第2話 初日
「ステータス」
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名前:ヤリス
年齢:20歳
称号:地球からの転移者
体力:40 魔力:50 力:30 敏捷:30 知力:50(知識による加算)
パッシブ:大食い、清潔維持
特殊パッシブ:前世の記憶(99)、異世界言語理解(100)
スキル:料理(35)、斧の扱い(45)、掃除(70)、手先の器用さ(60)、鈍器系マスタリー(35)、刀剣系マスタリー(25)、修繕(30)、狩猟(30)、採集(40)
特殊スキル:ガイドシステム
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「やっぱりこの程度か……完全に宿屋特化だな~」
何年かぶりにステータス画面を開いてみたが、役に立ちそうな能力は特に増えていなかった。
この世界に生まれ変わり、歩けるようになった頃からステータス画面に能力が一つ、また一つと増え、成長が目に見えるのがゲームみたいで、よくステータス画面を開いていたけれど、
平和な毎日が繰り返されるうちに、いつからか開こうとも思わなくなっていた。
何年も計算し、調べてきた結果、二十歳の成人男性の平均的な能力値はちょうど20と言えそうだ。
普通、能力値の数字が90を超えると、この世界では『マスター』扱いされるらしい。
もちろん、今のところこの数値を知っているのは俺だけだから、推測にすぎないけど……。
このままいけば、結局俺は『掃除のマスター』になるのだろうか……。そんなことを少し考えた。
ステータス画面を閉じ、俺はもう一度周囲を見回し始めた。
まずは念のため、『開かずの扉』を押してみる。
「んんっ……やっぱり名前どおりだな……びくともしない」
扉以外の周囲は、突き破れそうもないほど頑丈な石壁に囲まれている。
扉の正面と左右には、どこかへ通じていそうな木の扉がいくつもあり、巨大な扉の前だからか天井も高く、それほど息苦しくはなかった。
何より、発光石が隅という隅にはめ込まれていて、暗くもなかった。
「変わったものがあるとすれば……」
扉の真正面、広間の中央には、ところどころ苔の生えた俺と同じくらいの背丈の像が一体立っていた。
像の首飾りにあしらわれた紋章を見るかぎり、女神をかたどったものらしい。
慈愛に満ちた女神が、片手に薬草を、もう片方の手に地面から伸びた木の根のようなものを持ち、優雅に立っている姿。
初めて見るその精巧な姿に、俺はしばらく我を忘れて像を見つめた。
「いや、こんなことをしてる場合じゃない! 俺が降りてきた時刻から考えると……こっちの時間は午後六時から七時くらいだろう。もうすぐ体が疲れてくる。その前に安全な拠点を見つけないと」
我に返った俺は、扉の右側から慎重に調べ始めた。
『国家級ダンジョン……しかも開かずの扉の前だ……。俺の能力じゃ、一度のミスで全身が分解される。だが皮肉なことに、進むしかない……生きるために』
拍子抜けしたことに、右側の扉をすべて開けてみても、その先はどれも生活に使われていたらしい空間だった。
空き部屋、食堂、倉庫、会議室、それにトイレまで。
中は長いあいだ放置されていたようで、まともに残っているものは何もなかった。
左側の扉も開けて入ってみたが、こちらにも特別なものはなかった。
廃棄物の処理に使われていたらしい、底がまったく見えない井戸。
武器庫らしき場所、浴室らしき場所、別の部屋と中くらいの広間まで。
『ここ……本当にダンジョンなのか? 聞いていたのと何か違う……』
ただ、建築様式や造りは今のものと言ってもおかしくないほどで、使ううえでも不便はなさそうだった。
「残るのは正面の扉だけか……。たぶん、本当の危険はこの扉を出た瞬間からだろうな……」
この場所の安全を確かめて一度は和らいだ緊張が、『本当の危険はこの扉の外にある』と思った途端に戻ってきて、なかなか扉を開けられなかった。
「そうだ、急ぐことはない。今日はここまでにして、先へ進むのは明日からだ!」
緊張のせいか、あまり眠くはなかった。だが生き残るうえで大切なのは、正しい生活リズムを保つことだ。
床で寝るのだけは本当に嫌だったが……俺はこの空間で比較的きれいだった像の足元に、背負っていたリュックを下ろし、しばらく女神像を見上げた。
「どなたかは知りませんが……しばらくお世話になります」
下から見上げた像は、まるで俺に微笑みかけているように見えた。
◇ ◇ ◇
翌朝、宿屋のそばで飼っていたコッコ32の威勢のいい鳴き声がなくても、俺はぱっと目を覚ますことができた。
「まずいな……これは空腹だ……」
俺は宿屋でのきつい仕事を一日中こなすため、毎朝ヘビー版の『高カロリー特製シチュー』を食べていた。
そのおかげで、今日から何も食べなくても一週間ほどは十分動けるだろうが……。
カロリーを蓄えていることと、胃が空っぽになって感じる空腹は別の問題だ。
空腹による意欲の喪失、気分の落ち込み、力が出なくなることは、生き残るうえで大きな問題になる。
空腹。実のところ、一日以上食べずに過ごしたことがない俺には、その限界も悪影響も正確にはわからなかった。
この先のためにも、早く水と食料を確保しなければならないのは確かだった。
「こんなことになるなら、ダンジョンの本を少しくらい読んでおくんだった!」
俺はそのとき初めて、のんびりした暮らしに満足していたこれまでの自分を悔やんだ。
だが、ダンジョンの中にも食べられるものはきっとある。それがあるからこそ、内部の生態系も回っているはずだ。
もう座っているわけにはいかない。さらに力が抜けてしまう前に動こうと決め、昨日は開けられなかった扉の前に立って、少し考えた。
一晩寝たからといって、ダンジョンへの恐怖が急に消えるわけではなかった。
「でも……今動かなきゃ、どうせ死ぬんだ! 誰も助けに来てくれないんだから!」
覚悟を決め、俺は分厚い木の扉を両腕で力いっぱい押し始めた。
扉は床をこする音を立てながら、ゆっくり開き始めた。
「……ん? 思ったより……」
震える腕で扉を開け、その向こう側へ出てみたが、
「普通だな?」
あれほど緊張していたのに、現れたのは拍子抜けするほど普通の空間だった。
少し広いこと以外、これといった特徴のない廊下。
発光石はないが、どこからか届く光で中は暗くなかった。
左には下へ続く石段のようなものがすぐ目に入り、右には少し長い廊下が延びていた。
「じゃあ……右から……」
そうして先に右側を調べようとした、そのとき。
〈……メェ~……メェ~〉
左の階段のほうから、どこか聞き覚えのある声が反響して耳に届き始めた。
「こんなところに羊が!?」
俺はとっさに腰の短剣を抜き、興奮を抑えきれないまま階段を下り始めた。
『あいつさえ捕まえれば、数日、いや数週間は腹を満たせる!』
そうして素早く階段を下り、固く閉ざされていた木の扉を開けると……。
俺は目の前に広がる光景を、しばらく呆然と眺めることしかできなかった。
「……ここが本当に……ダンジョンなのか……?」




