第7話 他の栄養素が必要だ!
〈……ありがとう……〉
目がぱっと開いた。
「うーん……俺、なんで……ここで眠ってたんだ……? 何か気持ちのいい夢を見た気がするんだけど……お茶も飲んで、お菓子も食べて、肉も食べて……」
目を開けると、俺は石像さんの下に無造作に寝転がっていた。
何かがきらきらして、突然光がぱっと閃いたことと、まるで夢を見たかのようなぼんやりした記憶だけが残っていて、
そのぼんやりした記憶さえ、やがて夢のように消えた。
「全部夢?」
俺は体を払って起き上がり、しばらく石像さんをじっと見つめた。
石像さんは、まるで俺を見て笑っているように見えた。
「俺、無理をしたみたいだな。でも……やっときれいになりましたね。よし! 大掃除も終わったことだし、元気に一日を始めてみるか?」
確かに床で寝ていたのに、なぜか体は軽く、気分も爽やかだった。
俺は軽い足取りで、地図の横の『To doリスト』へ向かった。
〈必要なもの〉
- ベッド(完了。ただ、アップグレードできたらいいな)
- 布団と枕(あれば幸せかも……)
- 器(何かを入れておけるものがあればいい)
- 食器(スプーンやフォークくらい!)
- 椅子(完了)
- テーブル(食事も座ってできたほうがいいから)
- 箒(完了)
- 水桶(樽を半分にしたものは作ったけど、まだ十分な量の水を貯めておけない……)
+ 鉄器(鍋……フライパン……斧……)
〈やるべきこと〉
1.食料の確保(調味料なんかも作れそうだ。ただ、まだ野菜ばっかり!)
2.周辺の探索(右端と左端が気になる。でも、まだ危険な気がする)
3.水源の確保(完了。ただ、水を汲んでくるのに時間がかかりすぎるし、大変だ!)
4.内部の掃除(完了。床を舐めてもいいかも?)
+ 種の正体を確かめる
「よし……こんなところか? ずいぶん減ったな」
〈ぐぅ~〉
「うっ、ひょっとしたら、ここで一番正確な時計は俺の腹時計かも? ……食べなきゃ、だよな……?」
何かを食べなければならないと思うと、上がっていた気分が沈み始めた。それもそのはず……
「うぷっ……ううっ……」
台所に向かった俺は、台所の片隅に残しておいた焼きキノコを見た途端、何かが胃から逆流してくるような気分になった。
今日で18日目……俺はキノコばかり食べていた。
「も……もう無理だ!! 俺はラーメンだって毎日違う味を食べてた人間なんだぞ!」
俺は台所の真ん中に立ち、一人で天井を見上げて絶叫した。
うちの宿屋の特製シチューは、毎日手に入るそれぞれ違う材料を入れて煮込んでいたので、ベースとなる独特の味は保ちつつも、毎日違う材料を噛む楽しみがあった。
『今日はジャガイモか? ジャガイモが甘い~』
『ん、熊肉!? 熊肉もじっくり煮込めば悪くないな!』
『げっ、ニンジン……ニンジンは確か俺が抜いたはずなのに……』
ただ、これは単に子供が食事に文句を言うようなものではなく、思った以上に深刻なことだった。
俺の体は本能的にわかっていた。俺の体が炭水化物、脂肪、タンパク質のバランスを求めているのだと。
俺はすでにかなり痩せていた。
「いつまでもキノコだけを食べてるわけにはいかない……このままじゃ体の中でキノコが寄生して、俺はキノコ人間として発見されちまう」
かなり真剣な口調だった。
「一度……試してみるか……? あれを」
俺の鋭い視線が、台所の壁の向こうにある倉庫へ向かった。
◇ ◇ ◇
今から俺は、農業を試してみるつもりだ。
宿屋は基本的に『自給自足』が原則だ。
拠点とした土地を中心に、農業、牧畜業、観光業、飲食業、サービス業、そのほか諸々の仕事を自分でこなさなければならない。
うちの宿屋はかなり広い敷地を持っていたので、俺もキャベツやジャガイモ、タマネギやニンニクなどの栽培を手伝った経験があり、まったくの農業初心者ではないと断言する!
もちろん、大変な仕事は全部父さんと兄たちがやっていて、俺は週末農園を体験する程度のことしかしていなかった気もするが、見よう見まねで覚えた知識だって、侮ってはいけない。
俺は拠点の前の野原に出て、しばらく土を撫でながら、その状態を確かめてみた。
「葦や雑草くらいの草が育つだけの養分はありそうだけど……長いこと放置されていてぱさぱさだし、何より『命の匂い』が濃くない……」
拠点の前の野原は確かに農業に向いていそうな広い土地で、努力さえすれば水路まで引いて、どうにか農業を試してみることもできそうだったが……
「やっぱりこのままじゃ駄目だ。貴重な種を無駄にする可能性が高い」
俺はしばらく、手に持っていた『すり減っていない袋』の中の種を見つめた。
「何か方法が……」
考え込むと、自然とため息が漏れた……何か新しいものを食べられると思ったのに……
〈メ……! メェ~〉
「ん?」
いつもとは少し違うメェの鳴き声に、顔を向けてみた。
「そ……そうだ!! どうしてもっと早くそれを思いつかなかったんだ?!」
ある考えがひらめいた俺は、そのための『準備』をしようと、拠点へ駆け戻った。
異世界の人々は、見た目が地球人の平均よりも美形なことを除けば、外見や身体的な特徴は地球人とさほど変わらない。
ただ、一つ違いがあるとすれば……
異世界の人々は『それ』を排出しない。どういうことかというと。
俺はこの世界に来てかなりの時間が経ってからようやく自然と気づいた『ある事実』に、とても大きな衝撃を受けて、
村の学校で基礎教育を受ける年齢になってようやく、その真実を知ったのだが。
異世界の人々の腹部の内臓には、ほかの動物の腸の中にある臭い『それ』ではなく、『力を濃縮する器官』というものが長く連なっているのだった。
例を挙げるなら、一週間何も食べられない状況でも、一週間分の食べ物を『前もって』食べておきさえすれば、『濃縮器官』のおかげで体を動かし、生き延びる力を出せるという仕組みなのだ。
この濃縮器官がまた、すごいやつなのだ。消化器官(胃)で吸収できなかった有機物までエネルギー源に分解・変換し、濃縮・貯蔵する。
現代人の視点から、俺はこれを『魔力袋』と呼びたい。
だが、どうして異世界人がほかの動物とは違う身体的特徴を持つようになったのかというと……
継母が俺の幼い頃に読んでくれた『童話』から推測するなら、
いろいろな冒険を経て、ついに世界を救った『勇者』が『神』に出会うと、
「毎日お尻を拭くのは面倒くさすぎる!」
……と神に願い、それ以来、異世界の人間のお尻からあの『穴』が消えた……らしい……
もちろん、『貯蔵』できるだけで、人によって消化能力や胃の大きさには違いがあるから、漫画みたいに鍋いっぱいの料理を一気にかき込むような人は、めったに見かけない。まあ、たまにはいたけど。
毒素やアルコール、その他の悪い成分の分解には肝臓と腎臓が一生懸命働いてくれたため、魔力袋に貯蔵しきれなかった毒素や残った栄養素、その他諸々は尿として排出しなければならず、
だから異世界の人々は、動物の糞や人間の尿で作物を育てていた。
ところで、なぜ急にこんな話をするのかというと。
今から俺は農業のための『堆肥』を作るからだ。




