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このシェルターの定員は1000人です。例外は認めません  作者: HATI


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第35話 毒を以て毒を制す

 実験は繰り返され、その度にミナがワクチンの調整を行った。

 その結果、次第に実験結果も変化していく。

 そしてついに、ワクチンがウィルスを完全に無効化することに成功した。


 ウィルスを完全に包み込んだ状態で一時間ほど経過したが、ワクチンが破壊されることはなかった。


「実験の第一段階は成功しました」

「……おぉ」


 ウィルスの無効化。

 人類の長年の希望がようやく叶ったシーンだった。


「これから、ワクチンをどう使うのかを決めないといけません。当初の案ではウィルスを除去するために地上全体に散布するという案があったのですが、デルタシェルターの力を借りたととしてもそれだけの量を製造するのは残念ながら不可能です」

「それに地上に人がいなくなった今、あんまり意味はなさそうだな」

「ですね。なので人体に投与するための調整をしていきます。現状のまま投与するとほぼ確実に副反応か拒絶反応が出ると思うので」


 ワクチンに関してはさっぱり分からないのでミナに任せるしかない。

 俺としては一刻も早く完成したらいいなという感想しかなかった。


 いよいよ大詰めを迎える。

 抗ウイルス剤があとわずかになった日の朝、ミナの叫ぶような声で目が覚めた。

 慌ててミナが部屋に駆け込んでくる。


「カイトさん、実験室に来てください!」


 ただならぬ様子に、まだうとうとしていた気分は一瞬で消え去りミナと一緒に実験室に移動する。

 人体に投与するために必要な調整が丁度終わると聞いていたのだが……。


「顕微鏡を見て下さい……」


 言われるがままに覗き込む。

 すると、完全に封じ込めていたはずのワクチンが破壊され、ウィルスが動き回っていた。

 長い時間身動き一つとれなかったというのに、機敏に動き回っている。


「どういうことだ? ワクチンは完全に効いてたんじゃないのか?」

「そのはずでした。多分ですが、ワクチンに封じ込められていた間に世代交代を行ってワクチンを突破できる個体を生み出したんだと思います」

「じゃあ、ワクチンは効かないってことなの……か?」


 信じられなかった。

 実験が失敗したというよりも、ウィルスの成長速度に舌を巻く。

 長年人類が克服できなかったのは伊達ではないということか。

 あまりの出来事に足から力が抜けそうになった。


「なんとかできないのか?」

「できます。できますが……、ワクチンの効果をこれ以上強くすると人体の負担が強くなってしまって安全性が担保できません」

「やるしかないだろう。もう抗ウィルス剤もなくなる」


 デルタシェルターだって無限に用意できるわけではない。

 もしかしたら行っても分けてはくれない可能性もあった。

 なので、ここで決める必要がある。


「ミナ。とにかく、なんとかできるならそれをやってくれ」

「……分かりました」


 ミナが端末に何かを打ち込む。

 そして新しいワクチンが製造される。

 そのワクチンは今までのものとは違い、形も攻撃的だった。

 進化したウィルスに衝突し、二度と動かぬように破壊するために攻撃する。


「これなら、確実にウィルスを除去できるはずです。その代わり、負担は本当に大きくなります。毒を飲んで体内の毒を追い出すようなものですから」

「それでも喉から手が出るほど欲しがって死んでいった人はたくさんいたはずだ。死ぬよりはマシな選択肢だよ」


 そして、バイオリアクターからガラス容器に包まれた少量の液体が排出される。

 ミナはそれを手に取ると、天井の明かりにかざす。


「完成しました。これがワクチンです。ラボラトリーシェルターの悲願でもあり、人類の希望です」

「そうか。ここまで来た甲斐があったな」


 ワクチンは全部で三つ用意された。


「ここの設備と資材では大量生産はできません。大量に用意するならデルタシェルターの協力が必要です」

「設計図と本物があれば、デルタならすぐに複製できるだろう。……これを打てばいいのか?」

「はい。私が打ちます」


 ミナはアルコールを染み込ませたガーゼで俺の左肩を拭うと、注射器の先をワクチンの容器に突き刺す。

 そして中身を吸い出した。

 空気を追い出すために少しだけ中身を排出する。


「念のため、これを嚙んでください」


 ミナにタオルを噛まされた。

 痛みを我慢する時に用いられるやり方だ。

 負担が大きいと言っていたが、それほどなのか。


 緊張してきたが、同時になぜかワクワクもしてきた。

 初めてウィルスを克服した人類になるかもしれない。

 その事実に期待が膨らむ。


「目を瞑って、両手を握って下さい。いきます」


 チクリとした痛みを左肩に感じる。

 注射器が刺されたのだろう。

 中身が注ぎこまれたはずだが、体感では何も分からない。


 少し待ってみたが何も起こらなかった。

 タオルを外してミナに声を掛けようと思った瞬間、左肩を中心に肉が裂かれそうなほどの痛みが走った。

 タオルを噛みしめ、両手を全力で握りしめる。


「カイトさん、我慢してください。痛み止めはワクチンの効果を阻害する可能性があります。一時間もすれば反応も収まるはずです」


 一時間!?

 この痛みが一時間も続くなんて信じられない。

 食いしばっているせいで頭に血が上るのを感じる。

 痛む部分を掻きむしりたい。

 なんとか目を開けて、痛む患部を見る。

 すると、点滅するかのように赤い筋のようなものが浮かんでは消えていく。

 きっとワクチンがウィルスを攻撃しているのだろう。


「カイトさん! しっかりしてください!」


 ……より強い痛みが襲ってきた瞬間、意識を保てずに俺は気絶した。




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