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14.戦利品?たち

 森を歩きながら、少し冷静になる。

 

 野盗の「囲って」いた女を引き受けて、自分がどうするつもりなのか。

 アジトに女がいるとして、そこに見張りなんかの野盗の仲間がいたりしないのか。

 そう言ったことに意識が向かう。


 ……答えをすぐに出せるものでもないけどな。どちらも人の命が関わってきそうな重い内容だし。


「はぁ」


 思わずため息が出る。


 野盗の男の遺言に従う義務などないが、放っておくこともできない。

 なんで俺が。


 ついそう考えてしまう。

 こういう時はもうあれだな。なるようになれだ。

 その場に直面してみれば、何かしら考えも浮かぶだろう。事前にうだうだ思い悩むのは別に嫌いじゃないが、できたら旅の計画とか行商のこととか、そう言う実務的なことで悩むほうがいい。そっちのほうが楽しいからな。


 そうして俺は一旦思考を止める。

 背嚢をよいしょと背負い直し、仕切りなおして再び歩き始める。


「ねー、まだー?」

「……もう少しがんばろ?」

「もうつかれちゃったよー」


 すぐ後ろでピクシーたちが話している。

 こいつら浮遊持ってるから楽そうで良いな。


 ちなみにピクシー含め召喚魔たちは出したままだ。特にピクシーはまだ魔法の使える回数が残ってるから、出しっぱなしにも意味があるのだ。

 魔力は回復しないし、この辺はマンティコアの縄張りになっていたから他の魔物がいる可能性は低いだろうけど、まったくゼロでもないから用心は続けるべきだろう。


「あっ、ちょうちょ!」

「いっちゃダメだってばー」


 ピクシーたちのやり取りは見ていて微笑ましいが、戦いの気配が薄れたからと言ってあんまりちょろちょろするのはやめていただきたい。気が抜けるんだよ。


「こら、ふらふらするなよ」

「むー」


 俺がうるさい方の襟首をひっつかんで引き戻し、静かな方はほっとした表情になっている。

 こっちの静かな方は召喚魔としての職業意識があるようだな。

 戦いが終わっても神妙な顔で俺の横をついて来てたし。


「おっと目印だ」


 野盗の男の言っていた目印を見つけ、次に行く方角を確認する。

 アジトへの行き方は今際のきわに早口でまくし立てられたのだが、割と正確な情報をしゃべっていたようだ。死んじまったが、これも火事場の馬鹿力って言うのかね。


 まあ最悪情報が間違っていたとしても、クロウを散開させて人の気配を探れば問題ないんだが。


 その後も興味に惹かれてうろうろするうるさい方をたしなめながら俺たちは森を進んだ。




 ■ □ ■ □ ■ □




「う……これは……」


 野盗がアジトとして使っていた場所にたどり着いた俺は、そこに見張りがいないことを確認して侵入し、むごたらしい光景を目の当たりにすることになった。


 そこに転がされていた女性は五人。

 それぞれ状態は違うが、うち二人はかなり酷い状態だ。


 打撲やすり傷など暴行の痕跡もそうだが、梅毒にでもやられているのか皮膚の発疹が酷い。しかももはや用済み寸前ということなのか手足を縛られている。


「とりあえず、手を尽くそう」


 こうした場面に直面して初めて、薬学の知識を得て良かったと実感した。

 途方にくれずに済むし、少なくとも治療を施したと胸を張れるからな。ちょっと自分のことしか考えて無くて嫌な考え方だとは思うけど。


「君たちは大丈夫? あと水場が分かるなら教えて欲しいんだけど」

「ひっ……は、はい……」


 俺は縛られていた二人の縄を解きながら、まだ状態の良い三人に声を掛ける。

 少し身綺麗な少女と……その向こうで抱き合ってるのはたぶん親子だな。

 三人には案の定というかすさまじく怯えられたが、俺の害意が無いことを感じとってか、すぐ水場の場所を教えてくれた。

 近くて何より。


「とりあえず、君らにも簡易ポーションと……あと水下・・し」


 俺は薬箱を広げて、三人にも応急の薬を手渡した。

 ポーションは用途が分かりやすいが、水下しの方は、少女と親子連れの娘には伝わらなかったようで首を傾げている。親御さんには無言で頭を下げられた。


 水下しはまあ、あれだ。直截ちょくさいに言うと堕胎薬だ。

 薬屋で修行していた時に「村を回るならこれが良く売れる」と言われて、すこしストックを作っていたのだ。

 なんで村を回る時に良く売れるかって? そりゃ娯楽が少ないからだよ。

 当店ではついでに避妊薬も取り扱っております。


 そんなに安い薬でもないのだが、そこは後で野盗たちのお宝を売っぱらって、補填ほてんさせてもらうことにするとしよう。


 その後しばらくかけて、俺は二人の女性に治療を施した。

 まあ医者じゃないので薬屋で聞きかじった知識からの行動だけど、使ってる薬は本物だ。結構うまくいったと思う。


 外傷やら発疹などの目に見える症状は、遺跡付近の群生地で手に入れた薬草でまともな低級ポーションを作成して飲ませ、かなり良くなった。

 梅毒なんかの感染性のやつに対する薬も飲ませたからそれも問題無し。

 過酷な生活環境でダメージを負った内臓系はすぐにはどうしようもないが、旅の道中集めに集めた花の蜜(苦い薬にまぜて売るつもりだった)を溶いた穀物のおかゆでひとごこちついた、と言うところだ。


