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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第3章 三人の転生者《イレギュラーズ》、野望のために頑張る

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3-10.ウヅキPの野望

 ある朝、工房に線の細い金髪青目の男の子がはえていた。


「あ、あの……ぼ、ぼぼ」

「オッス! オラ、ウヅキ。当ニートナル・ポーション工房の小間使いさ」


 とっさに先手必勝の挨拶攻撃を繰り出したものの、状況をどう判断すべきか困る。

 『殺してから考える』は今生の特殊ルールかもしれないが、たぶん自分より年下の、しかもおびえている(?)子ども相手に暴力沙汰は、さすがにルール適用外でジャッジメントを食らいそうだ。

 次善の手は『逃げる』……自分のテリトリーで侵入者から逃げるって、それ偉大なる大魔王様でも成しえないインポジブルなミッションじゃないですかー。


 深呼吸。

 大丈夫だ、俺には前世愛読ライブラリィの助けがある。

 密室……ではないが、家屋侵入、不審人物とくれば犯罪・推理もの。よし。


「ぼ、ぼくは……ヤ、ヤ、」


 道路側の戸口や明かりとりの小窓は内扉も鎧戸も締まっている。となると、屋敷側の戸口が侵入経路だから、部外者ではないよな。ネイトナル様ご夫妻にはお子様がおられないので、客人か使用人の子。今は屋敷に滞在する客人はいない。しかし、使用人の子としては服がボロすぎる。うちの使用人の子なら今少しまともな服装をしているはずであり……


「ヤクート、こんなところに! ああ、わたくしの子が工房に立ち入るなど……」

「オッス! オラ、ウヅキ。当ニートナル・ポーション工房の小間使いさ」


 金髪青目のご婦人の登場にも、俺はとっさに先手必勝の挨拶攻撃を繰り出していた。


 小一時間後にはお互い改めて挨拶を交わした。

 ご婦人がユリアさん、その子がヤクート。

 ユリアさんはニートナル屋敷において俺よりはるかに大先輩で、十年近く前に寿退職なされていたが、このたび御不幸があってご主人を亡くされたそうだ。


 我が師父ネイトナル様は、再就職できないかとの打診に母子ともども雇い入れることを決定。

 ユリアさんは台所女中に復帰し、ヤクート君七歳は工房の小間使いとして配置される。


「このようなことを言うとユリアに悪いが、ちょうど人を増やさねばならぬところでもあった」

「二系統のブランドで、工房の生産体制を整えたいところであったと?」

「もちろんそれもある。しかし、それ以上に、儲けを貯めこむことはよろしくないのだ」


 富貴の社会的義務というものであろうか。

 前世ばりの公的社会保障制度などない今生だが、富む者が貧者に施しを行うのは当然の責務という道徳観はあり、わかりやすい事例の一つが雇用となる。


「というわけで、俺はウヅキ。これから一緒に工房を回していこう、よろしく」

「よよ、よろろ……ウギョッ!」


 握手ついでにハンド・トゥー・ハンドで魔力押し込みー、いい反応してますね。


「ヤクート君、君、いいね! 実にいい!」

「ふぁ、ふぁ??」

「今さっき君が感じたのが、魔力だ。同じようなものが、君の中にもある。わかるかい?」

「ふぁ、ふぁあああ??」

「よーしよーし、焦らないでも大丈夫。自分の中の魔力を『これかなー』って感じで認識できたら教えてくれ」


 魔力を、認識できるかどうかが魔法使いの第一歩だからな。

 これができなかった友人二人はそれぞれの道に進み、疎遠になっている。


 ヤクート君は第一関門をクリアした。次の段階では魔石チャージと朝の錬気瞑想を仕込もう。

 特に魔石チャージは重要だ。命の力である魔力を、自分の体外に出せるかどうか。これが第二関門になることは予想している。

 俺たちはできる、と信じ込んでいたからできた。鶏が先か卵が先かみたいなもんだなあ。できれば、できるんだよ。


 悲しい話だが、できなければ、『才能』がないということになってしまう。

 しかし、できさえすれば、地道な鍛錬で魔力の制御力と魔力量は底上げできる。

 俺たちがよほどの才能に恵まれていたのでもない限り、六歳児時点で、標準的な魔石の百分の一程度の魔力しかないことはわかっている。焦ることはない。


「ウヅキ、おまえは一体何をやっているのだ?」

「任せてくださいネイトナル様。俺がヤクート君を、三年で魔術師組合に席を持てるまで鍛えて見せます」

「あ、ああ?」

「ふぇぇええ??」


 弟弟子おとうとでし

 いい響きじゃないか。しかも目の色こそ違うけど、俺とおそろいの金髪でコンビ。これは映える!


