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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第6章 三人の転生者《イレギュラーズ》、巣作りする

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6-02.夢の島

 夏至祭で、ミナヅキとハイラルが司祭に叙されたことがきっかけとなり、俺たちのパーティ・イレギュラーズは新たなステージへとシフトした。


 具体的には、ハイラルとミナヅキが実務研修のためヤマトゥーン領都の教会へ。

 ともなって、現地アジトではフィルさん愛の巣計画始動。

 ハヅキとスコールの兄貴はキタのみなとの屋敷を拠点に活動中のため、ツェルマットのホームには俺とヒル子とミルディーフが残るという配置となった。


 でまあ、勘違い系主人公ではなくモブでしかない俺は、覚悟を決めて二人を娶ることになったわけだ。

 こんなんですぅ~と師父に報告したら、そのまま流れでミナヅキ・フィリア組も巻き込んだ披露宴をしていただいちゃって、ああ、なんちゅうか、家族を持つって思考が守りに入るっていうか。


「わかる」

「わかるか」


 ミナヅキとしみじみと頷きあった。

 お互い、生きるために抱いた野望も、現状とよくよく突き合わせた結果、発展的解消へと至った。

 旅をするための旅には興味がないと、ミナヅキは世界旅行を放棄。俺もまた、冒険者稼業で身を立てる必要はなく、スコールの兄貴にしても英雄なんてガキの妄想だったと笑う。


 俺やミナヅキの野望は現在白紙だが、盟友のサポートに否はない。

 もちろん、兄貴や三人娘が何かを言い出しても同様だ。


「つまり、当面のプロジェクトは自分主体で巣作りっちゅうこっちゃね」

「そうなるな」

「ハヅキの領地づくりであり、個々人の家庭づくりでもありですね」


 ハヅキは、拠点間での転移門トランスファー・ゲートの利用とダミー交易以外で、やってほしいことがあると笑った。


 カブツ川とヴァルド川の間に広がる湿地帯について、東西南の周囲三領主から書面上の領有を認められたハヅキ領だが、内実はないに等しい。

 しかも、風土病の原因となる寄生虫が生息し、多分おそらく他にも数多の病原菌が人の手の侵入を拒んでいる危険地帯である。


「方向性は埋め立てや。埋めて土地つくって入植、まー、一大事業やわな」

「水は直接は使えないし、地盤が落ち着くまでも時間かかるし、一代で終わる事業ではないですねえ」


 寄生虫にしろ病原菌にしろ、淀んだ水という環境が繁殖原因なのは想定できるし、人が暮らす以上はしっかりした足場が欲しいのも当然。

 よって埋め立てとは、強引な解決策ではあっても理にかなった最善手であることも事実だろう。


「埋め立てた後で掘割して水抜きするか、並行できるのかはやってみてからやな」

「方向性に否はないが、大量の土砂がいるぞ?」

「そこでイキるのが魔法と恩恵ギフトやねん」


 一つ目の手段は、ミナヅキの【虚空蔵】に詰め込めるだけ詰め込んだ土砂をザバー案。

 ミナヅキも、収納限界を把握する意味でもやっておこうと、前向きな反応。


「目一杯いけるようやと、『生物を納められない』特性を生かして除菌フィルターも頼みたいのう」

「それさあ、どこまで期待していいかわからないよ?」


 神々の恩恵ギフトの能力って、妙なところでファジーなのよねえ。

 小動物や昆虫を生きたまま納められないのはわかっている。無理に収めようとすると死ぬ。

 その作用を生かすと言うのがハヅキ案だが、しかしまた、収納していた穀物に劣化が見られたので酵素の類は作用している。

 じゃあ微生物は、細菌類はどうなのか。

 『生物』の線引きがなへんにあるのか、命とは一体何なのか、突き詰めていくと怖くなる。


「定義上の生物、命とは関係なく、容れられる・られないが決められている可能性もあります」

「むう」

「それに、土壌菌皆殺しの土砂ってのも困るだろ。ん十年単位で耕作できないかもしれないぞ」

「なんてこっちゃ」


 シャーレに寒天培地用意して、適当なモノや水塗ったを封蝋して【虚空蔵】に収納。

 経過観察すれば細菌類の生死は確かめられるか?

