16.帰還と再会
「はーっ、やっとついた……」
重い荷物を引きずり、足取りも重く俺たちは街へとたどり着いた。
とても長い戦いだった。
食料とかはともかく、野盗のお宝の重さで予想以上に体力が取られ、本来一日ちょっとの道のりを三日もかけることになってしまったのだ。
しかし、街に着いたのならこの超過重量ともおさらばだな。
さっさと換金しに行こう。
「あ、でもその前にギルド行かないと……」
「ええっ、宿に行かないんですかぁっ!」
アーニャ、俺もそうしたいのはやまやまだ。そして休みたい。
だがまずはギルド、そして換金所に行かなけばならないんだ。
換金はもちろんお金に換えるためだが、ギルドに行くのは野盗討伐のクエストが出ていないかを確認するためだ。
この野盗討伐クエストが結構曲者で、とある制度が絡んで見逃すとえらい目遭う羽目になる。
「アーニャの家って商業保険って掛けてなかったのか?」
「さあ……私も勉強はしてましたけど、そこまで詳しくは知らないです」
「その保険の、遺族補償の項目のひとつに略奪者財産の返還があるんだよ。商業保険経由で出されたクエストってこれが関係してくるから、見逃すと勝手にクエスト未達成になって罰則を食らう羽目になるんだ」
うん、俺も言ってて今一つ理解してないんだけどな。
契約書とかってどうしてこう難しい言葉遣いにしたがるのか。
商業保険は名の通り、商人が加入できる保険だ。
野盗とか災害とかで財産を失った場合、掛け金に応じてお金が下りる。そしてそれを使って再起を図る、という寸法である。
加入者が死ぬと遺族にそのお金が支払われるが、討伐クエストの発行に換えることもできる。そのクエストの達成条件に「お宝から何割は遺族に返金」と書かれているのである。(「何割」の部分は掛け金に依るらしい)
これを無視して財宝を独り占めし、それをお金に換えたりして使ってしまうと「故意にクエストが達成できなくなるようにした」と見なされ、ギルドの罰則規定に引っかかるのである。
制度上の初見殺しみたいな感じだな。
「へえ……なんかややこしいですねぇ」
「ややこしいんだよ。対応ミスると俺がヤバいんだ。悪いけど着いて来て証人になってくれ」
「やだなあもう。歩きたくないですよぉ」
「他のみんなは黙って着いて来てるんだから文句言うなよ」
「みんなは疲れ果ててるだけですぅー。話さないんじゃなくて、話せないんですぅー」
うぜぇ。
口をつきだした表情が至極むかついたのでアイアンクローを掛けると、アーニャは「ぐぎゃあ」とか言う乙女らしからぬうめき声を上げた。
……こんなやり取りができるあたり、こいつとも結構打ち解けたなぁ。他の皆も似たようなもんだけど、それくらいこの二週間ほどの付き合いが濃い日々だったってことだな。
そんな感じに俺が(アイアンクローを掛けたまま)感傷に浸っていると、後ろからカティアが割り込んできた。
「ふたりとも元気ですねえ。元気ならアタシの荷物も持ってほしいんですけどねえ。どうなんですかねぇ」
怖い作り笑顔やめて。分かったって先進めばいいんだろ?
