第14話 メェを助けたい!
俺は、今では拠点の近くに自然と居ついたメェを乾燥キノコでおびき寄せ、俺の『経験値生産』のためのテストに取りかかった。
-1つ目の実験。水。
メェが拠点の近くに居つく前は、メェは小川の近くでよく見かけられた。
ここから遠く離れた小川まで、よたよたと毎日歩いていくより、俺がここで水をやるようにしたら……?
俺から『助け』を得ることになる、とも考えられるだろう。
「メェ? 乾燥キノコばかり食べてると、喉が詰まらないか? そうなると思って……」
俺は拠点から持ってきた粗末な水入れを、メェの前に置いた。
メェはまるで待っていたかのように、水入れの水を飲み始めた。
〈メェ~〉
【経験値 +5】
「よし! やっぱり増えた! ただ、乾燥キノコほどの感動じゃないのかな~」
-2つ目の実験。接触。
数日間メェを観察した結果、メェは今、『かゆみ』を感じている。
それも、かなり激しく。
メェはご飯を食べたり水を飲んだりするとき以外は、いつも近くの木や拠点の石段に体をこすりつけていた。
それもそのはず、毛があんなふうに伸び放題のまま放置されているのだから……。
メェがおいしそうに水を飲んで機嫌のいい今。メェに許可を求める。
「なあ……メェ、ちょっと掻いてやってもいいか?どこかかゆいところはないか?」
俺はメェに自分の体を掻くところを見せると同時に、できるだけ気持ちよさそうな表情をしてみた。
〈……メェ~〉
「……いいってことだよな?」
俺は生唾をのみ込むと、ゆっくりとメェの腰のあたりの、もこもこした毛の中に手を入れ始めた。
「うっ……羊の毛って、ずいぶんぎっしり詰まってるんだな……」
予想に反して、あちこちで絡み合ったメェの毛をかき分け、皮膚までたどり着くのは簡単ではなかった。
だが、指先を立てて『蛇のように潜り込む』感じで試し続けてみると、
俺の前腕が全部入ったところで、指先がメェの皮膚に届いた。
「おっ……! 到着! じゃあメェ、始めるぞ?」
〈メェ~!〉
〈カリカリ〉
俺は爪を使い、できるだけ優しく、それでもかゆみが治まるくらいの強さで、メェの皮膚を掻き始めた。
その瞬間。
〈!!!!メッ!! メェ!!!〉
これまで聞いたことのないメェの鳴き声が、拠点の前の野原に響き渡った。
そして……。
【経験値 +220】
【ポイント +2】
「け……経験値が一度に220も?! メ……メェ! 俺の手が、そ……そんなに必要だったのか……?」
〈!!!メッ……メェェ……~〉
ものすごい経験値に驚いた俺が掻くのをやめると、メェはうっとりした表情で地面に寝転がった。
メェの目元には、喜びがあふれたかのように涙が浮かんでいて、
しばらく地面に寝ていたメェは、まるで掻き続けろと言うかのように、俺をじっと見つめた。
「よし……新しい世界を見せてやるよ、メェ……」
その後、俺は全力でメェの全身を隅々まで掻き始めた。
「うりゃうりゃ!」
〈メッ!! メェェ!!〉
【経験値 +120】
「ここはどうだ!!」
〈メェ~ メェ~〉
【経験値 +120】
【ポイント +1】
「仕上げだ!!」
〈メェェ~~!!〉
……
【経験値 +120】
【経験値 +120】
【経験値 +……】
……
「……はあ、はあ……」
俺は長いこと、メェの体の隅々を掻いてやり、
メェは満足したように地面に寝て、脚をぷるぷると震わせていた。
そして……そうして集まったポイントは、なんと『5ポイント』だった。
「すごい……これまでキノコを食べさせて、2日に1ポイントの割合で苦労して得ていたポイントが、一気に5ポイント……」
これまで細かく覚えていた経験値の計算を忘れるほどのすごい数字だったが、得られたポイントを見ると、そんなことはどうでもよくなった。
経験値がこんなに入ってくるのに……計算のために止まるわけにはいかなかった。
「は……ははっ! 待て! 待て! これ……バグじゃないか?! ってことは、これから定期的にメェを掻いてやりさえすれば……! ……あ……」
「……」
メェと目が合った俺は、ふと思い当たることがあって、手放しでは喜べなかった。
「それだけ……つらいってことなんだな、お前……」
メェは、ここでの数少ない俺の友達だった。
