第3 ガブリエル
思っていたよりは、ぼろい学校だった。
今となって、しっかりと下見でもしておけば良かったとも思う。
まあ ここで暮らす訳ではないのだから、些細なことだ。
そもそも俺は、ぼろいところに住んでいる。 住めば都の八重桜というやつだ。
既に自分は入試会場である盤輪高に到着し、自分の席に着席している。
我ながら迅速な行動だ。家が近いだけであるが。
高校に入ったら何か変わるのだろうか。
そもそもなぜ高校に行くのか。高校は義務教育ではない。
中学を楽しめなかった奴が、高校を楽しめるとも思えない。
しかしながら自分がここに座っている以上、自分が何かしら
期待してしまっていることは確かだろう。
いわゆる出会いがあるかもしれない。
下らんことを考えていると、声を掛けられた。
なんとなく舌足らずな声だ。
「あの すみません ちょっといいですか?」
声のした方へ顔を向けると、ちょこんとした人が立っていた。
目が大きく睫毛が長い、丸顔だ。短髪で幼い。ランドセルが似合いそうだ。
もう既に俺のハイスクールライフは始動してしまったのだろうか。
「いや 平常心ですよね 」
「? いやあの」
「出会いは突然ですかね これは」
「……あの 大丈夫ですか。」
大丈夫とは何だ。雲行きが怪しくなる。本当に小学生なのかこの子は。
「 えっと そこ、私の席です。 番号を確認してもらえますか。」
ここは俺の席ではないのか。そんなはずはない と思って受験票を見ると
確かに番号が違っていた。
じゃあ俺の席はどこだ。このままでは替え玉だ。なべや○んになってしまう。
「はは すみません。平常心ですね。」
そそくさと荷物をまとめて、教室を出る。何となく冷ややかな視線を感じる。
ま 合否には影響しないはずだ。
無事 本当の自分の席がみつかった。替え玉ではなかった。安心だ。
思わぬアクシデントだが支障はない。
しかしあの短髪ロリっ娘には、悪いことをしてしまったかもしれない。
1教科目は国語だ。実は苦手だ。俺は人の気持ちが分からない
人間なのかもしれない。
そうこうしていると試験開始の時間だ。
つまらん文章を読み進めていく。漢字の問題は既に片付けてある。
快調に進んでいた俺を、不意に邪魔する存在が現れた。
ガブリエル
物語に出てくる猫の名前だ。大層な名前をつけたものだ と思う。
この程度は誤差の範囲だ。問題ない。 がしかし
ブリガエル
次のページでカタカナの並びが変わる。これは誤植か。
それともガブリエルが究極進化でもしたのか。いや退化か。
落ち着こう。 惑わされてはいけない。これは入試だ。 ところが
ブリブルル
まさかの三段活用である。 さすが、独自の入試問題だ。
いや駄目だこれは しつこいぞバカ野郎。
頭を空にするしかない。そもそも俺は国語が苦手だ。
この作者の気持ちなんて、わかる訳がない。
午前の教科が終わった。ガブリエルしか頭に残っていない。
昼食はいなり寿司だ。これがまた甘辛い。くどい。
午後の試験を受けている間、ひたすら胃がもたれた。
入試は終わった。中卒で雇ってくれるところは、どのくらいあるだろうか。
考えても仕方がない。寿司でも食べて帰るか。




