第28話 開かずの間
ラボラトリーシェルターを初めて見た感想は、手狭だなと思った。
恐らく数十人程度が生活することを想定していたんじゃないだろうか?
デルタシェルターが巨大だった、というのもあると思うけど……。
元々ウィルスの研究者とその家族がシェルターに避難しても研究を続けられるように建設されたと聞く。
そこまで大量のキャパシティは必要じゃなかったのかもしれない。
それと機能重視の設計だ。
デルタシェルターのような冗長性は感じられない。
必要な物だけを、必要な分だけ。
上を見上げてもただの灰色の天井があるのみ。
……研究者同士がお互いを敵視して殺し合いになってしまったというが、きっと過剰なストレスに苛まれていたんじゃないかと思う。
だから一線を越えてしまったのかもしれない。
人類を助けるというもの凄い重圧もあったみたいだし。
ここの管理AIがどうだったかは分からないが、デルタシェルターで教わったことを考えるとこの造りだときっとそうなる。
ミナと俺の二人でもどうにも狭く感じるのだ。
フルメンバーだったなら、常に他人を意識することになっていたに違いない。
……まあいい。終わったことだ。
ミナに言った通り、まずは井戸水のくみ上げ装置を確認する。
どうやらポンプの調子が悪いみたいだな。
調べてみたが、どうやら中が真空になっていないようだ。
原因は水を吸い上げるホースが水源に達していなかったことだろう。
ポンプで水をくみ上げるなら基本的なことなのだが、それすら行き届いてないということか。
ホースを伸ばして、改めてポンプを起動させる。
最初はホース内に残った空気を吸い上げていたが、音が変わる。
上手く水をくみ上げることに成功した。
見る見るうちに貯水タンクに水が溜まっていく。
……最初の方は水の色が茶色かったな。逃がせばよかった。
今はちゃんと透明な水が流れている。
タンクが満タンまで溜まったらポンプを止めた。
タンクには中の成分を検査する機能が備わっていたので起動させる。
――ウィルスには汚染されていないようだ。
だが飲み水には適さないとあった。
ただ浄水器を通せばなんとかなりそうだ。
ただそっちにも手を入れる必要があった。
きっとミナ一人では実験に加えてこれらの維持はできなかったんだろう。
助けを求めて外に出るわけだ。
こういう、身の回りのことをなんとかしなくちゃ話にならない。
浄水器を分解し、中を確認する。
どうやらパッキンが割れており水漏れの跡があった。
これのせいでエラーを出して動かなくなっている。
デルタシェルターから色々持ってきて正解だったな。
解体してサイズの合うパッキンと入れ替え、更に防水のシールテープをぐるぐると巻く。
これで密封は完璧のはずだ。
元通りに組み立て直し、稼働するのを確認した。
こういう作業は楽しくてつい集中してしまう。
もしかしたら向いているのかもしれない。
かなりの時間、ここで作業していたと思う。
時計を確認すると、三時間近く経っていた。
移動の疲れに加えて、集中が切れて作業の負担がどっと身体にのしかかってきた。
喉も乾いたし、試しに水を一杯飲んでみよう。
浄水器を動かし、水が流れるのを眺める。
先端の小さなタンクに水が溜まってきたので、レバーを回して流す。
備え付けてあったコップをその水で少し洗い、それから溜めて飲んでみた。
味は……普通だな。
おかしな雑味なんかも感じない。
これなら飲用できそうだ。
運んできた水はどれだけあってもいずれ消費しきってしまうから、これで水問題は解決した。
地下水の貯水量は二人で使うなら十分すぎる量があり、シャワーだって浴びれる。
報告しようと内線で実験室の番号を押してミナに連絡しようとしたが、出る様子がない。
おかしいな、集中しているのだろうか。
歩いて探すことにした。
いわゆる広間がレクリエーションルームという場所しかないらしく、後は通路で部屋同士が繋がっている。
こういうのも狭いと感じる要因だ。
室内にいるという意識をどうしても感じてしまう。
実験エリアに入る。
幾つか通路が枝分かれしていたが、とりあえず全部見て行けばいいか。
手前の部屋から確認していく。
感知センサーがあるようで、部屋の前に立つと勝手に開く。
機材は置かれているが、どこにもミナがいない。
奥の方まで来てしまった。通路の奥と右側に扉がある。
右側の扉は開かなかった。
どうやらロックされているようだ。
部屋の名前は……宿直室となっている。
開かないか色々と試したが、専用のキーがないと開かないようになっているみたいだ。
「カイトさん」
「うわっ」
開かないか試していたら、いきなり後ろから声がしてびっくりした。
「そんなに驚かなくても……」
「いや、驚くだろ……」
心臓がバクバクしてる。
振り返ると、制服の上に白衣を着込んでいた。
眼鏡もかけており、なんだか大人びて見える。
「そこは宿直室で、何もありませんよ。ただ私が私室代わりに使ってたので、なんとなく恥ずかしくて鍵をしてあるだけです」
「ああ、そういうことか」
プライベートな部屋にしてあるから鍵をかけただけか。
ミナは奥の実験室から出てきたらしい。
俺が水回りと格闘している間に機材も運び込んでしまったようだ。
「悪いな、重かっただろう」
「いえいえ。それより水の方が大事です。さすがカイトさん、もう直してくれるなんて」
ミナがそう言いながら腕に抱き着いてくる。
柔らかい感触と、なんだか甘い匂いがしてくらくらする。
疲れが溜まっているのだろうか。
「簡単に直せる故障だったよ。まあでもミナ一人で生活してたならそんな余裕もなかったんだろうな」
「そうなんです。生活するだけでも不便な状態で……管理AIも私の権限じゃどうにもできなくて。余裕があるうちに人を連れてこようと思いました」
「それで運よくデルタシェルターに到着したと」
つくづく一人で返すことにならなくてよかった。
俺がいるだけでも十分役に立ちそうだ。




