第8話 本当の異世界ライフを送りたい!
「どうしてすぐに思いつかなかったんだ?! メェの玉を集めて『堆肥』を作ればいいんだ!」
拠点の中へ向かう俺は気持ちが高ぶっていた。
メェのお尻から落ちてきていた玉のようなものは、メェからの贈り物。
羊の糞はかなり小さいので、これまでは気づかなかった。
野原のあちこちに青々とした場所ができたのも、メェが頑張った跡なんだろう……!
「一度集めてみるか? メェがくれる『贈り物』を」
◇ ◇ ◇
用意するのは、弾力のある枝を半分に折り曲げ、先端をロープで固定して自動で開くようにしたトングと、箱の破片を木釘で留めて四角く作った粗末な箱。
有機栽培の草だけを食べて育ったのはわかっているけど……やっぱりあれを素手で触りたくはない。
「どこにあるかな~。あ、発見発見~」
宝探し遊びをしている気分だった。メェの足跡や痕跡をたどっていくと、新鮮なやつから固まったやつ、土と一体になったやつまで、よく見つかった。
そうして半日集めているうちに、いつの間にか粗末な箱の中はメェの贈り物でいっぱいになった。
だが、このままでは効果が落ちる! 堆肥は有機物と混ぜて、十分に腐熟させなければならない。
俺は堆肥を作る残りの材料を持って拠点を出て、扉から少し離れた空き地に場所を決めた。ここに堆肥を積んでおくつもりだ。
組み合わせる材料は、この辺りにいくらでもあるキノコと葦。まずキノコはできるだけ細かく刻み、葦は俺の指くらいの大きさに切る。
その作業が終わったら、刻んだ葦を地面に敷き、その上にキノコと木の葉、その上にメェの贈り物を広く撒いてから、
近くの木の下の土をすくってきて、入れすぎないよう適量を振りかけてから混ぜる。
『ところで、ここの植物はどうやって光合成をしているんだろう? 光の柱から出る光が、そんな役割も果たしているんだろうか?』
そして、適量の水を撒いて山にしておけば終わり!
この後は、定期的にひっくり返すだけでいい。
「見よう見まねで覚えたけど、難しい作業はないし、これくらいでいいかな?」
ただ、すぐに使うのは難しい。分解と熟成を繰り返してできあがるのが堆肥……地上では完成まで数か月かかる。
「熟成する間に、堆肥をひっくり返す道具やスコップを作っておいて、メェの贈り物をもう少し集めておかないと……ああ、始めはしたけど、結局またキノコパーティーか~」
拠点へ戻って夕食にキノコを食べることを考えてすっかり気力が抜けた俺は、床に仰向けに寝転がり、しばらく暗い天井を見つめた。
「それでも……まずは始めたことに意義があると思おう。0から1は、じっとしていたって勝手には生まれないからな。それより、今日あれだけ集めたのに……思った以上に贈り物の量が足りない。」
〈メ……! メェ~〉
「変態みたいに、メェがあんな声を出すたびにトングを持って走っていくわけにもいかないし……」
贈り物を箱一つ分集め、堆肥を仕込むだけで、すでに丸一日かかっていた。もし農業がうまくいくなら、定期的に手軽に手に入る供給源が必要だった。
「飼えないかな、メェ……人を警戒している様子じゃなかったけど。待てよ。そもそも、メェはどうやってここに来たんだ?」
急にいろいろな疑問が浮かび始めた。
「俺は根っこみたいな木を割っていてここに落ちたんだから、メェも似たような根っこを噛んで食べているうちにここに落ちたのか……? ははは、筋が通るな!」
しばらく、他愛もなく笑ってみた。
「一度飼ってみるか? メェ。羊がくれる贈り物は、これだけじゃないからな」
◇ ◇ ◇
19日目。
今日の目標は、メェに俺のそばにいればおいしいものが落ちてくると思わせて拠点の周りに留まらせ、最終的には排便のしつけまでして、贈り物を定期的に貯めておけるようにすること!
