18.王都への旅路②
更に一ヶ月くらいが経った。
このペースなら王都まであと一ヶ月と少し、レベル上げもあと二週間程度でレベル8というところだ。
召喚士はレベル上がるの遅いけど、こうして次のレベルまでの日数を具体的に計算できるのは利点だと思う。
レベル上がるの遅いけど。
お金を稼ぐのも順調に進んでいるが、そろそろアカデミーで学ぶための学費を溜める時期に差し掛かっている。
なので賦活化装備の購入はお休みだ。
馬車を購入した減価償却も残ってるし、まだまだ頑張らないとな。
俺たちが今いるのは、関所街トリスグランデである。
王都から数えて南に二つ目の関所街であるこの街は、エルザさんとリリーちゃんの故郷だ。
なので俺たちはここに着いて真っ先に彼女たちを訪ね、エルザさんの旦那さんであるジダンさんにも挨拶をした。
その時にお礼ってことで甲虫銀という特殊な金属を使った槍をいただいたのだが、どうやらこの甲虫銀は魔法触媒と相性が良い物なのだそうだ。
鍛冶師である彼によると、大きな街には「賦活屋」という店があって、自分の装備を「賦活化(アクティベーション)」することができるらしい。
せっかく王都に行くのだから王都の由緒正しい「賦活屋」に依頼してみてはどうかと勧められ、俺はそれを二つ返事で受けて彼の言う由緒正しい店を紹介してもらうことになった。
……まあ、お金や冒険者としての評価につながる魔晶石を使う割に、ほとんど博打だってのは分かってるけどね。
だって装備の賦活化によるステータスの付与って、結果はランダムらしいし。
けど逆に言えば、良い方にも揺らぎがあると言うことだ。
偶然めっちゃいい装備ができるとか、夢が広がっていいじゃないか。
付与されたステータスがしょぼかっても単純に今の装備の換えとして使えばいいし(そもそもの品質からして俺が使ってる槍をはるかに上回ってる業物なのだ)、良いステータスが付与できたら、篭手と指輪の賦活化装備を外してでも使えばいい。
もらい物ってのはこういう気楽な考え方ができるからいいよな。
自分のだったらこんな博打しようと思ったら結構な決断が必要になると思うし。
ところでこの甲虫銀だが、見た目の光沢通りそこそこ値の張るものらしい。
ジダンさん自身が鍛冶師なので素材代だけとは言え、少し申し訳ない気もする。
野盗の財宝から薬代とかちゃんと差っ引いてたしな。
それでも「妻と娘が元気な顔で戻って来れたのはあんたのおかげだ」と言って頑なに代金を受け取ろうとしないジダンさんに、自分が為したことをようやく少し自覚できた気がした。
案外、こうして第三者から言われないと気付けないこともたくさんあるものである。
さて、そう言うわけで、俺はこのトリスグランデ(の近くの森)にて討伐クエストの真っ最中である。
目的はもちろん魔晶石で、自分の装備の賦活化のため、まとまった数を得ようとしているのだ。
「レイ、次は東方向に頼む」
「了解」
ジュリアスの指示に従い、クロウを東に飛ばす。
前から少しずつ彼らにクエスト消化を手伝ってもらっているので連携に淀みは無い。
俺がクロウで広域を探り、近場の警戒と戦闘はジュリアスたち本業の戦士に任せる。そして獲物を発見すれば、クロウを囮にしてタコ殴りと言うのが俺たちの戦法であった。
「しかしやっぱり、レイの召喚術は便利だよね」
「そうね。それは認めるわ。強くはないけど」
ジュリアスとベルナデットが気楽そうに会話している。
人が集中してるのに良いご身分だが、彼らの言う通り召喚術が便利な能力なのは確かだ。
複数のことができると言うのは何よりも強みだし、術者の負担を考慮しなければ、複数展開して疑似的な人海戦術も可能だからな。特に索敵のように戦闘力があまり必要でない仕事は十二分にこなすことができるし。
そしてこの索敵と言うのが、冒険者たちにとって意外なほど精神的疲労を感じさせるものらしい。ジュリアスたちは気を抜き過ぎな気もするが、常に気を張らずに済むというのは殊の外喜ばれるのだ。