立ち止まってすまんかった。
「カ、カティアちゃん、やめなって」
仲裁に来てくれたファミーネさんの声にも力が無いし、カティアさんも色濃い疲労が顔に出ている。
なんでこんなアホなやり取りをしたんだと(主に俺とアーニャが)後悔しつつ、俺たちはギルドへと向かった。
■ □ ■ □ ■ □
「野盗を退治されたんですか」
ギルドの受付で俺は経緯を説明し、討伐クエストが出ていないか確認をお願いする。
野盗団の名前とかは分からなかったので、アーニャとエルザさんたちが襲われた時期や、カティアさんたちが誘拐された時期からの検索である。
「少し時間が掛かります。お掛けになってお待ちください」
「分かりました。ありがとうございます」
言われた通り、俺たちは談話スペースに移動して荷物を下ろし、椅子に腰かけた。
荷物が無いと体が軽い。もうこれだけで生き返る気持ちだ。
「あー、よっこいしょ」
「アーニャ、おっさんみたいな声出すなよ」
疲れてるから仕方ないけどな。俺も言いそうになっていたのは秘密である。
「それにしても、もうみなさんと生活を共にするのも終わりなんですね」
うーん、と伸びをしたあと、アーニャがしみじみしたように言った。
確かにわずか二週間くらいのことだけど、ホントに色々あった。
助けられた彼女たちもそうだろうし、俺なんか素材採取から今に至っているのだ。アジトでの生活なんて完全に非日常だったしな。(冒険者でもあんなところで十日も生活しない)
「でもまあ、換金とか分配とかあるからもう二、三日は一緒だろ」
「そうですけどね……」
「そう言えば、アーニャさんとエルザさんたちは馬車で故郷に帰るって話だったっけ?」
アジトで少しそう言う話もした。
彼女ら三人は分配金で乗り合い馬車に乗り、アーニャは王都へ、エルザさんたちはトリスグランデに向かうとのことだ。俺は相変わらず徒歩で売り歩きつつの旅だから、別行動になる。
「カティアさんとファミーネさんにはどうするか聞いて無かったと思うんだけど、どうするの?」
前にこの話が出た時に保留してたのがこの二人だ。
たぶん二人の生家のある村には乗り合い馬車なんてものは出てないだろうし、俺は行商の馬車に乗せてもらうのをおすすめしておいたんだが……。
「実は……そのことでレイさんにお願いがあるんです」
一度ファミーネさんと顔を見合わせた後、カティアさんが決然とした表情でそう言った。
カティアさんは見た目が紫色の髪のショートカットで、普段からクールなお姉さんと言った感じなのだが、初めて見る真剣な表情だった。
これは真面目な話か。ならちゃんと聞かねばなるまい。
しかし、俺がそう思ったのも束の間。
彼女たちが次の言葉を発する前に、後ろから誰かに声を掛けられた。
「やあ、レイじゃないか。久しぶりだね」
この軽い感じ、デジャブを感じるな。
振り返ると、案の定というかなんというか、そこにはジュリアス一行が立っていた。
ジュリアスはツィーダのギルドで出会った貴族の青年で、俺のことを買い被っているフシがある人物だ。
王都で会おうとか言って先にツィーダを旅立ったはずから、ここで会うとは思っていなかったな。
「久しぶり。まだこの辺にいたんだな。あんたはもっと先に進んでると思ってたんだが」
「うん、先には進んだんだけどね。クエストの関係で、ってやつさ」
「ふーん」
運搬とか護衛とかかな。いや、わざわざ戻って来るとなると採取系のセンが濃厚か。
まあなんにせよ、そうして戻ってきたジュリアスたちと街にたどり着いた俺たちが出会うとは、凄い偶然である。
最初に声を掛けられて以来さほど関わりは持てなかった(持もとうとしていなかった)が、意外な縁もあるものだ。
「それにしても……なんだか大所帯になってるね」
「ん? ああ彼女たちはだな……」
俺はちらりとアーニャたちの方に視線を向け、頷きが帰って来るのを確認した後におおざっぱな説明を始めた。
ジュリアスたちの方もかなりボカした説明になんとなく理由を察してくれたようだ。
特に追求は無く、みんなも少しホッとした顔をしている。
「じゃあ彼女たちはこれから故郷に帰るのかい?」
「そうだな。一応そう言う予定だ。でもまずは、野盗のお宝の分配だな」
ちょうどその時に受付から声が掛かったので、俺はみんなをその場において手続きへと向かった。
受付に行くとやはり討伐クエストが出ていたらしい。
そして野盗の財産からの遺族補償金額を算出するために、持ち帰った財宝を一度ギルドで預からせて欲しいとのことだ。
そう言うわけで、図らずも俺たちは重い荷物をギルドに預けることができた。
一つ予定を繰り上げて、次は今宵の宿探しだな。俺たちは荷物をまとめ(かなり少なくなったが採取した薬草類がまだ結構ある)、ギルドを出た。
なぜかジュリアスたちもついて来たので一緒に飯でもどうかと誘うと、嬉しそうな顔で承諾が返ってきた。
