第21話 戦利品を使いたい!
46日目。
〈メェ~〉
〈とんとん〉
「うう……ここは……」
メェの鳴き声と、誰かにとんとんとたたかれる感覚で、俺は目を開けることができた。
ひどく腹が減っているところを見ると、朝はとっくに過ぎているようだった。
「ああ……思いっきり石の床で寝ちまったな。うっ、全身を殴られたみたいだ!」
俺の視線は自然と、昨日仕留めた氷竜へ向かった。
氷竜は確かに昨日死んだのに、まだ冷気が漂い出ていて、その冷気が隣を流れる温泉の湯の暖かな空気と絶妙に混ざり合い、まるで真夏にエアコンをつけ、厚い布団をかぶって寝ているような感覚だった。
『氷竜の死体の隣で平然と気絶するなんて……どうやら俺の頭も、どうかしちまったみたいだ……』
「うう! 忘れよう、忘れよう。目が覚めたことが大事なんだから! 氷竜が傷む前に、さっさと『解体』を始めようぜ!」
氷竜の死体を見て、真っ先に浮かんだ言葉だった。
竜だって結局は、タンパク質と脂肪と骨でできた生き物!
捨てるところなんて一つもない。
〈メェ~!〉
〈ぐうう……〉
「うっ……その前に……とりあえず飯にしようか……?」
温泉の湯で喉を潤し、少し魔力を回復させた俺は、朝食のために慌ただしく動き始めた。
今日は……キノコなんか食べたくなかった。今日の一食目は、ずばり『ドラゴンの首肉』!
実は、ドラゴンの肉には脂肪がなく、肉の部分がすべて圧縮された硬い筋肉でできているため、味は保証できないとばあちゃんから聞いていた。
冒険者やローラーたちも、どうにかドラゴンを仕留めても、肉を少しだけ切り分けて非常用の干し肉にし、残りは業者に渡すか、ダンジョンに残してくるという。大きさがとんでもないから!
それでも、この世界で『ドラゴンの肉』はかなり貴重で、魔力もたっぷり含んだ『特殊食材』だったため、現代のツバメの巣やフカヒレ、キャビアのような扱いだった。
最上級ポーションの材料にも、乾燥させた竜の肉の粉が欠かせないというから!
実際、竜も人間を食うので、ダンジョンなどに生息する竜は、人を食った可能性が高い。
だから、ドラゴンの肉の一部が人間でできていると考えると……まだ現代人の視点をすべて捨てきれていない俺としては、少しもやもやするのも事実だが……。
『まあ……ここにある人の痕跡といえば俺くらいだし……それに、俺は食われてないからよし!』
すぐに振り払ってしまった。
俺は拠点に立ち寄り、『フライパン』と『薪』、『鉄の斧』と籠を持って再び温泉の近くへ戻り、解体を始めた。
「スマッシュ!」
鉄の斧で竜の鱗の隙間を狙ってたたきつけ、一枚ずつ鱗を剥がした後、
切れない部分は『魔力刃』を使い、短剣で切り離す。
ただ、魔力刃Lv1だけではうまく切れない感じだったので、ポイントを追加してやった。
【魔力刃Lv2:『魔力』を『刃』に込めて『頻繁に振動』させ、『切削力』を高められる。長い刃にも適用可能。】
〈ジイイイン!〉
「おお、なんだかカミソリがアップグレードされた感じだな?」
鱗を剥がすと氷竜の白い肉が見え始め、よだれが出てきた。
さっき、竜には脂肪がなく、普通は硬くてまずいとは言ったが……氷竜だけは違った。
『氷竜の肉』は、体内から噴き出す自らの冷気でも凍らずにいられるほどの『保温』が必要だったため、脂肪とタンパク質が程よく混ざった、この世で最高の珍味中の珍味だった!
例えるなら『最高級の和牛』!