俺の言葉に返事をしてくれて、俺に近づいてきてくれて、俺の前で動いてくれる生き物。
少し掻いてやっただけで、メェがこれほどありがたがるなんて……。
今までどれだけひどいかゆみに耐えてきたんだろう。
「こんなやり方は嫌だ」
決心した俺は、横になっているメェにゆっくりと近づいた。
「なあ、メェ。毛……刈ってやろうか?」
俺はメェに、自分の髪を切る真似をしてみせた。
〈メッ メェ!!〉
俺の言葉を聞いたメェは、うれしいとでも言うように体をばたつかせ、その場で立ち上がろうともがき始めた。
「ははは、無理するな! 今は楽に寝てろ」
俺は横になっているメェにぴったりと寄り添い、腰に差した短剣をゆっくりと抜いて、メェの顔のあたりの毛に当てた。
メェも俺の気持ちがわかるのか、今度はもがいたり、逃げようとしたりしなかった。
「ジャンボ綿あめのメェとも、これでおさらばだ!」
俺は慎重にメェの顔のあたりの毛をひとつかみして、短剣の刃を当てた。
「ふふ……今日は一日、メェの毛を刈るのに使うことになるな~」
〈スッ……スッ……〉
「ん?」
〈スッ スッ スッ スッ〉
「……ん???」
俺は、短剣を通して手に伝わってくる、毛を分ける異質な感触に戸惑い、固まるしかなかった。
いや、これは切っている感触ではなく、
「まったく……まったく切れない……!」
短剣の刃は、メェの毛の上を滑っていた。
◇ ◇ ◇
「いったい何なんだ……」
羊の毛なら、これまでうんざりするほど刈ったことがある。
毛が絡まっていると短剣では切りにくいが、切ろうと思えば十分に切れる。それが普通の羊の毛だ。
俺の短剣に問題があるのか?そう考えてみたが、昨日寝る前にも、この短剣で何の問題もなく木の食器を削っていた。
俺は念のため、メェの毛を1本だけつまんで短剣に巻きつけ、力を込めて押してみた。
「ふっ……! ふうっ!!」
〈ピン~!〉
「はあ……やっと切れた。けど……こんなに力を入れたのに、たった1本……? 常識的にありえないだろ……」
俺はメェを、いつもとは違う目で見るしかなかった。
「メェ……お前はいったい何者なんだ……?」
〈メッ! メェ メェ~〉
◇ ◇ ◇
メェへの疑問はしばらく後回しにして、
俺はメェに断りを入れた後、たまっていた仕事を片づけ始めた。
実験用の畑の手入れ、木炭の確認、製錬炉作り。まだやることは山ほどあった。
しばらく仕事を片づけた結果、畑の作物は順調に育っていて、木炭は完璧で、製錬炉を作るための粘土も順調に集まっていた。
ただ、毛が短剣で切れないこととは別に、メェが毛のせいでつらい思いをしていることが気にかかった。
「何か方法はないかな……仕事に集中できないんだよな~。ガイドさん、何か方法はありませんか?」
「……」
「やっぱり、こういうのは駄目なのか。そうだ、頼らずに自分で考えてみよう」
俺はしばらく木にもたれて、メェの丈夫な毛を切るのに必要なものを考え始めた。
「まず、1本切るのに腕の力がものすごく要ったから、力系にポイントを投資する?」
「悪くない考えだ。力は今でも足りない気がするからな!」
「それから……もっと鋭くないと駄目なのかな? ただ、今の状況じゃ、この短剣より鋭いものなんて手に入らないんだけど……」
〈ピロン〉
【『魔力刃』にポイントを追加する。〈うん〉〈いいえ〉】
【『身体強化』にポイントを追加する。〈うん〉〈いいえ〉】
「出た! そして、俺の答えは両方うんだ!」
〈ピロン〉
【魔力刃Lv1:『魔力』を『刃』に込めて『少し振動』させ、『切削力』を高められる。】
「おお、これならいけるかもしれない!」
【強化する身体部位を選べ。】
「え? え……つまり……腕!」
【強化する腕を選べ。】
「ええ? カスタマイズ……細かすぎないか……? 両腕を強化したい」
〈ピロン〉
【身体強化(腕)0.5(左)+0.5(右)= +1】
「なるほど……身体強化はスキルとして扱われないってことか……あとは実際に使ってみるしかないな」
「待ってろ、メェ! すぐに助けてやるから!」
俺は勢いよくその場から立ち上がり、メェのほうへ向かい始めた。
一刻も早くメェの毛を刈ってやって、新しい能力を試してみたかった。




