で働くなら、当然の手当であると。


「なるほど、理屈はとおっています」

「労働を安売りしない姿勢と、言語的手段、団体交渉による理性的な行動は評価ポイントだな」

「打ちこわしまで行くのはよほどらしいけんど、数で威圧はまあ、交渉の基本っちゃ基本やろなあ」


 ではだからと言って要求を飲む必要があるかというとそうでもない。

 確かに人手はいる。杭打以下の枠囲いは人海戦術に任せていた。でもそれは、二号工事に関してはあらかた終わっている。

 物資運搬はテレポや転移門トランスファー・ゲート経由でもできるし、土砂は浚渫込みで俺たち自前で賄っている現状、船頭は必須ではないんだよなあ。


 ミナヅキは【虚空蔵】をいかし、石や土砂の積み込みで活躍している。

 運搬用に安い籠とセットで購入し、ツェルマットの拠点に積み上げたものを、せっせと運ぶお仕事だ。

 ツェルマットではニートナル魔術師学園と拡張区の工事が進行中なので、土木建材を発注しても疑われないのがオイシイ。

 出し入れが完全にミナヅキ任せなので、無理をさせすぎると腰をいわすのが怖いので、それだけは注意を念押し。


「調査するのも、こんな寒い時期でなくてもいいよな」

「んー。虫の活動考えると、寒い時期の方が安全かもしれませんが、いずれにせよ寄生虫と病原菌の件がありますから」

「今は目先でいっぱいいっぱいやけど、グランドデザイン描くにも湿地帯全体の広さくらいは知っておきたいわ」

「それこそ、飛行船……航空巡洋艦でもあれば空から俯瞰で一発なんだがな」


 ざっくりとした全体像を把握できれば十分。

 ガブツ川とヴァルド川の間の湿地帯という言葉は知っていても、俺たちはヴァルド川までの距離すら知らない。

 もとより正確な国土地図や世界図なんてものは存在しないが、そうは言っても統治者はざっくりの自領全体図や街や村単位でのそこそこ正確な地図を持っている。

 耕作地にしろ市街地にしろ、権利関係を把握するのは統治上必須だからね。

 いずれ拡大したハヅキ領でも、同様の図面は必要になるだろう。


「飛行船っちゅう言葉がないんやったな。航空巡洋艦とは仰々しいこっちゃ」

「まだ世界に一隻だけですし、勇者用と思えば軍事よりですしね」


 教会総本山はホエール型航空巡洋艦を運用しているが、その技術は謎に包まれている。

 俺たち田舎者だし、開示されたところで実現できるとも思わないけど。


「下手に飛行船に手を出してもヒンデンブルグっちゃうかもしれないし、ここは熱気球か?」

「熱気球か!」

「さすウヅ!」


 熱せられた空気は、冷たい空気よりも軽い。よって、熱空気を集めれば、空気中に浮かぶ。

 その点でも、冬の気候は都合がいい。

 ダミー行商はスコールの兄貴とハヅキに引継ぎ、俺は熱気球の開発してみるかと割り振りが決まる。


 大幅な賃上げを求めていた船頭たちには、要求を逆手にとり、ハヅキが頭を下げた。

 皆の意見を真摯に受け止めた結果、寒い中に無理に水上で働かせるなどと非人道的な行為を行おうとしていた己を恥じると。

 そのうえで、暖かくなったらまたよろしくと言われた彼らの顔はまあ、見ものであった。


 労働者には仕事を選ぶ権利がある。だが雇用者にも、仕事をやるやらないの権利がある。

 どっちの立場もわかるんだが、大幅な賃上げってのがねえ。


 ……こっちも対策しておくか。

 俺たちに金があると思い込んでいる可能性もある。

 ハヅキ領造成での庸賃だけでなく、ただの移動運賃も吊り上げてくるかもしれない。

 直接的な暴力に訴えてくるなら逆に対処も簡単だが、あくまで商行為としての争議であれば相応の敬意を払うべきだろう。


「だからって、俺のところにきても船の魔道具なんてものはないぞ」

「いえ、モノは単純なんです。モーターの魔道具で馬車の車輪を回したように、舟の櫂を回して進めるようにしたいだけで」


 伯都ツェルマットで魔導技師を営むメセドリウスさんにお願いだ。