「あ、ああ」

「ふぁふぁふぁ?」


 大丈夫。俺は前世で何人ものアイドルを世に送り出してきた敏腕P……に、なりきった経験がある。

 今生でもあのヒル子を法術師デビューまで導いた実績や、一部に「あれは光の術ではないのでは?」との疑念を広めたハイラルも法術コースにねじ込んだ辣腕ぷりは自画自賛できよう。

 かわいい弟弟子を育てて見せますよと意気込みを語る俺に、なぜかネイトナル様は戸惑いながら頷かれた。


 もちろん、工房の新人小間使いとしての教育も俺の担当である。

 たどたどしいながらも文字は読めるというのでマニュアルを渡し、読み上げと言い聞かせ、後に一連の流れをやってみせ、やらせてみせてほめてみせ、当面は俺も目を離さないようにしながら随時の質疑応答を受け付ける、といった塩梅で工房オペレーションを教え込む。


「分割して統治せよ」

「ぶ、ぶんかつ、です、か」


 全体の流れを把握するのは大事だが、いきなりまるごと覚えるのは無茶。

 なので、個々の工程・作業に分割して、きちんとできるようにする。

 カイゼンと称して一連の工程整理や自動化等を進めた関係で、手順さえ守れば誰でも一定品質のポーション原液までは作成可能になっていると思う。


 あ、薬草の選別はまだ無理か。

 教える手間やフォロー、失敗のコストはどうしようもない。多少あれだろうと、一人分の手と目が増えたことの利点で埋められる。

 立場をわきまえた素直な子であったので、俺としても心に余裕をもって対処することができたと思う。


 工房作業の伝授および魔法使いの芽を育てる、つまり人材育成である。

 俺がヤクート育成計画書までつくってドはまりしていたところに、教会から、キサラギ赤ポの大量注文が入った。


「誠に申し訳ないが、魔法薬液ポーションは、魔力注入工程を経る関係でつくれる量には限界がある」

「存じております。できる限りでよいのです」


 師父と教会との間で契約が結ばれ、工房は、師父以下俺とヤクート総出で増産体制に入った。


「なんでしょうね、教会だって施術院を抱えているわけで、薬剤師も法術師もいるんですが」

「奇妙な話だが、仮にレシピを売ったところですぐにつくれるというものではない。口止め料も込みの契約であろうし、詮索はしないでおこう」


 金貨銀貨がざっくざくですがな。ゲヘヘヘヘ……。

 さておき、俺たち自身の魔力を注入という関係で生産限界量がある魔力注入工程だが、実のところボトル・ネックであることはわかっており、カイゼン・プランも立てはしたのだ。


 俺は、【譲渡】の魔導刻印を軸にリミッターを組み込めば、ポーション原液に対して魔石からの魔力を封入できるのではないかと考えた。

 量産を目的とすれば避けて通れないカイゼンだし、量産目的でなくとも、こう、手加減で魔力注入量を調整しているのよりも安定した一定品質に近づくわけで、生産管理者としてはですね、実現したいんですよね。

 ええ、毎日毎日ひたすらポーションに魔力注入ぅなんて、健康で文化的な人間の生活じゃないですしおすし。


 しかし、いまだ実現できていない。つまり解決できない問題があるのだ。


 リミッターの不在。

 単に【譲渡】刻印上にポーション原液を置いても、魔石の魔力が尽きるまで流し込み続けてしまう。


 【魔力制御】の刻印でなんとかなるかと思えば、こいつは分岐する回路への分配率を決めているだけで、腕のいい魔導技師なら、導線の長さ太さで調整していることと同じであった。

