第23話 疑問を開きたい!
冷蔵庫や冷凍庫は、確かにこの異世界ではそうそう見かけるものではないが
ここの人たちだって馬鹿じゃない! 地球の人間は魔法が使えないからこそ、冷蔵庫という発明を成し遂げただけだ。
魔法が使えるか、あるいは『冷気石』を定期的に補充できさえすれば、冷蔵庫の複雑な仕組みなんて必要なくなる。
うちの宿屋もかなりの量の食べ物を保存し、保管しなければならなかったし
宿屋「スターウッド」の方針も『最高の食材、最高の味、最高のサービス』だったため、かなり大きな地下冷凍庫に各種食材やルートビア、エールなどを、それぞれ適した温度に調節して保管していた。
ばあちゃんは冷気魔法をかなりうまく扱えたので、毎朝、地下冷凍庫の壁の内側を流れる水を凍らせることから一日を始めていた。
『よく見ておくんだよ、ヤリス。こうして壁の中の水につながった鉄板に手を当てて、ゆっくり「冷気魔力」を注ぎ込めばいいんだよ……ただ、最初から冷気魔力で水を急に凍らせると壁が崩れることもあるからね。床から天井へ上げていくつもりで、優しく、ゆっくり魔力を注ぎ込むんだよ……』
『へえ……でも、ばあちゃん、俺だってもう知ってますよ! そんな魔法は誰でも扱えるものじゃないってこと! それに、俺はまだ木を伐ってくる仕事を始めたばかりなんですけど……』
『ほほほ、ヤリス、お前は私の孫なんだよ。いつかお前も私みたいに魔力を扱えるようになるから、あまり心配しなくていいんだよ』
『へえ……よくわからないけど……』
『それから、絶対に忘れちゃ駄目だよ! 保存用の肉は100の冷気! すぐに使う肉は80! ルートビアとエールは70! 果物と野菜は30!』
『ああ、急に覚えろって言われても! どこかに書いておいてくださいよ!』
『ほほほ』
……
「ふっ……」
冷凍庫作りに使う木の板を拠点の中へ運んでいる途中、ふいに幼い頃のことを思い出し、笑いが漏れた。
「ばあちゃん、元気にしてるかな……ああ、みんなに会いたいな……」
◇ ◇ ◇
冷凍庫を作る場所は、ずばり台所!
台所の奥には古い扉が一つついていて、その扉を開けると、そのまま倉庫につながっている。
ここは拠点の中のどこよりも涼しく感じられたが、食べ物を保存するには到底足りない冷たさだった。
たぶん、ここを建てたときに壁の中へ入れておいた冷気石が、力を使い果たしたせいじゃないだろうか。
『探索』で探してみたところ、確かに、この倉庫の周りを『冷気石』が囲んでいた。
『じゃあ、この涼しさの正体は何だ……?』
とは思ったが、ひとまず置いておくことにした。
まずは、もともとついていた木の扉を補強し、氷竜の宝玉を倉庫の中へ入れて扉を閉めてみたが、
氷竜の宝玉から噴き出す冷気は想像以上に強烈で、かまどの火は消え、台所には結露が生じ、その冷気は石像さんにまで届くほどだった。
普通は、竜の宝玉を竜の体内から取り出した後、魔力を閉じ込める特殊な箱にすぐ入れるか、魔力制御の魔法や別のアーティファクト、あるいは宝玉の力を制御できる特殊な装備などで、宝玉の中に凝縮された魔力が主を失ってあちこち暴れ回るのを防ぐのだが
俺が使えるものは『竜の副産物』しかなかったため、ほかの解決策を探さなければならなかった。
工事は大きく『内部』と『外部』の作業に分けて進めた!
-内部作業
1.冷凍庫の中央に竜の肋骨と木で作ったスタンドを立て、肋骨の上に宝玉を置く。
万が一、予期せぬ地震などで宝玉が床に落ち、『冷気爆発』という大惨事が起きるかもしれないので、『メェの糸』で宝玉をしっかり縛り、天井に打ち込んだ釘に結びつけて安全装置を設ける。(編み物で手袋を作っておいてよかった!)
2.研究の結果、竜の肋骨の内部にある微細だがびっしりと開いた穴を通じて、宝玉の冷気が伝わることがわかった。
だから、床に接している肋骨の先を少し切り、その部分に竜の大腸をつなぐ。
(竜の便を処理するのに少し苦労したが、新しい堆肥の材料がたっぷり手に入って気分がいい!)
