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暁の双翼  作者: 万卜人
第七章 ヘール村
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 ゲオルク、マリア兄妹に歓待され、一同は豪華な夕食を供され、さらには村の主だった人々に紹介された。

 一階の食堂には、ぎっちりと立錐の余地もないほど、来客で溢れ、村人は子供のような好奇心で、外の世界について質問を投げ掛ける。

 一人の若者が、おずおずと口を開いた。

「皆さん、どうやって、いらしたんです?」

 一行のリーダーとして、大公が質問の矢面に立った。

「車で……。ああ、車はここまで運べませんので、橋の袂に待たせてあります」

 村人は「ほう!」と顔を見合わせ、声を上げた。

「私たちにも、車に乗れますか?」

「練習すれば……」

 大公は、質問を投げ掛けた村人に微笑み返した。

「あなた、車を運転したいですかな?」

 問い返された村人は、照れたように頭を掻いた。

 大公は、素朴ともいえる村人の質問に、一つ一つ丁寧に答えていた。

 好敏は、段々と苛々が募ってきた。

 遂に好敏は、大公と村人の会話に割り込んだ。

「皆さん、一つ、お聞きしたいのは、この付近にある城跡についてです……。我々は城跡に向かうつもりなんです。何か、情報がありませんか?」

 好敏の言葉に、不意にその場が、しーんと静まり返った。好敏は、ゆっくりと全員の顔を見回す。

 村人たちは、好敏の視線を、避けるように目を伏せている。

「どうしたんです? この近くに古い城跡があるのは、判っている。何か、城跡について情報がないか、お聞きしたい」

 ゲオルクが、眉を顰め、ぼそぼそと好敏に向けて、口を開いた。

「あの城跡には、誰も立ち寄りません。不吉なんです! あなたがたも、あんまり興味を持たれないほうが、よろしいです」

「ふーむ……」

 大公が、自慢の口髭を捻り上げて、眉を上げた。

「それは実に興味深い……。不吉とは、どのような内容ですか? 何か、災いがあるのですかな?」

 村人たちは全員、むっつりと押し黙ってしまった。さっきまでの和気藹々とした雰囲気は、欠片も存在しなかった。こそこそと、お互いに目を交わし合い、どう説明しようか、責任を押し付け合っているようだった。

 固まった空気を解そうと、マリアが今、思いついたというように、声を上げる。

「まあ、こんな時間になってしまいましたわ! 御覧なさい、窓の外を! ほら、もう、すっかり夜は更けてしまいました!」

 マリアの言葉に、全員が救われたような表情になった。がやがやと立ち上がり、村人は口々に礼を言って、各々の家へと帰宅して行った。

「それでは皆さん、今夜も遅くなりましたので、御休み下さい。私たちは、一階で寝ますので、何かありましたら、お声をお掛け下さいまし」

 深々と頭を下げ、兄妹は引っ込んだ。好敏たちは、二階の客間に集まって、善後策を講じることにした。

 客間の卓に全員が顔を揃えると、熊蔵が口火を切った。

「この村は、偽物だ! 気がついたか?」

 カシムが「何を今さら」と腕を組み、椅子に深く腰掛けた。

「そんなの、一目ちらっと見た瞬間から、気付いていたさ。家の梁を見たろう! まるで昨日、建てられたばかりみたいに、まっさらだ! 壁だって、塗りたてみたいにピカピカしてやがる……。多分、大慌てに造られたんだろうよ!」

 熊蔵は皮肉に笑った。

「まだあるぞ! この村に来て、一度も目にしていない、ある重要な要素がある」

 熊蔵は、一同の気を引くように、ぐるりと視線を動かすと、口を開いた。

「それは、子供と老人だ! この村には、ただの一人も、赤ん坊、子供、老人がいない! 目にしたのは、二十代、三十代の若者ばかりだ」

 全員、熊蔵の言葉に「ああ!」と嘆声を上げた。

 好敏は熊蔵に尋ねた。

「若者だけしかいないとは、何を意味していると思うんだ?」

 熊蔵が何か言いかけ、口を開いた刹那、アドルフが、ぱんっ! と自分の額を叩いて、大声で叫んだ。

「軍人だからですよ! この村の全員、軍人なんだ! 軍人なら、文句も言わず、村人役もこなせますし、秘密保持も完璧だ!」

 全員が呆気に取られ、アドルフを見た。全員の注目を浴び、アドルフは得意そうだ。

 大公は唸り声を上げた。

「アドルフ! 悪い癖だぞ! 今の推測は、日野大尉が言い掛けたじゃないか!」

 大公の指摘に、アドルフは、しおしおと青菜に塩となって、項垂れた。上目遣いになって、熊蔵に謝罪する。

「御免なさい……。つい、思いつくと、言わずに済まなくなるんです……」

 熊蔵は不機嫌そうに肩を竦め、口を開いた。

「まあ、ヒトラー君の推測は、俺と同じだ。つまり、この村は、一種の軍事基地ともいえる。俺たちは、敵のど真ん中に、飛び込んでしまったのかも、しれない。用心せねば!」

 熊蔵の忠告に、一同は黙り込む。

 好敏は、いよいよ、敵地に来たんだな、と覚悟を決めていた。

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