「う……ぁ……ありが、とう……」


 上体を起こせるくらいには回復した女性から涙ながらに礼を言われ、俺は何とも言えない気分になる。

 なにせこの後のこと全然何も考えてないからな。

 俺には彼女らの現在いまの辛さを紛らわせるだけで精いっぱいだよ。 


「君らも、一応感染症の薬飲んどいてよ」

「は、はい」


 俺はひとまずそこから目を逸らすことにして、応急処置に留めていた他の三人の再確認に移った。


「他に何かしんどいことない? 薬があれば出すよ」

「いえ、だ、大丈夫です」


 聞くところによるとこの少女も親子連れの方もここに来て数日らしい。怯えようから察するにひどい目にはあわされたようだが、精神的にはともかく肉体的ダメージが少ないのは良いことだ。

 俺も彼女らも森から出ないとといけないわけだし、それだけの体力は必ず必要になるんだからな。


「そっか。……じゃあ、俺は家探しに奥まで行ってくる。食料が残ってるなら欲しいし。君たちはあの二人のこと見といてもらっても良いか?」

「あっ、私、手伝います」


 少女が手伝いを申し出てくれたので、親子連れに看病を頼みつつ、俺は探索に向かうことにした。

 酷い状態だった女性二人の体力が戻るまで、多分このアジトで何日かは生活することになるだろう。食料以外にも物資が見つかればいいんだけど。


「そう言えば、キミ名前は? 俺はレイモンド。レイって呼ばれてる」

「わ、私はアーニャと言います」

「アーニャはどの辺の人なの?」

「私、王都から来ました」


 何となく雑談で聞いたのだが、俺の言葉に彼女の表情が一気に曇った。


「王都からお父さんとお母さんと旅の途中で……」


 地雷だったか。

 うつむいてポロポロ涙を流し始めたアーニャを見ると同情心が湧いてくるが、これからずっと気を使ってたらこっちの精神が持たなくなるのは目に見えている。無神経になっても傷が深くない今のうちに、こういうことは聞いておいた方が良いだろう。


「うっ、うっ……」


 でもまあ、悲しげに嗚咽を漏らしているのを聞くとやっぱり可哀想に思えてくるけどな。


「ところでこういう場所って、魔力を通すと光る石が露出してるのって知ってる? ほら」


 かなり無理やりだったが、話題を変えてみる。

 野盗のアジトは切り立った崖の下、岩壁がえぐれたところに木材で屋根と壁を作ったというものだ。当然壁の一部は岩壁がそのまま使われており、こういう場所には魔力を通すと光る反応石というものが含まれていると聞いたことがあった。


 実際にあるのかは確信があったわけではないが、手を当てて魔力を通してみると、本当に光を発する部分がある。

 薄暗い中、壁面に光の点が無数に浮かび上がって星空みたいだ。

 俺は乙女ではないがそれでもちょっと感動する光景だな。


「うわぁっ」


 アーニャもまた目尻に涙を溜めたまま驚きに目を見開いている。

 その瞬間涙がこぼれて頬を伝い落ち、俺はガラにも無く、涙が淡い光を反射して煌めく様を綺麗だと思った。


「こりゃすごいな。もしかしたら夜にやったらこの崖一面が光ったりするのかな?」

「どうなんでしょう。この場所って少し掘った感じになってますから、崖一面ってことは無いんじゃないでしょうか」

「なるほど、確かにそうか。この場所って崖が抉れた形してるしな。ここが崩落してできたのか野盗たちが掘ったのかは、分からないけど」


 反応石が自然露出することは無いという話だし、ここだけの光景ってことか。


 しかし、どうも彼女は中々聡い娘のようだ。観察力が優れていると言い換えても良い。

 「掘った感じ」と彼女は言ったが、少し壁面の岩石の具合が違うくらいで、パッと見では分かるようなものではない。良く気付いたものである。


「あ、食べ物がありますよ」

「良いね。凄い助かる。後は生活物資だな。お宝もあれば街に戻った時にお金に換えられるから探しときたいし」


 アーニャと一緒に、食べれる状態かどうかを確認していく。

 野盗どもはあんまりちゃんと管理してなかったようで、穀物の入った袋のいくつかはカビでダメになっていた。いやもしかしたらそう言うのも平気で食べてたのかもしれないけどな。この世界のカビは死ぬほど毒性の強いやついないみたいだし。


「あの、レイモンドさん」

「レイでいいよ。どうかした?」


 選別作業の最中、アーニャがおずおずといった感じで切り出してきた。


「レイさんって、どうして私たちを助けに来てくれたんですか? 私は今自分がどこに居るのかも分かってませんけど、少なくとも人が来るようなところじゃないことは分かります」


 偶然にしては出来過ぎてると思ったわけか。

 やっぱり聡い娘さんだ。気にせずにいてくれたら良かったんだけど。


 まあ、聞かれたからには答えないといけない。ちょっとショックを受けるかもだが、別に隠すようなことでもあるまいし。

 と思いつつも俺は回答を少しだけ先延ばしにする。


「そうだな。俺が何者かとかもまったく説明してなかったし、それは戻ってから皆にも説明するよ。今後のことも含めてね」


  いや突然聞かれてどう説明するかちょっと迷っちゃったんだよ。

 野盗があなたたちの世話を俺に頼んだとか、どんな言い回しで言えばいいんだ。その野盗たちに嬲られてた彼女たちに向かって。


 それに、今ここで話して、後からまた皆に説明とか面倒だしな。

 まとめられるならその方が良い。


 俺とアーニャはその後もしばらく食料の選別を続け、ろうそくとか毛布とかも回収しつつ、元いた部屋へと戻るのであった。


 

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