3.竜の大腸を長く伸ばして冷凍庫の隅に沿わせ、一定の間隔で穴を開ける。冷気が大腸の中を巡り、自然と穴から外へ出ていくようにする。
4.大きな肉の塊を保管するフックと棚を大量に作り、中を埋める!
-外部作業
1.もともとの古い扉は思い切って取り外す。
2.扉の大きさに合わせて作った板を組み合わせた後、板の四辺を、溝を彫った竜の骨で仕上げて固定する。こうすれば、隙間から漏れ出す冷気をかなり防げる。
3.木だけでは冷気を防ぐのに足りないので、扉の内側と外側を竜の皮で覆って仕上げる。
4.皮の上から、扉の中央部分に、内側からも外側からもつかんで開けられる大きな取っ手を取りつける!
扉の取りつけまで終えた俺は、扉を閉め、その表面に顔を当ててみた。
俺の頬は、皮の感触以外には何も感じなかった。
「よし! これくらいなら十分だ! なんだか……大きな盾みたいな形になったけど……まあ、扉として使うには十分だろ!」
肉を保管する棚を作るために、さらに板を作り、釘も追加で作り、皮が乾くのを待っていたため、この作業が終わったのは53日目だった。
「はあ……冷凍庫か……ばあちゃんのやり方とは違うけど、悪くないな。これで食べ物が傷む心配もないし! なんだか涼しくて気分がいいな~」
最後に、別の倉庫でもう一つの氷竜の宝玉と一緒に入れておいた肉や内臓などをここへ運び、冷凍庫作りと肉の保管、整理作業を終えることができた。
肉でいっぱいになった倉庫を見ると……俺の心まで幸せでいっぱいになったような気がした。
◇ ◇ ◇
54日目。
『ヤリスの臨時精肉店』は店じまいした。
肉は傷む可能性が高いので、最優先で処理したのだが、まだほかにもやるべきことがたくさん残っていた。
まずは、最も脂肪の少ない尻尾の肉を、台所のかまどを使って燻製にし始め、
氷竜がめちゃくちゃにした畑を整え始めた。
氷竜は小麦をかなり食べてしまっていたが、農業をやめるほど深刻な被害ではなかった。
ただ、氷竜がここまで飛んできて選んだのが、俺でもメェでもなく、この『小麦』だったという事実は、かなり不思議だった。
確かに、俺が植えた謎の種から育った小麦は、地上の小麦より粒が大きく、一本の茎につく小麦の粒も、地上のものとは比べものにならないほどびっしりついていた。
そして、小麦の茎も、びっしりついた粒の重さで曲がったり折れたりすることなく、まっすぐ立っていた。
「これ……育ててもいいのかな……?」
一度襲撃を受けると、それまでなかった恐怖が生まれ始めた。
今回はどうにか防げたが、別のモンスターがまた小麦を食べに襲ってきたら? 一匹ではなく、二匹以上が押し寄せてきたら?