暇なときに少しずつ干しておいたキノコがかなりの量になっていたので、これを誘い餌に使うことにした。
「今日はどこにいるかな?」
運よく、メェは初めてメェを見つけた木の近くで、何かを探すように鼻をひくひくさせていた。
「笑顔を保つんだ。できるだけ優しそうな顔を見せるんだ」
俺は世界で一番無害な人間だということを見せるために、穏やかな笑みを浮かべながら、メェにゆっくり近づいた。
「メェ~?」
メェは俺の声を聞くと、鼻をひくひくさせるのをやめ、よたよたと足を動かして向きを変え、体を俺のほうに向けた。
メェは逃げずにじっと俺を見つめ始め、俺は手に持っていた乾燥キノコを振ってみせた。
「きっとおいしいぞ?」
〈メェ~〉
メェは俺の手にあるキノコを見つけると、ゆっくり俺に近づき始めた。
「やっぱり今まで来なかったのは、俺が手ぶらだったからなのか? 意外と薄情だな……」
メェはしばらく俺の手にあるキノコの匂いを嗅ぐと、歯を突き出して俺の手からキノコをさらっていき、ゆっくり噛み始めた。
〈メ……! メェェ!!〉
メェはおいしいとでもいうように、興奮した鳴き声を上げながら体を揺らした。
メェがよく食べるので、俺まで満ち足りた気持ちになった。
「そうそう、やっぱりお前は乾いたのが好きだよな? たぶん、お前にとっては米菓子みたいなものなのかな?」
【経験値 +10】
「……ん?」
俺は目の前に唐突に現れた小さな『経験値』という文字と数字に、首をかしげずにはいられなかった。
「経験値って……? え? 何だこれ……」
異世界に転生してからも、『ステータス』と叫ぶとき以外に、目のすぐ前に文字が現れるゲームのような状況が起きたのは、今回が初めてだった。
俺がしたことといえば、メェに乾燥キノコをあげただけなのに……
俺は確認のため、メェに乾燥キノコをもう一つ渡した。
【経験値 +9】
「?! 気のせいじゃない……まさか、これが今まで隠されていた俺の隠し能力?! 俺はドルイド系だったのか?!」
突然こみ上げてくる興奮に、俺はその場から勢いよく立ち上がってしまった。
「でも……宿屋で鶏に餌をやるときにはこんなことはなかったのに、どうして急に……」
確かめてみるしかなかった。
「ス……ステータス」
俺はしばらくステータス画面を眺め始めた。
「うーん……まあ、これといって特別なものは……あれ?」
俺の視線は、これまでステータス画面で見つけられなかった新しい言葉に止まった。
――
【特殊パッシブ】
+ ???
+ 特級お助け:他者(生物)を助け、その行為が『成功』した場合、経験値を得られる。
【特殊スキル】
+ クレクレ:他者(生物)に経験値をねだると、相手の経験値の一部を、高倍率に増幅された経験値として恵んでもらえる。
+ ポイント強化:得た経験値が限界に達して『ポイント』に変換されると、ポイント強化を行える。
――
「え……? ええ……?!」
喜びよりも、疑問が先に浮かび始めた。
「いったいどうして……?」
◇ ◇ ◇
俺が異世界に生まれ変わり、のんびり平和に暮らすことに満足できていた理由の一つは、俺には転生したときに得た特別な『異能力』や『S級のチートスキル』のような能力が存在しなかったうえに、
ここで20年以上暮らしていても、特別な能力がステータスに付いたことはなかったので、この世界での自分の立場をすぐに理解できたことだった。
『俺はただのエキストラ程度なのかな~……まあいいか。そう簡単には手に入らないセカンドライフじゃないか?』
つまり、命の安全を確信して冒険に踏み出せるほどの自信を与えてくれる『能力』が、俺にはなかったから……もしかすると、自分を騙して宿屋での暮らしに満足していたのかもしれない。
◇ ◇ ◇
だが、今は感じられた。
心の奥では、俺も『冒険』というものを望んでいたのだと。
なぜなら、地下のダンジョンに落ちてから経験したすべてのことは、苦しかったというより楽しかったからだ。
俺には一生縁がないと思っていたダンジョン、特別な能力、成長、そして冒険。
「今なら……可能なのか……?」
ステータス画面に表示された能力を見ていると、もう気持ちを隠すことはできなかった。
俺は確かに、『冒険』と『成長』を並行して進めながらこの世界を探検したかったのだと。
そして、それを可能にしてくれる能力を、ようやく手に入れたのだと!
「何だっていいってことだ! 必ず成長して生き残り、満喫してやる! 本当の異世界ライフをな!」
〈メ! メェ!〉
決意を固めると、やるべきことが山のように頭に浮かび始めた。
二度目の人生に、さらに新たな幕が開こうとしていた。