「そう言えば、カティアさんから話があるみたいだよ?」
歩きながら、ジュリアスが話しかけてくる。
俺が手続きでいない間にそう言う話まで聞いていたらしい。
カティアさんがそんなことを言いかけた時にジュリアスたちが来たんだったな。
俺が後ろの(なぜか今二列縦隊みたいになって歩いている)カティアさんに視線を向けると、「宿に着いてから話します」と突っぱねられた。
大事な話っぽかったから話しながらはダメか。彼女にしたら何回も話しそびれることになったわけだし、埋め合わせに甘いものでも奢りつつ話を聞くことにしよう。
その後俺たちは街の大通りを少し進み、いくつか宿を物色して食事処兼宿屋の「大樹の空穴亭」に泊まることに決めたのであった。
■ □ ■ □ ■ □
「それで、話ってなんだったんだ? 聞かせてもらえるか?」
宿屋で荷物を置き食事を終えた後、俺は甘味(餅のような団子に黒蜜がかかったもの)を人数分注文しつつそう切り出した。
「そうですね。ファミーネもいい?」
「大丈夫だよ」
隣に座ったファミーネさんに視線を向け、カティアさんが改まった様子で俺に向き直る。
「実は、私たちの今後のことについて、レイさんにお願いがあるんです」
そうだ。さっきも同じように言っていたのを思い出す。
アーニャとエルザさん親子が故郷に帰ると言う話をした後に二人に話を振ったんだった。
「この後他の三人は馬車を使って故郷に向かうようですが、私たち二人はレイさんの旅に同行させてほしいんです」
「俺の? 故郷には帰らないのか?」
「いつかは……帰ろうとは考えていますが、私たちは半年以上もあそこにいましたから……。居場所が無かったり、好奇の視線にさらされる可能性を考えると、今戻ることが最善だとは思えないんです」
なるほど。彼女の言い分は納得できる。
居場所がないかどうかは分からないが、少なくとも好奇の視線には曝されるだろう。
そしてアーニャやエルザさん親子と違うのは、彼女らが帰るのは村社会であるということだ。
俺も元村人だから分かるが、村と言うのは小さな社会だ。
そしてその枠から抜け出すことは非常に難しい。
つまりもし彼女らが好奇の視線に曝され、それを耐えがたく思ってたとしも、そこそこ裕福な商家の娘であるアーニャや手に職を持つ鍛冶師の妻子であるエルザさんたちと違い、逃げることすらかなわない可能性が高いのである。
「まだ、恐怖症も克服してないしな……」
「はい。事情をよく知っていて、それを考慮してくれるレイさんの近くにいた方が良いと思ったんです。負担を掛けてばかりで、本当に悪いとは思うんですけど……」
「そっか……」
この二週間ほど彼女らと生活を共にして特に問題を起こさなかった実績もあるということだな。
ここまでの話を聞いて、今のところ俺に理屈の面で否定する理由は無い。
もちろん感情的には彼女らが不幸にならない方がせっかく助けた立場としては嬉しいので、理屈と感情と合わせて大賛成である。
さて。
となると、今後どうするべきだろうか。
俺は彼女らが同行することになっても旅をやめる気はない。
いっそ旅の目的に彼女らを巻き込んでしまうのがいいだろうか。
うん、それがいい。薬学とかを学んでもらって、手に職を付けてもらってって感じだな。
三人で分担すれば効率も上がるだろうし、ちょっと薬学の研究をしたいと思ってたんだ。魔法回復薬とか自力で作れたらレベル上げもはかどるだろうし。
「あ、あの……駄目でしょうか……」
そんな風に俺が考えを巡らせていると、ファミーネさんが若干涙目でおずおずと問いかけてきた。
「ああごめん。二人がついてくるのは俺も賛成だ。その方が良いと思う。俺だって元村人だからどんな感じになるか想像できるしな。それで……今はその先のことを考えてたんだ」
ちょっと先走り過ぎですね。すんません。
彼女たちは返事もそっちのけで計画を立て始めていた俺に目を丸くしていたが、その後すぐに表情を和らげて小さく笑みをこぼした。
「レイさんらしいね」
「だね。どんどん一人で決めちゃって進んでいく感じ」
彼女たちはあんまり否定的な意味では言っていないみたいだが、これは自省するべきてんだろうな。
一人で結論を付けて突っ走るのは俺の悪い癖みたいなものだ。実家を助けるためにレミリアさんの助言を無視した時も、結局彼女の助言通りにすることになったし、ちゃんと相談はするように心がけないと。
「それじゃあ、せっかくですからレイさんの考えた今後というのを聞いても良いですか」
「ああ、そうだな。二人は自分自身のことだから文句があったら何でも言ってくれ。じゃあまずは……」
俺は甘味をつつきながら、今思い付いただけの考えを口にしていく。
それをみんなで(なぜかジュリアスたちも混ざって)話し合い、相談しながらその日は更けていった。
ジュリアスは空気になりがち。なぜなのか