「……やっぱり、一人じゃ無理だ……」
その日、俺は鎌を手に、育てていた小麦をすべて収穫してしまった。
◇ ◇ ◇
55日目。
小麦をすべて拠点の中へ運び込んだ俺は、しばらく崖に腰掛けて小麦の茎でロープを作りながら、広々と広がる地下世界とその果ての『光の柱』を、メェと一緒にぼんやり眺めていた。
空へと噴き上がっていた氷竜のブレスが何度も頭に浮かび、鳥肌は立ったが、いつ見ても、地上では想像もできないほどすごい景色だった。
「ラムダさんは、もう近くまで来てるかな……みんな無事だといいな……」
氷竜と対峙してみて、彼らがどれほどすごい人たちなのか、あらためて実感できた。
「まあ、メンバーのほとんどが『ハイローラー』のラムダさんのパーティーなら問題ないだろ! 俺だって仕留められたんだし?」
『ハイローラー』という称号を得る方法はいくつもあるが、その一つが、竜と『1対1』で戦って勝てるほどの実力を身につけることだという。それほどの強さと経歴がそろって、ようやく得られる称号が『ハイローラー』なのだと聞いていた……。
「……ん? 待てよ……それってつまり……いやいや~、うぬぼれるなよ、ヤリス! お前はチート級のスキルを使って、ようやく勝てた程度なんだから……」
「……でも、本当に疑問なんだよな……いったい、どうして突然こんなスキルを手に入れたんだろう……」
「うーむ……」
疑問は積もるばかりだったが、頭の中で考えるだけでは疑問は解決しなかった。
俺はただ同じ疑問を繰り返し考えながら、崖に腰掛け、崖の下から上がってくるラムダさんを手助けするためのロープを編むだけだった。
『俺、ここにいます!! 早く来てください! 誰でも! ここに人がいます!!』
今度は心の中でだけ叫んだ。
ここに一人で落ちてきてから、もうすぐ60日……人の声が恋しくなり始めていたところだった。
メェや石像さんに一方的に話しかけるばかりで、誰かと言葉を交わす『会話』の仕方さえ、近いうちに忘れてしまいそうだった。
これまで寂しさが押し寄せても耐えられたのも、彼らがいつかここにたどり着くという希望があったからだった……。
◇ ◇ ◇
ロープ作りを終えて拠点へ戻り、石像さんの前に座ると、これまで手荒く扱って刃がすっかり鈍った道具の刃を研ぎ始めた。
竜の歯は、砥石代わりに使うには本当に完璧なものだった。
崖で浮かんだ疑問は、拠点に戻って道具の刃を研いでいる間も、頭の中をぐるぐる回り続けていた。
俺は鍬の刃を研いでいる間ずっと、石像さんの後ろに見える『開かずの扉』を見つめていた。
毎日見るあの『開かずの扉』こそ、そんな疑問の集合体のようなものだった。
「ふむ……石像さん……あの扉の向こうには、いったい何があるんでしょうね? 伝説級のモンスター? 古代の王の墓? 国を買えるほどの宝? 古代の遺物?!」
「……」
俺は鍬を手に、ゆっくりと『開かずの扉』へ近づき始めた。
「やっぱり……見ていると、少し好奇心が湧くというか……すべての冒険者、ローラー、さらにはハイローラーまでが、命を懸けてでもたどり着きたいと思う扉の向こうだなんて……もちろん、俺なんかじゃ一歩も踏み出せないほど危険な場所なんでしょうけどね! ははは」
「……」
「それでもやっぱり……いつか見てみたいですね。すべての冒険者が夢見た『開かずの扉』の向こうを」
俺は何気なく、開かずの扉を撫で始めた。
ここに来た初日以来、扉に触れたことは一度もなかった。
その瞬間。
〈ゴゴン……〉
「……ん?」
〈ゴゴン……ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ!〉
「え……えええ?! 待て待て、待ってくれよ、これが合言葉だったのかよ?!」
巨大で、びくともしなかった『開かずの扉』が、削岩機で石を砕くような騒音を立て、床を引きずりながらゆっくりと開き始めた。
〈ゴゴゴゴゴ!〉
「ちょ……待て、どうしよう!」
突然の出来事に驚きすぎて、両足がまったく動かなかった。
恐怖半分、好奇心半分……その二つが、俺の足をその場に縫い止めていた。
俺はゆっくりと開く扉を見つめながら、鍬を力いっぱい握り始めた。
「まあ……来るなら来いってんだ……! もう昔の俺じゃないんだから!」
〈ゴゴゴゴ、ドン!……〉
ゆっくりと開いていた扉が突然止まり、人が一人通れるほどに開いた隙間には、闇以外何も見えなかった。
俺は何度も生唾を飲み込みながら、その闇をまっすぐ見つめるばかりだった。
そして、数秒間の長い沈黙の後、闇の中で何かが動き始めた。
『く……来る!』
俺は鍬の柄をさらに強く握り始めた。
〈コツ……コツ……〉
〈コツ……タッタッタッ〉
〈タッタッタッタッタッ!〉
〈とん……〉
「……ヤ……ヤリス……?」
開かずの扉が開き、拠点の中へ駆け込んできたのは――
「……え? ……メ……メイメイ……?!!」
まったく思いもよらない人物だった。
-第1部 完。-
第23話まで休む間もなく一緒に走り続けてくださった皆さんに、心から深く感謝いたします。
『経験値クレクレでダンジョンマスター!』の第一部は、第23話をもって幕を閉じました!
今後の予定についての詳しい内容は、活動報告をご覧ください :)
※連載終了ではありません!