 『魔導刻印大全』をひっくり返したが、リミッターに該当する機能を持つものを見つけ出せなかった。


 道具として、安全装置に該当する機能が存在しないのは許せないのだが、それはあくまで俺の視点。


 本来、魔導刻印とは、刻印に権能を与えている神様へ祈り捧げ発現を求めるためのもの。

 複数の刻印を組み合わせて魔導回路とするのは、神々としても想定外で今のところ対処保留としているだけなのかもしれない。


「リミッターを魔導回路上で再現することはあきらめて、スイッチングを我々の手で行う。そこらが落としどころではないだろうか」

「刻印上の数量と注入時間を管理する方向で考えますか」

「しかし……世には出せないモノになるな」

「ええ。魔力注入器なんて出回れば、薬剤師と錬金術師の垣根が崩れます」


 理屈も仕組みも単純なのに、実用化されていない、あるいは世に広まっていないのであれば、相応の理由が推測できる。

 まあ、ポーションを工場的大量生産するような発想がなかっただけかもしれないが、悪いほうに考えておけば最悪を回避できる確率が上がる。


 というわけで魔導技師メセドリウスさん、いつもすばやいお仕事ありがとうございます。

 お口にチャックも信じてます。

 半自動クズ魔石製粉器も追加納入、調整魔導コンロと温度計もよろしくお願いします。


 魔石含有魔力量判定機能付き魔力注入器二セットの導入により、ニートナル・ポーション工房はその生産力を大幅に高めた。

 どれだけ秘したところでいずれは世に出回ることになるだろうが、開発者として先行者利益は享受させてもらおう。


 営業上の秘密を抱え、ヤクート君という後輩および魔道具を増やしてもなお大繁盛だよチクショーな工房勤務に、欠かせない弟子としての修行、さらにヤクート君の育成とてんやわんやな俺の心のオアシス、安息日。

 この日だけは、何があっても休む。それが俺と師父との暗黙の約束でもある。


 ただし、友人たちとの定例会合は、場の提供者ハイラルと、ついでにミナヅキが祭祀職課程にも籍を置いたことで発展的解消ということになっていた。

 法術課程のみの女子組にしても、施術院での当番の都合で三人そろって休めるということも減っている。


「たっぷり食えよ~」

「ありがたく頂いちゃうけど、本当にいいのよね。あとで請求しないわよね」


 ごめんよヒル子。俺、儲かってるんだ。

 それこそ、社会的義務について考えなきゃいけないほどウッハウハなんだ。


「……ご馳走様でした。ハイラル君という金づるを失って絶望しかけましたが、ウヅキ君がいてよかったです」

「そりゃなによりだがフィルさん、もうちょっとこう、お言葉に手加減が必要なんじゃないかい?」

「ヒルデガードじゃあるまいし、相手は選びますって。それに、祭祀職課程ってよっぽど忙しいのか、ハイラル君もミナヅキ君も姿を見せませんし」

「俺は愚痴相手かよ」


「だってえ、法術師の授業や実習にも出てこないし、祭祀職棟全体が殺気立ってるから怖くて近寄れないし」

「ヘンドリック君も春前から見かけてませんね?」

「ちゃんと生きてるんだろうなあ?」


 食堂から祭祀職課程の別棟まで毎日大量の出前が出ているとのことであり、また、祭祀職課程の候補生の姿もたまには見かけるという。


「羽交い絞めにされて引きずられていった、とか?」

「夜中に叫び声が聞こえたとか、かと思えば夜な夜な煌々と明かりをともしているとか?」

「事件の香りがするぞこのやろー」


 といって現場は教会の養成院である。俺が手出しできるような相手でもなく、潜入だって困難だ。

 少なくとも死人が出ているような陰惨な雰囲気ではなく、とにかく殺気立っているという空気感も含め、いわば身内のフィルたちが、学校の怪談じみたゴシップとして語っている時点で事件性は低い、と思いたい。


 安息日ごとのお食事アンド愚痴聞きます会で女子組との交流を深めつつ、ミナヅキとハイラル、ついでに疎遠なヘンドリックへの心配も深めつつ、春の日々は過ぎていった。


「行商人ハヅキ、かえってきたでー」

「おう、おかえり」

「……」


 夏至祭近づくその日、西の塩鉱山への行商旅から戻ったハヅキは目を剥いた。


「ミナヅキが、ハイラルが、真っ白な灰になっとるやんけー!!」



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