そりゃまあ、大人数のパーティならともかく、斥候がひとりいたとして周囲全域を均等に調べることなんてできやしないもんな。ジュリアスたち以外ともクエストをこなしたことはあるが、全員共通して重宝がってくれたものである。
と、ここまで召喚術の利点をあげてきたが、もちろんリスクやデメリットも存在している。
リスクとしてはまず、召喚魔がダメージを受けた時の術者へのフィードバックだろう。
特に召喚魔が死んだときのフィードバックは言葉にできない違和感と言うか、気持ち悪さがある。俺も討伐依頼で散々クロウを死なせてるが、あんまり慣れるものでもないんだこれが。
まぁあの気持ちの悪ささえ慣れてしまえば、クロウみたいに消費の少ない召喚魔は良い壁になる。召喚魔の死は疑似的なもので送還と言う形で元の世界に戻されるのだが、この送還時に空間が歪むのか、物理干渉ができない力場が形成されるのだ。
そう大した力場ではないのだが、実はオオイノシシの突進を一瞬止めるくらいはやってのけた実績がある。ある時などわざとクロウを対消滅させて力場を作ってコカトリスの毒羽の弾幕を防いだこともあるし、見事なチャンプブロッカーぶりだと言えるだろう。
もちろん、その時は死亡ダメージのフィードバックが二重に襲い掛かってきて、ものの見事に気絶したんだが……。
もう一つのリスクとしては、複数展開した時の術者の精神的負担だ。
単純に頭に入ってくる情報量が増大するため、脳内で情報を処理できなければ混乱するだけになってしまう。
ただ、俺の場合これは意外と問題になってなかったりする。これは恐らく、サブスキルの「○○学」の効果にある思考能力微増が関わってきているのだと思う。
余裕があれば、この辺のサブスキルのレベルを上げて検証してみても良いかもしれないな。
そして最後にデメリットだが、色々とあるとは思うが総括して言うと「召喚士のレベルが低い」と言うことになるだろう。
俺が今まさに苦しめられている、召喚士クラスのレベルの上がりにくさが問題なのだ。
レベルが低ければ当然ステータスは低い。ひいては耐久力も召喚術の使用回数も、当然戦闘力も期待できない。やれることの種類は多いが、役に立つ回数は限られる。厳しい討伐クエストにも連れて行きづらい。
いかに色々なことができる利点があっても、これでは台無しだ。
実際に召喚術(召喚士)が用いられるのは、大きな同盟が大規模な討伐クエストを行う際に、行えることの穴を埋めたい時くらいだろうか。
総じて冒険者から見た召喚士の印象は「使いづらい」になるそうだ。
世知辛いものである。
「見つけた。オナガヒフキリュウだな。体長三メートル、木の実を食ってる。距離は三百、傾斜あり、急斜面無し」
「直進して行けそうだね」
「ああ。問題無いと思う」
「周囲は?」
「平地だな。木が結構生えてるから奇襲はできる」
俺の回答を聞き、ジュリアスが「よし」と声をあげる。
このパーティのリーダーである彼の言葉を皮切りに、俺たちは移動を開始した。
そして俺たちはこの日、オナガヒフキリュウを含めた十匹の魔物を仕留め、そこそこの量の魔晶石を手に入れることができたのであった。
■ □ ■ □ ■ □
「あ、レベル上がった」
「おや、おめでとう」
王都まで残すところあと一週間というところで俺のレベルが9へと上がった。
かなりハイペースのレベルアップだが、これはレベル8の時に魔法軽減がレベル4に上がり、魔法の消費魔力が四割減、つまり消費魔力1ポイントでクロウが召喚できるようになったのが大きいだろう。
まあ単純計算で倍のスピードだからな。
問題は毎日「クルッポー」を何十回も聞く羽目になることだが、レベルが上がるなら我慢できると言うものである。
ちなみに現在のステータスは以下の通りだ。
====================
■名前:レイモンド
年齢:十五歳
性別:男
レベル:7 → 9
体力 :48 → 57
魔力 :40(+3) → 70(+3)
力 :13 → 14
防御 :10 → 12
