第24話 安全確認
ミナと二人で倒れているロボットを確認した結果、リングを取り付けられる場所は二ヵ所しかなかった。
重量やバランスを考えると三ヵ所は取り付けたかったのだが……恐らく床と接している場所に埋まってしまっているようだ。
仕方ないので天井クレーンのフックに繋げたチェーンを移動させ、チェーンの先とロボットの穴をリングで繋いで固定する。
「リングを固定するボルトは完全に締まった後は少しだけ緩めてくれ。後から外せなくなる」
「分かりました」
取り付けたら一旦離れて、天井クレーンを巻き上げる。
たわんだチェーンがゆっくりと持ち上げられ、荷重が効き始める。
やがてピンと張った状態になり、ロボットと繋がったリング部分から持ち上げ始めた。
十分に人が通れる隙間は作れたが、天井クレーンで持ち上げた荷の下を通るのは非常に危険だ。
このまま邪魔にならない場所に移動させたい。
二ヵ所しか引っかかっていないので、ロボットが天井クレーンの力で無理やり立ち上がる。
なのでかなり巻き上げたのにまだ地面からロボットが(※1)地切りできてない。
まあ重心はとれないだろうが、移動するまで持ってくれれば……。
ようやくロボットの足が地面から離れた。
例えるならば背中を摘まれた猫のような感じ。
一旦その状態で止めて様子を見る。
どうやら問題なさそうだ。
開いているスペースへと移動させようとスイッチを押した瞬間、リングで繋いでいる一ヵ所が突然壊れてロボットが傾く。
大きな音がして一瞬何が起きたのか分からなかった。
破片が近くに飛んでくる。
「ミナ、もっと離れろ」
ミナと一緒に後ろへと下がる。
たった一本のチェーンで巨大なロボットを支えている状態だ。
天井クレーンは平気だろうが、チェーンかロボットのどちらかは持たないかもしれない。
もしこっちに倒れてきて潰されたら即死だろうな……。
スイッチを押して少しだけ寄せることに成功したが、そこで限界だったようでロボットは地面に落下してしまう。
工場全体が揺れるような大きな振動の後、ロボットはくの字に折れてしまった。
離れていてよかった。
確認しに行ってみると、リングを取り付けた場所がなくなってしまっている。
チェーンの先で揺れているのがそのパーツだろう。
なんだか悪いことをしてしまった。
だがそのおかげで通れるようになったので、すまんと声をかけて移動する。
資材置き場の扉を開けると、多少の資材が残されていた。
「これで何か作れそうか?」
「うーん、どうでしょう。まず運搬ロボットに車両製造ラインまで運んでもらいます。そうしたら何が作れるかを表示するはずです」
ミナに任せる。
端末を操作すると、小さな運搬ロボットが群がるように集まりあっという間に残っていた資材をすべて運んでしまった。
「あ、出ましたよ」
「どれどれ」
ミナの横から端末を覗き込む。
端末にはいくつかの文字が白く表示されていた。
「これが今作れる車両なのか?」
「みたいですね。ちなみに燃料が手に入らない車は除外してます」
「ああ、だからこんなに少ないのか」
たくさん種類がある中で、表示されているのは四つしかなかった。
「半導体の在庫がないのでいわゆる普通の車は全滅ですね……。デルタもこれのせいで車をくれませんでしたし」
「じゃあ何があるんだ?」
「蒸気自動車みたいなやつと、後は陸上用のホバークラフトです」
蒸気自動車……恐らくスイッチのオンオフとハンドル操作くらいしかできないと思われる。
これなら確かに半導体も必要ないだろう。
ホバークラフトは海で使いそうなものだが、陸上用もあるのか。
「どっちがいいと思う?」
「頑丈なのは蒸気自動車だと思いますけど、燃費が悪すぎますね。石炭は足りても、そもそも道中で水を補給する方法がありません。飲み水を入れるわけにもいきませんし」
「つまりホバークラフトか」
「こっちはこっちで重量に制限がありますけど……歩いていくよりはマシです」
「じゃあやってくれ」
「はい。製造ボタンを押します」
ミナが端末を押すと、遠くの方で音がし始めた。
機械が稼働してホバークラフトを製造しているようだ。
「見に行きましょうか」
「そうだな。完成するまで暇だし」
二人で音のする方へと移動する。
自動工場の名前にふさわしく、機械が全自動でパーツをくみ上げていく。
人の手を介さず物を作り上げる姿は頼もしさすら感じた。
人類が地上からいなくなっても、彼らはここで待機し続けていたのだ。
「完成したみたいです。搬出口に移動してますね」
「早いな」
外へと繋がる搬出口にはホバークラフトが置いてあった。
今完成したばかりの新品だ。
「カタログスペックは……完全バイオマス燃料で搭載量は250kgほど。重すぎると地面から浮かないのでこれが限界みたいです」
「燃料も積まなきゃいけないから思ったより物は積めないな」
「小さな二人用しか作れませんでしたから、仕方ないです。燃料的にはラボラトリーシェルターに移動する分には問題なさそうかな」
次々と工場ラインから固形物が運ばれてくる。
これがバイオマス燃料とやらか。
まずミナが乗り込んだら、ホバークラフトに燃料を入れて鍵を回す。
エンジン音の後に、少し浮いた。
問題なく動くようだ。
燃料を積み込み、外に繋がるシャッターを開ける。
「カイトさん、乗って下さい」
「ああ!」
ミナが伸ばした手を掴み、ホバークラフトに乗り込む。
そして前に動き出した。
ホバークラフトは工場を出て、勢いよく進む。
「へぇ、小さいのに結構速いな」
「道は選びますけどね。それじゃあ物資を回収するために一度デルタシェルターに戻りましょう」
「だな。乗り物が確保できてよかった」
後ろを向いて工場へと振り返る。
どんどんと小さくなっていく。
自動メンテナンス機能があるとはいえもう資材がなくなり、後は朽ちていくだけだろう。
もしミナの研究が上手くいったら、どこかから資材を調達してまた動くようになればいいのだが。
運搬ロボットがこっちを見ている。
見送ってくれているのか?
やがて距離が離れて見えなくなった。
(※1)地切り 吊り荷を地面から僅かにつり上げ、安定を確認すること




