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第22 下人と緋のマント

 年配と言っても過言ではない女性教員が、生徒に指示する。


「それでは、ええ、始めてください。」 


 机を向かい合うように移動させて、グループ討議が始まった。 

ディスカッション というやつだ。 

今は、現代文の授業の時間である。 

討議の主題となるのは、老婆がカツラをつくる小説であった。 


「…えっと…、じゃあ、始めよーか。」 


「…そうだね、よろしく」 


「おす、よろしく」 

 

「……。」 

 

 クラスの中で、だいたい4人ずつのグループが構成されている。 

近い席同士で机を寄せ合うので、Yは、自分の席の周辺にいる 

3人とグループを組むことになった。 

その3人は、小柄なYの隣、そして男子1人、女子1人である。  

 

「じゃーっ最初は…なぜ下人は老婆に話しかけたのか だね。」 

 

「あぁ そうだね。ぇーーと…」


「あはははぁ、グループで話し合うっていっても、 

何からすればいいか、わからないよねーー」 


「……」 


「そうだねーー」 


 グループ討議において、その中に、仕切る役の人がいないと 

その討議は単なる気味の悪い沈黙になりかねない。 

健気なYの隣は、自分がその役を買って出ようとしていた。 

 

 そのYの隣の心意気は、思わぬ妨害を受ける。 

 

「へぇー、今日、新しいヘアピンしてきたんだ?」 

「...ぇ?わかる…?」 

「あたりめーじゃん。ちゃんと見てるし、似合ってるよ。」 

「…、あ、ありがと…」 


「…ははは、仲、いいね。二人とも」  


「ぇあえ、そnそんなことないよ…」 

「あはは、ははっ それそれ、別にそーゆーんじゃないって」 


 一組の男女は、匂わせていた。 

Yの隣も、なんとなく察していた。 

とりあえず男女ペアは置いておいて、Yの隣は 

本丸と言って良い存在に切り込んでいく。  

 Yは、机を動かしてすらいなかった。

  

「…Y君は、どう考えるかな…?」 


「…。」  


「Y君?」 


「のッえ? どしたの。」 

 

 Yの隣は一応、想定はしていたが、Yは何も聞いていなかった。 


「…はは、えっと、今は現代文の時間で、そのプリントに沿って 

話し合いをやっているんだよ。」 


「そーなん? これはこれは、もう昼かと思ったわ」 


Yはあろうことか、チキンカツサンドを取り出そうとしていた。 


「…」 


 もういいか。 

 このグループにおいて、討議が盛り上がる可能性は、ほぼないと 

言って良いだろう。 

自分ひとりで、プリントの空欄を埋めれば十分だ。 

そのように、Yの隣は思いつつあった。 


 しかし、彼女の目に、初々しくもある男女ペアの様子が映る。 

彼女はYの様子を見て、彼と話すこと自体を主眼に置き始めた。  


 Yは申し訳程度に、自分の机を移動させる。 


「…Y君、じゃあさ、どうして下人は老婆の着物をはぎ取った 

のかな?」 


チキンカツサンドを取り出すのをやめたYが答える。 


「うーん…、守備範囲が広かったんじゃないの。」 

「…守備範囲…?」 

「いや、むしろ、激セマかも」 

 

「…」 


 相変わらず、彼女は彼の言っていることを理解できなかった。 

しかし彼のその風貌や声を、正面から感じられるのは 

こんな時ぐらいしかない。 

Yの隣は、ただ、そう思っていた。 


「老婆はその後さ、どうなったと思うかな。」 


「…その後? まぁ、虫もうどん好きって言葉もあるし 

年の差婚とかやらかしとるかもしれん。」 


「…年の差婚…?」  

 まったく予想していなかった言葉が出てきた。


「…やっべ、なんか思い出してきた…」 

「あはははっ なにそれ。ほんっと面白いなぁーY君は、」  

「いや…全然、笑いごとじゃないんだわ、これが。」 


 Yは、彼の隣が自分を観る目線が、やや異様であることに 

気付くことはない。 

 彼は、遅ればせながら、教科書を探して、発見した。 

そしてそれを読み始めた。 


「あーーー、ごめん、今教科書始めたわ、現代文だよね?」 


「ええ! 今から、なの?」 


 彼女は、今までのYと自分とのやり取りを、Yが教科書を読まずに 

行っていたことに気付かなかった。 

でも彼女にとって、そんなことはどうでも良かった。 


「それでさ、最後、下人はどうなったと思う?」 


「ぅーん… 最後の方だよなぁ…」  

「ちょっと、難しい…よね。」  


「…」 

「…」

 

「やっぱ、自分の全裸を、見せつけてるよな、これ」 


「ぇえ!? そ、そうかな…これ?」 


 Yの隣は困惑していた。 

 何かが食い違い始めている。 


「で、おまけに少女にフルチn…じゃない、裸体開示でしょ? 

これはアレだな…流石に…」 


「な、なnなにを言ってるのか..な…?」  


「でもさ、これ、少女は別に赤面してない。 てことで

アレを見慣れているってことでいいと思う。」 

 

「…Y君 さっきから、一体…?」

  

「ん? やっぱ女子ってみんな、被ってるとダメなの?アレ」 

Yはハラスメントになりかねない発言を、表情を変えず行う。 


「っあお… そ、それって、どうゆう…」 

 

 Yの隣は、Yの変わらない表情に吸い込まれそうになった。 

 

 彼女を引き戻す様に、声がかかる。 


「…あのさ、こっちでも、考えてみたからさ、一緒に 

プリントやらない?」 


「…ぇ」 

 

「…大丈夫?」 


「!! だい、大丈夫。ありがと、一緒にやった方がいいもんね。 

はあははh、」  


 Yの隣は、すぐさまYを一瞥したが、Yは既に漫画を読み始めていた。 


 これ以上は… そうYの隣は思った。  

 



「はいはい、そろそろ時間ですね、席を戻してください。」

 

 グループ討議は終わった。 


 授業の残り時間で、各グループ1人ずつ、簡単に感想を述べるように 

現代文の教員は指顧する。 


「それでは…後ろの席の方からにしようかしら。 

ぁーじゃあ…、Y君。 感想をお願いしますね。」 


 こういうときに限って、Yは指名される。 


「…え。 感想ですか。」 

「ええ、そう。今日のディスカッションの感想をお願いします。」 


「…わかりました。」 

 

 現代文の教員のくせして、ディスカッションとか言ってんじゃねーよ 

とYは思った。 

 

 Yは立ち上がり、感想を述べる。 


 例によって無駄に通る声であった。 


 


「なぜ最後メロスが全裸なのか 不思議に思いました。以上です。」 


「……え…っ...?」  


「……?…」 


 現代文の教員は、停止した。


 教室全体が 一体どうすれば良いのか逡巡するような  

とにかく異質な雰囲気となる。 




 

 

 Yが遅れて読み始めたのは、なぜか中学のときの国語の教科書だった。 







 


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