 ただなあ、ガラス器高いんだよなあ。


「んー、学問的な興味としてはアリなんやが、自分らで確認すべきかと言われると悩ましいやな」

「副作用部分は脇に置いて、まずは収納限界を試すことが先だと思います」

「実際に、【虚空蔵】ザバー案が使えないようなら悩むだけ無駄か」


 ハヅキの提案してきたもう一つの手段は浚渫しゅんせつ

 川床をさらって、その土砂を移し替えて水面上の土地をつくるというわけだ。


「水の病が怖いけん、こっちもまずは身内で、魔法でお試しや」


 魔術師の高位魔法、瞬間移動(テレポーテーション)は空間を入れ替える。

 これを応用して、適当な質量物を高空に移動させ地表面にズドーンする、なんちゃって隕石落とし(メテオ・ストライク)を編み出したが、使い道はない。

 狙ったところにおちないし、転移門トランスファー・ゲートと同様、移動距離と質量の関係で魔力がガリガリ持っていかれるし。


 すまん、愚痴だった。

 要するにテレポで川床あたりの土砂をお隣のちょい空中に移動させろというプランだ。


「名付けてプロジェクト夢の島や!」

「なんかゴミ捨て場っぽいイメージが……」

「それは言っちゃあいけないヤツなのでは」


 ともかく、キタの津の対岸にお試し夢の島を造成することとなった。

 人の目の数の問題で、ヤマトゥーン領都の対岸は避ける方向だ。


 俺はダミー交易で、週一ないし二はツェルマットとキタの津の間を往復するので滞在期間を調整すればいい。

 だが、ハヅキ的には本命の【虚空蔵】のギフト持ちのミナヅキは、ヤマトゥーン領都で教会勤めだ。


「ミナヅキのほうは、時間は取れるのか?」

「週に二日程度は職務から離れるように言われていますので大丈夫ですよ」


 安息日がバリ仕事日の聖職者かつ、仕事なんてものは作ろうとすれば幾らでも作れる立場でもある。

 特に若いうちは加減が難しく潰れてしまうケースが多いため、意識して職務から離すことになっているそうだ。

 衆生に神々の教えを説く組織がブラックじゃあたまらないよねと笑われたが、大事なことだと思う。


「確かになあ。意識して休まないとあかんかあ」

「週に一度の安息日って目安はあるが、言わば俺ら個人事業主だもんな。取引先の都合はともかく、仕事は自分で決めないとな」


 ちょっとだけ、しんみりしてしまった。

 ブラックはあかんよね。やりがい感じてるうちは頑張れちゃうけど、人間、無理ってのは瞬間的にしかやっちゃいかん。

 平時は八割くらいで流しとけばええんやで。

 キサラギ赤ポこと栄養ドリンクを、ツェルマット近郊の一部特定業種の方々に普及させてしまった俺の罪は重いかもしれない。


 ミナヅキの【虚空蔵】の収容量だが、土砂容積からの推定で実用限界は数トンといったところ。土砂の比重がなんぼかしらないが、1よりは大きいだろう。

 実用限界というのは、出し入れにミナヅキの手を介すことがネックとなった。


「盲点やったわ」

「俺も、袋の口あけてザバーのイメージだったわ」

「僕も、入れるのはともかく出す方は下から手を入れて引っ張りだせばあとは流れでなんとかなるかと……」


 数トンの土砂がザバーする直下にいたら、死にます。

 あわててキャンセルしたようだが、実験立ち合い全員揃って土砂まみれ。実に笑えない結果となった。


「両手を使えるから、樽や籠のまま出し入れはできるんだけど」

「内部的にインベントリ整理してくれるわけでもないんやったな?」

「となるとバラ積みはやれんし、ミナヅキ以外手を出せないし、土砂バケットをせっせと出し入れしてたら、最悪腰をいわすな」

「盲点やったわあ」


 そうだよなあ。

 前世に読み漁った転生モノの超便利スキルとの格差が、コレジャナイ感をもたらしてしまう。

 本当は、手荷物を謎空間に収納できるってだけでもすごいことなのだが、期待というものは本当にワガママなものなのだ。


 瞬間移動(テレポーテーション)を応用した穴掘り土木案は可もなく不可もなく。

 極めて近距離ということもあり、一辺が十メートルの立方体空間を指定し、水底と空中で相互に入れ替え。

 水と泥と空気が入れ替わるものすごい音がしたが、千トン以上を一発で動かしたんだ、それくらいは勘弁してほしい。


「ヘドロの匂いやわ……」


 音に驚いて飛び出してきたキタの津の住人が、顔をしかめて去って行く。

 俺たち何度も来てて顔見知りだし、魔法実験を行うとハヅキが周知済みなので苦情で済むが、一発で動かすんじゃなく、小さく刻んでちょこちょこすべきだな。匂いはどうしようもない。


「……リアル系スライムってあんな感じかな?」


 新たに造成されたお試し夢の島だが、大量に水分を含んだ泥がでろーんとねとねとがぐっちょぐっちょに広がっていく。

 ちゅうか、せっかく掘ったとこにまた流れ込んでない?


