第23話 工場といえば天井クレーン
……目を開けると、見たことのない天井が目に入る。
一瞬ここはどこだと思ったが、すぐに自動工場の中で仮眠をしていたことを思い出した。
身体を伸ばし、凝った身体をほぐす。
寝袋は残念ながらベッドほど寝心地はよくなかった。
じわじわとシェルターを出たという事実を実感する。
良いか悪いかはともかく、もうあそこに戻ることはできない。
(ミナは……いた)
シェルターを出ることになった切っ掛けであるミナは、隣で気持ち良さそうに眠っていた。
すやすやと静かな寝息を立てている。
思えば、彼女の方が俺よりよほど重荷を背負ってるんだよな。
なんせ、彼女の目的は人類再興に繋がるウィルス撲滅だ。
もし成功すれば、人間はもうシェルターの中に閉じ込められなくてすむ。
デルタが管理していたシェルターは完璧だった。
きっと百年後でも維持されているだろう。
人類が絶滅することはないが、同時に1000人という定員が増えることはない。
儀式による新しいシェルター建設が成功すれば話は別だが、いつになるかは誰にも分からない。
だから俺はミナの話を信じてここまできた。
水の入ったペットボトルを手に取り、水を飲む。
今は十分な量があるとはいえ、考えて飲まないといけないな。
ラボラトリーシェルターでも手に入るといいのだが。
「おはようございます……」
ふにゃふにゃした声でミナが朝の挨拶をしてきた。
チョコレート(っぽいなにか)を朝食代わりに食べて、再びスーツを着込む。
こればっかりは本当に大変だ。
ミナはラインハッキリわかるボティスーツなので目のやり場に困るし。
「次の目的地は、資材が残ってそうな封鎖されてる小部屋か」
「はい。ラインはまだ生きてますから、資材があれば車や燃料も製造できるかと」
「車はともかく、燃料は本当に作れるのか?」
「ガソリンや軽油みたいな液体ならもうダメになってますけど、こういうところなら長期保管のために固形化してるはずです。ほら、バイオマス燃料とか石炭とか」
「ああ、なるほどな」
車の歴史は長い。
燃料も様々なものが使われていたはずだ。
中にはそういうので動くものがあってもおかしくない。
製造する時にそれで動くようにしてやればいいというわけか。
「頭いいな」
「えへへ。そうですか?」
褒めると皆が嬉しそうに笑う。
俺はてっきり燃料が全部ダメになってるんじゃないかと、不安になっているだけだったのに。
やっぱり色々な知識や視点を持たないとダメだな。
もう黙っていても答えを教えてくれるデルタはいないんだ。しっかりしないと。
食品部門から離れ、目的の場所へと移動する。
工場というだけあって案内もしっかりしており、迷うことはなかった。
だが、あと少しというところで足止めを食らう。
「あちゃー。これは確かにメンテナンスロボットじゃどうしうもないですね」
「ああ……」
大型機械の製造を担当していたらしき巨大なロボットが倒れて通路を塞いでいた。
その奥に目的地の資材置き場がある。
人間の力ではビクともしない。ずらすのも無理そうだ。
「天井クレーンを使いましょう。スイッチを探してください。繋がっている線がないので無線だと思います」
「分かった」
上を見ると巨大なフックがぶら下がっていた。
限界荷重は15tと書かれている。
道を塞いだロボットがどれだけの重さかは分からないが、試してみる価値はありそうだ。
ミナと手分けしてそれらしいものを探す。
するとトロッコのような台の脇に吊るされていたスイッチを発見した。
試しに起動させようとするが反応がない。
「充電切れみたいですね」
「まあ、長年放置されてたもんな」
「バッテリーが生きてればいいんですが……」
コンセントに繋ぎ、充電を開始する。
充電に反応があった。だがどうやら充電中は操作できないようにロックが掛かるらしい。
安全のためだろうか。
床に腰かけて充電を待つ。
「あ、今のうちにメンテナンスロボットの命令を変えちゃいます。せっかく資材が手に入ったのに工場の修繕に使われたら困りますから」
端末を開き、ミナはそれを工場と繋げる。
先ほどセキュリティを破ったので命令変更に必要な管理者権限も問題ないようだ。
それが終わる頃には充電も終わっていた。
起動ボタンを押すと青いランプがつき、天井クレーンに繋がる。
試しに北のボタンを押すと、ゆっくりとモーターの音と共に動き出した。
……シェルターで使っていたものはもっと反応が良かった。
こっちはなんというかラグがある。
ボタンから手を放しても少しの間動くし、癖があるな。
天井クレーンをまずこっちに寄せて、フックを手の届く所まで降ろす。
「ええと、通路を塞いだロボットを引っ張り上げるために吊り具が要る。ああいう重量のあるものならリングをとりつける場所があるはずだから、それを探そう」
「リング、ですか?」
知らない人間に説明するのはちょっと難しい。
とりあえず吊り具置き場が見つかれば一緒にあるはずだ。
端っこの方で発見した。
布製のスリングだけではなく、ちゃんとしたチェーンもある。
一番頑丈そうなチェーンにリングが備え付けられていた。
これならあのロボットも持ち上げられるだろう。
ミナと一緒にリングを取り外し、倒れたロボットの傍に移動する。
「このリングを通す穴があると思う。それを探してくれ。倒れているから四つ全部は見つからないかもしれない」
「分かりました。探してみます」