そうして短剣で氷竜の首肉を、食べる分だけ少し切り取ると……
赤い肉と白い脂肪が程よく混ざった、完璧な肉の塊が現れた。
「ああ……ああ……!!」
俺は素早く肉をフライパンに載せ、石で作った簡易ストーブの上にフライパンを置き、その下に薪を入れて『点火』で火をつけた。
「点火……すごい! こんなに便利だとわかってたら、とっくに覚えておけばよかった!」
ほどなく、フライパンの上で脂肪が溶け、熱を帯びて肉と交わりながら、じゅうじゅうと沸き立ち始め、
脂肪が生み出す香ばしい匂いは、空気に乗って自然と鼻の中へ流れ込み、俺の理性を麻痺させ始めた。
「なんと……なんと46日ぶりだぞ……肉……! 早く焼けろ!」
しばらくして肉の両面がこんがり焼けると、俺は持ってきたフォークで肉を持ち、短剣で一切れずつスライスし始めた。
〈ごくり〉
「ああ……それじゃ……いただきます……」
そして、焼きたてで温かく、持ち上げただけで肉汁が下へぽたぽた滴る竜の肉を一切れ取り、ついに口に入れたとき……。
〈ビリッ〉
「!!!!!」
全身に電気が流れるような、しびれる感覚があった。
干ばつでひび割れかけていた俺の舌に脂肪が降り注ぐと、再び味覚という芽が育つようで、
肉の温かい脂肪が食道を通って胃へ流れ込むと、全身に力が湧き始めた。
「ううっ……この一切れのためなら殺人だって……ううっ……」
流れる涙と感動を抑えられなかった。
そして、さらに俺を喜ばせたのは……この巨大な氷竜の肉が、まだまだたくさん残っているという事実だった。
〈メ! メェ!〉
いつの間にか近づいてきたメェが、俺に頭をぶつけ始めた。
「ううっ……メェ……お前も食べたいのか?」
〈メェ!!〉
「ううっ……でも駄目だ……お前は草食動物だろ……」
〈メェ? メェェ!〉
俺はひっきりなしに腕へ頭突きをしてくるメェを無視し、氷竜ステーキとのデートを一人で終えた。
◇ ◇ ◇
食事を終えた俺は、本格的な氷竜の解体作業に入る前に、
メェが発見した『古い魔導書』を探しに出かけた。
ただの品ではないことは、近所の4歳のちびっ子が見てもわかるはずだった。
「確か、この辺のどこかに……あ、あった! でも……ん?」
確かに開いたまま放置しておいた本は、いつの間にか閉じていた。
氷竜に立ち向かおうと思う前に読んだ魔導書には、特定の『スキル』が書かれているというより、魔力と元素魔法の『原理』のようなものが書かれていた。
俺が見たページの内容は、『火と冷気の魔法の相乗効果』と『元素変換』、そしてそれらの応用といったものだった。
例えば、冷蔵庫の原理のようなもの!
冷媒を圧縮して熱を外へ放出した後、圧力を下げて蒸発させる過程で、周囲の熱を奪う!
うーん……もう少し簡単に説明すると……現代でいう、水を加熱すると気体に変わる、といった内容を魔力版として解説したものだった。
ページの最後には、同じ量の魔力でも元素の組み合わせ次第で、より大きな爆発力を生み出せる――そんな『エクスプロージョン』のような応用法が書かれていた。
その内容を読んで、パチンとひらめいたのは、まさにメントスとコーラ!
魔力コントロールは、相手の魔力ではなく『自分の魔力』しか扱えなかったため、まず温泉の湯に俺の魔力を注入する必要があった。
それに、温泉の湯に混ざった魔力だけでは、すでに湿った胃の中でどう作用するかわからず、硫黄を着火促進剤として使ってみた。
ひとまず俺の魔力を加えた温泉の湯が、氷竜の胃の中に入ってしまえば、
魔力増幅を使って発火の表面積をできるだけ広げてから、点火!
温泉の湯に混ざった硫黄と、湯自体に含まれる魔力も、大きな相乗効果を生んでくれた。
ブレスを吐くときに冷気が逆流して内臓を傷つけることがないよう、竜の胃や各内臓は、すさまじい密閉性を持っている。
そのため、胃の中で瞬間的に発生した莫大な圧力を十分に逃がせず、それでこの作戦が成功したのだと……推測している。
幼い頃、ばあちゃんが読んでくれた『竜の胃の中の王子様』や、竜についての話が役に立つとは……。
「やっぱり、役に立たない知識なんてないってことだな! それじゃ、ほかの知識も探究してみようか?! このまま『大魔法使い』になったりするんじゃないだろうな? ははは」
俺は地面に置かれていた魔導書を拾い上げ、意気揚々と開こうとした。
「……ん?」
「ぐぬぬ……!」
「……あれ? え? なんでだ……?」
だが、どれだけ力を込めて開こうとしても、本はびくともしなかった。




