第25話 儀式の行く末
ブロロロ、という音がホバークラフトから聞こえる。
どうなっているのかは分からないが、地面から浮いて移動しているようだ。
移動速度は……時速20kmはある。
「これならすぐ着きそうだな」
「問題は荷物を積んだ後ですね。多分積載量一杯まで積み込むと思うので」
「……沈んだりしないか?」
「それは大丈夫です。カタログスペックというのは余裕をもって見積もるものなので。ただ、速度はかなり落ちると思います」
それでも歩いて移動するよりはマシだ。
しばらくするとデルタシェルターの搬出口に戻ってきた。
ホバークラフトは道を選ぶので少し回り道になってしまったな。
置いてきた荷物はそのままになっている。
まあ盗む人が地上にはいないので当たり前といえば当たり前なのだが。
ホバークラフトをゆっくりと地面に着地させ、一度電源を切る。
まず燃料を追加し、それから機材と物資を積み込む。
最優先なのはミナがラボラトリーシェルターで修繕に使う物資や研究に使う機材だ。
これだけでもかなりの重量になる。
「水と食料なら水だよな。あっちで水は手に入るのか?」
「飲料用の水はあまり……ラボラトリーシェルターには缶詰とかはあります」
「ならやっぱり水を優先するか」
水と食料を積み込むと積載量の限界まできてしまった。
残念ながら全部は積みこめなかったな。
仕方ない。後でデルタが回収していくだろう。
「ええと、ラボラトリーシェルターに行く前にどこかに寄るんでしたよね」
「ああ。新シェルターの建設予定地に寄って欲しいんだ。本来はいつかそこに行く予定だったから」
ホバークラフトの電源を入れる。
荷を積み込む前よりかなりエンジンの音がうるさい。
重いと抗議しているみたいだ。
地図で方角を確認し、移動を開始する。
最初に比べて速度が落ちてるな。
それでも歩くよりはずっと早い。
……本当に誰ともすれ違わない。
別に疑っていたわけではないのだが、実感するとやっぱりしんみりする。
「どうしました?」
「いや……もしかしたら時間がウィルスをなんとかしてくれたんじゃないかと思ったことがあるんだ。でも、そうじゃなかったのがショックだったみたいだ」
「そういうことですか。ウィルスの世代交代による変異で毒性がなくなるんじゃないかとは言われてましたが、不思議なことにどれだけ時間を経ても人間に対する毒性だけは維持されてるんですよ」
「まるで人間を狙い撃ちにしたみたいなウィルスだな」
「ですね。自然発生とは思えないくらい作為的です」
移動の途中で日が暮れてきたので、一旦ホバークラフトを止めて休息をとることにした。
夜間に無理に移動して事故を起こすのは避けたい。
携帯食料のなかで、なるべく足の早そうなものから食べる。
「寝る前に薬を飲んでおきましょう」
「そうだな……」
食後に赤い錠剤を口に入れ、水で押し込む。
外が温かい時期でよかった。
焚き火をしなくてもそれほど寒くない。
次の日、移動を再開した。
出発してからそれほど時間はかからずに目的地に到着する。
まあデルタシェルターから離れ過ぎたら移動だけで大変だからな。
儀式という名目で外へと出た人たちはここで新たなシェルターの為に巨大な穴を掘る。
……ちゃちな穴かと思ったが、思った以上に掘り進んでいた。
降りるための階段や、掘った後の土を運搬する滑車なども用意されている。
遊びとかただの名目ではなく、本気で取り組んでいたのが伝わってきた。
「あそこに小屋があります」
「行ってみよう」
それは木でつくられたログハウスの家だった。
多少歪だが、しっかりしている。
周囲をぐるりと回ると、奥には墓があった。
……たくさんの墓だ。これまでここに来た人たちのものなのだろう。
小屋の中に入ると、道具などが手入れされて置かれていた。
次に使う人のためということか。
なんというか、中は生活感を感じる。
空になった錠剤の瓶が目に入った。
最後までここで作業をしていたに違いない。
「あ、あれを見て下さい」
「……誰かいるのか?」
誰かが背中を丸め、帽子をかぶった姿が見えた。
前の儀式から5年以上は経過している。
薬はとっくに切れていて生存者はもういないはずだ。
ミナとアイコンタクトをし、そっと近づく。
「お、おい。あんた」
声をかけても反応がない。
ゆっくりと手を伸ばし、肩を叩こうとした。
だがその前に相手が崩れ落ちる。
ガシャンという音がした。
「ひっ」
ミナの悲鳴が聞こえる。
……そこにいたのは骸骨だ。
きっと前回の儀式の最後の生き残りだったんだろう。
ここで力尽きてしまったようだ。
前には机がある。
覗き込んでみると、帰りたい、後は頼んだという一文が書かれていた。
複雑な心境だったのが伺える。それでも後は頼むと託していったんだ。
「……この人も墓に入れてあげよう」
「は、はい」
道具を借りて、新しい墓を作るための穴を掘る。
服ごと骸骨の人を埋めて土をかぶせた。
帽子に刻んであったが、名前はエドというらしい。
突き立てた木の棒に帽子をかぶせて名前を刻めば完成だ。
少しは弔いになっただろうか?
「シェルター用の穴は覗いていきますか?」
「いや、止めておこう。俺たちは一刻も早くラボラトリーシェルターに行って、もうあんな思いをする人が出ないようにしたい」
「……はい。そうですね」
感傷のつもりで寄ったのだが、なんとしてもミナの研究を成功させたいという思いが強くなった。




