第27話 ようこそ、ラボラトリーシェルターへ
休憩を挟みながら、ようやくラボラトリーシェルター付近に到着した。
寄り道に加えて予定していたルートが使えず何度か回り道をしたものの、ホバークラフトの燃料がなくなる前に辿り着けてよかった。
「ちょっと待っててください。今からラボラトリーシェルターの入り口を開けますから」
「分かった。荷物の近くで待ってるよ」
「はい、すぐにやってきますね」
ミナは植物で埋まった地面にある小さな進入路のカバーを開ける。
スーツ込みでもなんとか人一人分は通れるようだ。
そこから背後を伝って降りていく。
言われた通り、シェルターの入り口が開くのをじっと待った。
ここに辿り着くまでにそれなりに水を消費した。
まだ十分に余裕はあるとはいえ、これがなくなる前にミナの研究とやらが完成するといいのだが。
外をスーツなしで自由に移動できるようになれば、水の入手はそれほど難しくないだろう。
今は川の水も汚染されているので、飲み水にするためには多大な労力と燃料が必要になる。
命綱の抗ウィルス剤に関しては問題ない。
先に食料の心配をした方がいいくらいだ。
缶詰はあるといっていたけど……。
先のことを考えていると、地面が揺れる。
そして植物や土を押し退けて、大きな入り口が姿を現した。
「カイトさん、入ってきてください」
スピーカー越しにミナの声が聞こえる。
どうやらこれがラボラトリーシェルターの入り口らしい。
ホバークラフトごと入り口に入る。
俺が入った後、すぐに入り口は閉じられた。
真っ暗になるかと思ったが、ホバークラフトの速度に合わせて通路の照明が灯るので問題なかった。
そして待機場のような場所に辿り着く。
そこでホバークラフトを停止させ、荷物をおろした。
隅っこにある台車にまず機材を積み込む。
かなり重いが、落としたら台無しだ。慎重に置いた。
それから残った水や食料も同じように台車に積み込む。
持ってきた荷物がそれほど多くはないので、台車一台に全て積み込むことができた。
少し残っている燃料は……このままにしておいていいだろう。
ピッという音がしてシェルターに繋がる通路が開いた。
通路を台車を押しながら歩く。
道中で白い蒸気が通路に充満した。
消毒がこの通路で行われるようだ。
もう慣れたもので、気にならない。
奥に辿り着く頃には蒸気も排出された。
そしてラボラトリーシェルターに繋がる扉のセンサーが俺に反応し、開く。
「ようこそ、ラボラトリーシェルターへ!」
そこではミナが待ち構えており、クラッカーを鳴らして出迎えてくれた。
精一杯の歓迎……なのだろう。
ちゃっかりスーツを脱いで服も着替えている。
見たことのない服だ。
「あ、これ気になりますか? ここの正職員向けの制服なんですよ」
くるりと回って全身を見せてくれる。
上はジャケットに膝上まであるスカート。
青で統一された色合い。
ミナによく似合っていた。
「カイトさんの分もありますよ。ここで着替えてくれると嬉しいです」
袋に包まれた青い制服を渡された。
こっちはまだスーツも脱いでないというのに。
スーツの計測機器を起動させる。
消毒された後だし、ミナがスーツを着ていないので問題ないだろうとは思ったが、一応念のためだ。
結果は問題なし。
まず頭のマスクから外し、それからスーツをパージする。
これだけで強い開放感を感じられる。
「ちゃんと空調機能もありますからね。デルタシェルターほど立派ではありませんけど、二人だけなら問題ありません」
「二人だけのシェルターか。なんだかもったいなく感じるなぁ」
今まで1000人弱で一つのシェルターにいたのでそんな感想が口から出た。
ここにはミナ以外の他人はいないのだ。
だが、それはミナがここにいた頃はずっと一人だったということになる。
「そういえばミナの両親はどうなったんだ?」
「……実は私が生まれてすぐに病気で亡くなったんです。幸い児童育成プログラムがあったので問題はありませんでしたが」
「そうか、悪いことを聞いたな」
「いえ、構いません。今はこうしてカイトさんもいますから、寂しくありませんよ」
ふふ、とミナは笑う。
まあ両親がいれば、いくら機材がなくてもわざわざ一人で遠くのシェルターまで徒歩で来たりはしないか。
人手が足りてるなら近くの無人シェルターから拝借すればいい。
それから濡らしたタオルで顔や体を洗い、渡された制服に着替えた。
水を自由に使えないというのは厄介だな。
「井戸水を採取する機械もあるんですけど、それも調子が悪くて……修理すれば使えると思います」
「なんだ、井戸水があるんじゃないか。それなら汚染されてないかもしれないな。飲み水はまだあるが、シャワーも浴びたいし先にそっちからどうにかしようか」
「お願いします。場所はこの通路を右に曲がって、真っすぐの場所です。私は実験用の機材を実験室に運んでおきますから。何かあったら内線は生きてますからそれで」
「分かった。ところで……」
周囲を見渡す。
このラボラトリーシェルターを統括しているであろう管理AIが未だに姿を現さない。
デルタのように、余所者が来たら真っ先に反応すると思うんだが。
「ああ、ここの管理AIは休眠状態なので反応はしませんよ。ほら、前に言った科学者同士で対立後に多数の死亡者が出た事件で論理回路に問題が発生して……自己矛盾を抱えてしまったみたいです」
「それで休眠か」
「シェルターの機能は生きてますけど、こっち側からの問いかけには反応しなくなっちゃってます」
まるで人間の鬱みたいな症状だと思った。
AIに生体部分はないので精神的な問題はないと思っていたのだが、学習機能がある以上は何かしら問題が発生するようだ。
「だから気にしなくてもいいですよ、動かなくなった管理AIなんて」
「あ、ああ」
あっけらかんとした態度だった。
ろくに会話もできないAIに対する態度なんてそんなものか。
俺からすれば生まれた時から隣にいる、ある意味家族のような存在なので戸惑う。
まあいい。とりあえずやることをやろう。
その為にここまで来たんだ。