「でろっでろやし、土留めもせなあかんわなあ」

「水分抜けたら容積も縮みそうですねえ」


 さまざまに反省を行い、次は杭と板で枠囲いし、その周囲には岩を沈めて補強を行うこととする。岩は無秩序にばらけないよう籠や網につめてドボンだな。

 瞬間移動(テレポーテーション)土木は小刻み、せいぜい数トン単位とし、枠内一杯でしばらく放置し水抜き。

 この工程を予定の高さまで繰り返す、といったことが決まる。


「キタの津の衆にも仕事まわさなあかん感じとったし、改修夢の島一号基点の杭囲い頼んでみるわ」

「儲けを貯めこんでいると思われると怖いですからねえ」

「地元に利益を落とさない政治家は干される現象みたいなもんか」


 ハヅキ自身が長い道のりであると認めているし、資金的にも人足を大量動員なんてわけにもいかない。

 改修夢の島一号基点として、十メートル四方の縄張りだけはハヅキ自身が船を出して行ったが、キタの津の衆には暇してるなら手伝ってよくらいのノリで杭打ちや囲いを頼み、日銭で支払い。


 俺たちは週末の余暇活動感覚で集合してはちょこちょこと。

 病原寄生虫が怖いので、なるべく水に触れない水辺の水遊びと思えば、まあ。

 一仕事終えて屋敷の庭でバーベキューなんかした日には、何俺リア充かよって感じだ。


 また、テレポ応用土木は練習がてらに三人娘にもやらせる。

 転移門と違い、単なる空間入れ替えなので、多少失敗したところで自分や他者に被害を出さないで済むのは安心できる。

 魔法語ではなく現代語に端的に訳した術式をメモして渡す。

 呪文そのものが大事なわけではなく、術者のイメージと魂からの納得が魔法発現には重要なので、無駄に詩的で装飾過多な元呪文より、作用機序さえわかればいいだよ。


「単なるって、単なるって……」

「ん(こういう人なんだよ)」


 魔力量や制御力不足なら仕方ないが、三人娘はかなり初期から鍛錬を指導してきたし、現在でもそこそこ真面目に取り組んでいる。

 やってやれないはずはないと励ました。


「うわっ、なんですこの面倒くさい術式。魔術師ってアレなんですか?」

「法術の転移門トランスファー・ゲートも似たようなもんだぞ」

「……位置指定部分は結界系とだいたい同じ、なのかなあ?」

「でも位置指定が二つもあるなんて、それだけでどんだけですって」

「僕たち、その『どんだけ』を便利使いさせられてるのかなあ?」

「うっ」


 何事も練習ですよ。

 夏の間に三人娘も、無機物だけでなく、近距離で数人を瞬間移動(テレポーテーション)させるくらいなら問題ないと言い切るようになりましたよ。

 拠点間移動には転移門だけど、戦闘みたいな鉄火場で万一を考えると各自離脱できるにこしたことはない。


「使うような機会がないのが一番なんだがな」

「備えあればうれいなしですね」


 秋口には、水面上二メートル程度まで盛り上げ雑草もちょろちょろ生え始めている人工島に上陸し、どまんなかに旗を立てる。

 三本足のカラス。デザインはミナヅキである。


「その昔エタらせたスレの出せなかった没ネタで……」

「ディープな読み専だとは思っていたが、書き手でもあったのか」


 でどこスレよ的なオタトークに持ち込む間もなく、ハヅキにより改修夢の島一号基点の完成が宣言された。


「ここを、キャンプ地としない!」

「「しないのかよー!!」」


 だって飲み水確保できないやんとマジメに返されてしまった。

 十メートル四方の小さな人工島。

 ハヅキ領はこうして誕生し、そして地盤沈下が始まった。



【メモ】

・夢の島:ここでは東京湾埋立14号地のこと。1950~60年代におけるゴミ処分場

・土砂の比重:ものや状態によるのでなんとも。一応1.3~1.5くらいで想定。

・三本足のカラス:いわゆる八咫烏。ただし遡ると(中華系伝説)三足烏と(日本神話)八咫烏とは別個の存在とも。

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