 イメージ・スケッチとして、水車型の装置を両舷に取り付けた外輪船を示す。


「あー、櫂ってえか水車か。水車で水をかいて、それで進もうってか?」

「ええ。理屈上はできるはずです」

「そりゃあ、うん、理屈上は水かきゃ進むわな」


 できるんだよ。知ってる。

 船尾に船外機として取り付けるプロペラ型も捨てがたいのだけれど、プロペラは奥が深い。俺たちにまともなモノが作れるとは思えない。

 なので、この世界に現存する水車をとっかかりとさせてもらった。


「駆動部は、馬車につけたもの流用でいけそうだが、俺は水車職人と船大工にツテがないぞ」

「じゃあ先に船を発注して、サイズ合わせのうえで組付ける感じですかねえ」


 左右の水車を別々に駆動することで、前進だけでなく信地旋回もどきをできるようにお願いしたら、出力調整がと嫌な顔をされたのでなだめておく。

 川の流れは意外と複雑なので、左右同じ力ではまっすぐに進めない。

 そのへんのコントロールは操船者の腕のうち。あ、腕は舵を持たせたいので、両足のペダルで左右の出力調整を云々。


 メセドリウスさんから、しょうがないからやってやるとのお言葉を頂いたその足でヤマトゥーン領都に跳んだ。

 カブツ川の河川交易で富を得ているヤマトゥーン男爵家に面会を求め、あまり待たされずに通されたのはハイラル経由の縁あってのものだろう。

 スケッチを示し、船大工と水車職人の紹介を頼むと、うまくいったら売ってくれとの言質も得られた。


 出来合いの小舟に水車とモーター魔道具を組付ける仕上げ作業は、領都で俺が行うことになり手こずったが、試験運転では上々。

 もとより荷馬車を動かせる程度のトルクはあるのだ。数人乗りの小舟を動かすくらいはできる。


 一号艇で実動確認ができたので、船大工さんと仕様に応じた変更や細部のブラッシュアップを詰める。

 二号艇以降は、ハヅキが荷馬車ごと乗り込める幅と船首形状を求めてきたので、ややずんぐりむっくりの上陸艇もどきのデザインとなった。


 一号艇を遊ばせておく資金的余裕はないので、ヤマトゥーン家へ売ってしまい開発費を回収することにする。

 引き渡しと操作説明のために、三男ウイフェン様とお付きの人を乗せて領都からキタの津まで。行って帰って行って。

 エネルギー源である魔石は左右ともに消費しちゃったけど、従来、船で一日の距離のところを一往復半だから、単純には三倍の性能かな。


「いいなこの船。見てくれは驚いたが、買って正解だぞ!」

「赤く塗ってツノをつけるべきか……」

「男爵家の御用船として目立つべきなのはわかるが、ツノはさすがにどうか?」


 すいませんウイフェン様、そういうネタなので……。

 キタの津ではハヅキと合流し屋敷で簡単な歓待、一泊して頂いて翌朝には領都で引き渡し完了的な話を進めていたが、夜も更けたころ、船溜まりで騒ぎが持ち上がった。

 押っ取り刀で駆けつけてみたら、……いやー、真っ赤に燃えてますわ、ヤマトゥーン男爵家お買い上げ(予定)の一号艇。


「ええーーっ!?」

「なんじゃこりゃー!」

「どういうことだっ!」


 炎の照り返し以上に顔面を真っ赤に染めたウイフェン様が叫んでいるが、俺は予想外すぎる展開に思考停止に陥ってしまった。

 勘弁してほしい。非常時向けの人材じゃないことは自分でもわかってる。


 俺たちが呆けている間にも事態は急展開し、ウイフェン様と付き人さんが集落代表以下の住民を締め上げ、住民の手によって放火魔たちは捕縛された。



【メモ】

・通常の三倍:赤く塗ってツノつけるのは機動戦士的なところからの伝統?

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― 新着の感想 ―
[一言] 仕事が取られると思った人の仕業かなぁ…
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