速さ :8 → 9
クラス:召喚士
アビリティ:学識
メインスキル:召喚ランク1【クロウ】ランク2【ピクシー】
サブスキル:狩猟学レベル1/3、薬学レベル1/3、
生物学レベル1/5、魔法軽減レベル★
適正スキル:魔力増強、目利き
装備:皮の篭手(右手、魔力+1)、真鍮の指輪(左手、魔力+1)、銀のサークレット(頭、魔力+1)
次回レベルアップまでに必要な経験値: 0/1500
経験値取得条件:召喚回数×召喚ランク
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……もう正直、魔力以外のステータスがまともに伸びないのは諦めた。
召喚士クラスってそう言うもんなんだろう。
逆に言えば魔力は伸びているので、クラススキルとして覚えられる召喚で良いのを引けばいいんだと考えることにする。
実際、現時点でもピクシーを九体まで召喚できるし、あいつら装甲は紙だけどレベル10相当の魔法使いだからな。それが九人と考えれば相当なもの……と考えることもできるだろう。
俺自身の成長に関してはこんなところだ。
他に進捗のあったトピックと言えば虫銀槍(甲中銀製の槍の名前)の賦活化と、魔法薬に関する情報収集だろう。
虫銀槍の賦活化については、魔晶石は集まったがせっかくだから王都の賦活屋でやろうと言うことになって保留中である。
魔法薬になりそうな素材の探索も、一応それらしいものは見つかったが、質はだいぶ低い。一般的に魔法薬に使われている月光草と比べると雲泥の差なのである。代替薬を新作するとしても苦労することになるだろうな。まあ、やりがいがあると言えばそうだけど。
ああ、あと学費稼ぎがあったか。
カティアさんファミーネさんコンビと三人がかりで素材採取を行い、これまた三人がかりで薬を作って売りまくり、一応「学費」は溜まっている。
ただ住む場所とかの初期投資を考えるともう一息というところか。
ちなみに王都でどうするかと言うことについては、俺とカティアさんとファミーネさんで共同生活をすることが決定している。
正直あまり外聞が良くないので気が進まない部分もあるが、人の多い王都で彼女たちを保護するには必要なことだとも考えている。相手によってはかなり重度の男性恐怖症を発症する二人にとって、安心できる場所があり、かつそこがちゃんと男手で守られているというのは重要なことだろう。
上手く部屋をセパレートすれば、男女間の問題も起きにくいだろうしな。
ちなみに、これは俺にとってもメリットがある。
まず二人は成り行き上の保護対象ではあるが、今では重要な仕事仲間だ。近くにいると言うことに意味はある。
それに食費の一部を免除することを条件に、家事を引き受けてもらえることになったのだ。
これから学業に精を出す予定の俺にとって、女性の手でしっかりと家事が行われた家に住めると言うのは魅力的だった。
たぶん俺のことだからどんどん家事さぼり始めると思うしな(前世でもそうだった)。
あとは複数人で住む名目で広めの借家を借りれるから、調合室、なんてのも作れるかもしれない。
下心?
無いとは言い切れないが、トラウマ持ってる女性に劣情をぶつけれるほど俺は鬼畜じゃない。ラッキースケベはあるかもしれないが、自制はできる自信はある。馬車での旅で野宿とかしてても問題無いわけだし。
「レイ、次の街が見えて来たよ」
「お、そうみたいだな。荷台のファミーネさんたちを起こしてくる」
御者台に座っていた俺は、手綱を握るジュリアスを残して馬車の縁を伝って荷台へと向かった。
人前に出ることになるから、荷台で寝ている女性陣を起こしてあげないとな。
まあ女性の中に一人、男性執事さんが混じってるんだけど。馬車を動かし始める時に悲しげな顔で荷台に向かった彼もさっさと助けてあげなければなるまい。
俺たちはその後街に入り、いつものように行商とクエストをこなした。
そしてそれを数回繰り返して、遂には王都にたどり着くのであった。




